第5話

 メテオって、あのメテオかな? 隕石振ってきちゃうのかな? しかもスウォームって単発じゃないってことだよね? 


 前世で、ガチャを沢山引くために副業でもやろうかと、金融証券について調べていた時期があった。さして興味を持っていなかった世界情勢の情報も、必須だというので同時に調べていたのだが、丁度そのときに起きたのが、アイスランドの火山噴火だ。

 噴火によって火山灰がヨーロッパ中に降り注ぎ、農作物や牧草へ被害を及ぼした。それだけじゃなく、火山灰が大気中に留まり、数年にわたり太陽光をさえぎることで、冷害を発生させるという話があった。食物の供給が不安定になり、情勢が不安定になる。そうなると経済にも影響を及ぼすのだという。世界のどこかで起きた噴火一つで不安定になるようなものに金はかけられない、としみじみ思ったものだ。

 経済への影響はともかくとしても、ここで気がかりなのは冷害だ。古くは、恐竜が絶滅したのは、隕石により粉塵が舞った結果起きた冷害による、というではないか。


 こりゃメテオスウォームは死蔵だな……。せっかくのURが……。

 メテオスウォームと同列の技の龍殺斬ってどんな技なんだ? 同じような威力だとしたら気軽に使うわけにはいかないな。とりあえず、手に入れたスキルをまとめてみよう。


 N 剣術

 N 言語-大陸共通語

 N 手話-大陸共通語

 N 火術

 N 採取

 R 行動観察

 R 回避

 SR 詠唱変換-印術

 SR+ エステティック

 UR 極剣技 龍殺斬ドラグスレイヤー 

 UR 地術極 メテオスウォーム


 残念ながら、精神耐性は手に入れることができなかった。少し気がかりではあるが、今のところ、これといって影響があるようには思えないので、まあよしとしておこう。

 それはともかく、”火術”、魔法だ! 前世では死ぬまで未経験だったので魔法使いの資格は得ていたのだが、残念ながら魔法を使うことは叶わなかった。何が未経験だったかはあらためて語る必要は無いだろう。……やなことを思い出したら、爆上げだったテンションもだだ下がりだ。

 さて、気を取り直して”火術”のテストだな。室内で火を扱えるのはリビングにある暖炉が無難かな? 暖炉の前に移動して両手をかざす。……どれくらいの威力なのかな? これから使おうとしているのは”ファイア”という魔法だ。単純に火が出るだけっぽい。ただ、どれくらいの火が出るのかがさっぱりわからない。スキルを得て使い方は自然と理解できている。だいたいどんなものなのかもわかる。ただ、威力の程がわからない。暖炉の中で火が収まらずにこちら側にくるんじゃないか? という恐怖感があり、なかなか魔法を使う踏ん切りがつかない。

 使い方に関しては一個一個手順を説明しろと言われると難しい。手馴れて素早くできる作業を、敢えてゆっくりするとやり方がわからなくなるような感じだ。例えると、複雑なパスワードを手で覚えて入力しているものを敢えてゆっくり入力するとわからなくなる感覚、と言って伝わるだろうか? ちなみにメテオスウォームの使い方を説明しろと言われたら、グーンってやって、シュンっとなってヒュンとしてドーンってなってバーン、である。

 ”火術”は急いで使う必要も無いし、外で使うチャンスが来るまで待とうかな。なんか気持ちが後ろ向きだな。まるで前世の頃のようなビビりっぷりだ。最近はスライム式トイレも謎の肉料理も気にしないでクリア出来ていたから、ビビりは治ったと思っていたが。……ひょっとしてこれは精神耐性が無い弊害か? だとしたらちょー便利だったな! 精神耐性! 

 あれ? ひょっとしてグロ耐性も精神耐性に含まれるのかな? それが無いととてもモンスターを狩れる気がしない。カルマ値どうやって貯めたらいいんだ! よし、一回落ち着こう。まだ慌てる時間じゃない。この世界のモンスターはもしかしたら倒せばアイテム残して消えるゲーム的設定かもしれないじゃないか。

 ガチャはまだ11連を2回する余裕がある。引けばいいのだが、何でカルマ値を稼げているかが不明なのと、カルマ値にマイナスがあった場合どうなるかわからないのが問題だ。俺は決して善人ではないし、前世の最後のようなポカをやらかさないとも限らない。どれくらい余裕を持っておけば良いのかがわからない。

 それに……ひょっとしたらレア二倍イベントなんぞあるかもしれない。安定して手に入れられない以上、効率的に運用していきたい。なんせ俺の生涯に稼いだカルマ値が、運ちゃんとにーちゃんの運勢を左右するのだ。トータルで多い方が良いだろう。太く短くより、細く長くいこう。うん! ビビり的発想だ! 

 言い訳になるかもだが、ビビりって生きる上では大切だと思うのだよね。決してカッコよくもないし、英雄的でもないけど、生き物の目的が種の保存だとしたら間違った生き方じゃないと思うのだ。ただ、ここで一つ勘違いしてはいけない。危ないこと、危険なことが起きたら頭を抱えてうずくまって、ただ過ぎるのを待つのがビビりではない。そういった状況に追い込まれないよう、つまり、詰まないように立ち回るのが真のビビりだ。前世じゃ池袋なんぞに近づかなかったね。カラーギャングが抗争やってるんでしょ?


 話が脱線しまくったが、スキルの検証だ。”採取”は薬草などを採取する際に上手にできるよう補正がかかるスキルのようだ。それに加えて採取方法などの知識も得られている。このスキルを応用すると雑草も効果的に抜けるな。草取りのお手伝いなら子供がやっても怪しまれないだろう。後で申し出てみよう。

 ”行動観察”は戦闘系の補助スキルのようだ。相手の動きを観察し、次の攻撃を予測出来るようになるみたいだ。観察してない動きには対応出来ないようだな。

 ”回避”も戦闘系の補助スキルだな。相手の攻撃を避ける動作に補正が付く。

 ”詠唱変換-印術”これは、口で唱える呪文を手で組む印で代用できる、というものだ。つまり、忍者だ。忍者ごっこができるスキルだ。パッと思うところ有用性を感じないスキルだ。両手がふさがってしまうのが致命的に感じる。手で武器振り回しながら呪文唱えた方が良いよね。

 これだけ見ると、俺の戦闘スタイルは「相手に攻撃させて、回避でよけながら観察し、手札を使い切ったところで、カウンターを当てていく」というのが固い戦法だろう。1対1ならだけど……。

 複数に囲まれたら基本逃げよう。そうしよう。


 ”極剣技 龍殺斬ドラグスレイヤー”。これは魔力を剣に集め、錬る。その錬った魔力を一気に解き放ちながら、剣閃を飛ばすというもの。解き放たれた剣閃はあらゆる防御を突破し、最高の一撃を加えるもののようだ。この世界のドラゴンは特殊な防御壁を展開しているらしい。これはそれすらも突破できることからこの名前のようだ。やっぱり威力や範囲がわからんが、剣閃である以上限度があるだろう。どこかで試してみたいものだ。

 ”地術極 メテオスウォーム”はやはり連続して隕石を落とす魔法のようだ。先ほどは慌てたが、落ち着いて考えればスキルの内容はわかるな。まぁ結局威力はわからないんだけどね。隕石と言っても規模によって被害はまちまちだ。民家に落ちて屋根に穴を開けたってニュースを見たことがある。その程度なら良い。命中さえすればむしろ使いやすいスキルだ。地術極なんて代物がその程度だろうか?

 そして、この二つについて、ある欠点が今わかった。

 必要なMPが圧倒的に足りない。攻撃のアクティブスキル……魔法にしろ剣技にしろ、MPを消費するようだ。感覚的にこの二つのURは、俺の今あるMPを10倍しても足りないとわかる。使う使わないで悩んでいたが、結果として今は使えないことがわかった。


 最後に残った”エステティック”についてだが、これはもう日本にあるエステと同じだ。美顔マッサージだの、疲労回復マッサージだの、アンチエイジングだのそういった部類のものだ。これは試せるかな? 技術系のスキルはMP消費は無いようだ。ラグさんに手伝ってもらって検証しよう。

 家の中でラグさんを探そうと後ろを振り返ったら、ダイニングテーブルの上でまったりしていた。


「ラグさーん、ごめんだけどスキルのテストしたいので手伝って。エステティックってスキルなんだけど、気持ち良いマッサージが出来るスキルっぽいの。」


 おぉ! めっちゃ普通にしゃべれる。スキルってすげぇなぁ。ラグさんも驚いた顔していたが、やがて納得したのかこちらに近づいてくる。仕方ないから協力してやるわ、って感じで背中を向けて目の前に座った。


「じゃぁ、行くよ~」


 スキルを使用し、ラグさんの背中を撫でていく。丁度良い力加減が分かるのでそれに合わせてやっていく。ここを撫でたら気持ち良いというポイントも押さえていく。ラグさんの反応を見て、その都度修正を加えていく。ラグさんは座りながら、ぐねぐねと体全体を揺らしている。気持ち良いはずなんだけど、どうだろう?


「ラグさん、どうだい?」


 ラグさんは ハッとこちらを振り向いて、 やるじゃない。もうちょっと試されてやるわ。 って感じで、今度はお腹を上にして寝っ転がった!

 おおおぉ! ラグさんが俺の前でお腹を上にしたのは初めてだ。感動しているとラグさんから さっさとしないさい っという目線が飛んできた。先ほどと同じように撫でていく。ラグさんが次第に目を細め、ゴロゴロと喉を鳴らして鳴きだした。いいわぁ、いいわぁ もっと もっとよ。そう言われたような気がしたのでもっとやっていく。今度はラグさんが手のひら? をぐーぱーって感じで開いたり閉じたりしながら空中をふみふみしている。こ、これは! 猫がリラックス全開で飼い主に甘えているポーズ! 


「ええのんか? これがええのんか?」


 と、テンションが上がってきた俺は訳の分からないことを言いながらラグさんを撫でまわした!

 ハッとして顔を上げるとかーちゃんが驚いた顔してこちらを見ていた。これはあれかな? 俺が流暢にしゃべっていることに驚いているのかな? それともラグさんがこんなにリラックスして甘えているのに驚いているのかな?


「シンクちゃん」


 かーちゃんは真剣な顔して続けた。


「猫とは結婚できないのよ?」


 かーちゃんよ。どーしてそうなった?

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