第10話

 目が覚めると、まだかーちゃんに抱きしめられていた。かーちゃんもそのまま寝てしまったのか、ダイニングの椅子に座った状態だ。とーちゃんは床に転がっている。ラグさんもその横で仰向けになり、大の字になって転がっている。身動きが取れない。時刻を確認するため、携帯を出す。7時か、そろそろみんな起きないといけない時間だ。ガチャでレア2倍が来ていないか一応確認するためにアプリを起動させる。来てないっぽいなぁ。うん? 今まで気がつかなかったが、画面の左上隅になにやらボタンのような表示があるな。押してみると「ステータス」と「ログ」書かれたメニューが表示された。えぇ!? まさかまさか…… 恐る恐る「ステータス」タップしてみると、画面が切り替わり、俺のステータスが表示された。


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 名前:シンク 


 Lv1


 HP  9/9

 MP  4/4


 力   2

 魔力  1

 素早さ 3

 器用さ 2

 体力  2

 精神  1


【攻撃スキル】

 剣術 Lv1

 火術 Lv1


【攻撃補助スキル】

 行動観察 Lv1

 回避 Lv1

 詠唱変換-印術 Lv1


【極スキル】

 極剣技 龍殺斬

 地術極 メテオスウォーム


【生産スキル】

 採取 Lv1


【技術スキル】

 エステティック Lv1


【パッシブスキル】

 言語-大陸共通語

 手話-大陸共通語


【特殊】

 携帯-スキルガチャ

 スキル取得不可-習熟

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 おおお! 見える、見えるぞ! あ、これを使えば消費MPが計測できる! っていうかステータス低い! 他人と比較するまでも無く、1~2は低いだろう。あぁそうか3歳だもんな。お、よかった、知力って項目がない。つらい現実を見なくてすみそうだ。うん、精神が低いのは知ってた。ビビリだもんね。何はともあれ、取得したスキルもこれで一覧管理できるな。続いて「ログ」を確認してみる。こっちはガチャで何を引いたかの実績が書かれていた。ガチャを引く回数増やしていくと、把握しきれないときもあるだろうからな。これはこれで便利そうだ。

 そうこうしているうちに、かーちゃんが目を覚ました。


「あら? あのまま寝ちゃったのね。シンクちゃん、おはよう。」


「かーちゃん、おはよう。」


 かーちゃんが起きて、我が家の朝は動き始めた。とーちゃんを起こし、朝食に昨日の残りのパンを食べる。とーちゃんが出かけていったすぐ後、俺も出かけようとしたところで、かーちゃんに呼び止められた。


「シンクちゃん、ちょっと待って。これを着けて行ってちょうだい。」


 そう言ってかーちゃんから渡されたのは、ブレスレットだ。


「それは最大MPを少しだけ増やしてくれるものよ。初級の装備だけど、今のシンクちゃんには役立つはずよ。」


 おお! それはとても助かる。現状MPは4しかない。火術のスキルを検証しようにも、またぶっ倒れてしまうのが落ちだ。早速、腕につけてみる。シュッ! と音を立ててブレスレットが腕に巻きついた。サイズは自動調整なのか! 便利でよいね。


「ありがとう! かーちゃん! いってきます。」


「いってらっしゃい。シンクちゃん。」


 かーちゃんに見送られながら広場を目指す。道すがら携帯を取り出し、ステータスのMPを確認してみると、34となっていた。ブレスレットによって30増えた計算だ。これは大きい。おおっと、ながらスマホはダメだな。一回死んだのに反省が生かされてないなぁ。

 広場に着くとレンファさんは不在で、ギースさんが子供たちの面倒を見ていた。ギースさんは子供たちに若干距離を置かれている。ギースさんはひょろっと背が高く、見下ろし気味になってしまうのも問題かな。真面目なのは分かるけど、眉間に皺が寄って、見るからに気難しそうな雰囲気出してるしな。


「ギースさん おはようございます。」


「うむ、シンク。おはよう。」


「今日、レンファさんはどうしたんですか?」


「レンファは調子が悪いようなので、家で休んでいるよ。代わりに私が来たというわけだ。」


 なるほど、なるほど。あの元気なレンファさんが調子が悪いというのは心配だ。しかし、代役のギースさんは、子供たちとの距離を測りかねて離れている。あれではやりづらかろう。ちょっと距離を詰める協力をしてあげよう。


「みんな おはよう~」


「「「おはよう。」」」


「今日はレンファさんじゃなくて、ギーたんなんだね。」


「「「ぎーたん?」」」


 慣れない響きに目を丸くする子供たちに、聞き取りやすいように大きくはっきりと告げる。


「ギースさんのことさ! うちのかーちゃんがそう呼んでたよ。ね、ぎーたん。」


「ぎーたん?」「ぎーたんだって!」「うふふ、ぎーたん!」「「「ぎーたん!ぎーたん!」」」


 本人には思いっきり嫌そうな顔をされたが、子供ってのはそういうリアクションが大好きなもんだ。言っても怒られない、その上いいリアクションをしてくれる。そんなギースさんの周りにたちまち子供は集まり、楽しげにぎーたんぎーたん言っている。


「シンク、図ったな!? ……ふぅ。でもまぁ、助かった。では、始めるので準備しなさい。」


「「「は~い」」」


 みんな素直だな。前世の俺ならきっと、殴られるまで言い続けていると思う。かーちゃんが、ギースさんには可愛さが足りない、ということで足した可愛さが”ギーたん”という呼び方だ。子供と接する上で、可愛さって重要なんだな。かーちゃんの凄さを改めて感じた。さて、せっかくギースさんがいるんだし、あれこれ質問してみよう。


「ギースさん、”ファイア”の消費MPって分かりますか?」


「”ファイア”か。”ファイア”は2だな。主要な技、術の消費MPは一覧にしてあるから、あとで見せてやろう。他にも、自分のステータスを計測する鑑定紙という紙があるから、それを使って今のMPを計測してみると良いだろう。鑑定紙には種類があり、レベルやHPやMPが把握できるもの、ステータスまで把握できるもの、スキルも含めてすべて把握できるもの、とある。子供のうちはステータスは日々変化するので、あまり見る必要は無い。スキルも自分で把握できるから、レベルとHP・MPが把握できる鑑定紙で十分だ。因みにだが、レベル、HP、MPだけのものを一般的に鑑定紙、ステータスまで分かるものをステータス鑑定紙、スキルまで分かるものをスキル鑑定紙、と呼ぶ。うちに幾つかあるから、後で使ってみるかね?」


「大丈夫です! 家にあるのを使って把握したので。MPは4です。」


 冒険者をしていれば、鑑定紙とやらは必須アイテムだろう。ならばきっと、うちにも多少は残っているだろうから、それを使ったということにしておこう。今の話の内容からして、その手段以外では正確に把握する術は無さそうだ。この世界の普通の人はたぶん、携帯なんて言ったってイメージ湧かないだろうしな。


「あと、このブレスレットをつけているので、今はトータル34ですね。」


「ふむ。うん? シンクは計算も出来るのか。すごいな。それなら”ファイア”と”スラッシュ”は、合わせて10回以内であれば使って問題ない。”スラッシュ”も消費MPは2だ。」


「はははっ、天才ですから、計算くらい任せてください。本来17回使えるところを、数え間違いなどの発生を考え、安全を見て10回ってことですね! 了解です! なるべく数え間違いを防ぐよう、やった分だけ地面に横線を描いていきますので、ご安心ください!」


 17回使えるところ7回も捨てるのは多いかもしれないが、『安全』に関しては殊更しっかりしていきたいと思う。何せ、前世ではよそ見運転をして事故を起こしたのだから。先ほども、ながらスマホをやってしまったばかりだ。うっかりMP枯渇になろうものなら心配もかけるし、いろいろ面倒なので避けたいところだ。

 俺はまさに、これくらい大丈夫だろう、という『安全』を軽視した発想のもと事故ったのだから、同じミスは絶対に繰り返さないようにしていこう。それに、手段まで提案しておけば大人は安心するし、信頼も勝ち取れる。先に信頼を勝ち取れれば、後々自由に練習できるだろうしな。携帯見ながらやるには、とにかく一人になる必要がある。それまでは慎重にいこう。


「あ、あぁ。そうだな。それでやってくれ」


 若干ひきつった顔でギースさんが言った。そんな感じで練習が終わり、一度家に帰って昼飯を食べ、午後は普通の遊びの時間だ。追いかけっこだとか子供らしい遊びをあれこれしていたら、あっという間に夕食の時間になった。


「レンファが妊娠したそうよ。」


 と、かーちゃんが言った。ほほう、調子が悪いって、妊娠してたからだったのか。


「そうか! そいつはめでてぇな! そーするとヒロはお兄さんになるってことか。……シンクは兄弟ほしいか? 出来なくても、かーちゃんにはあたらないでくれ。それは俺が悪いんだ。」


 うん? とーちゃんに原因があったのか? 種なしってやつか。うむうむ、子供が出来ない夫婦で奥さんだけ頑張って不妊治療していたが、実は旦那に問題があった、って話はよく聞くからな。男が産婦人科で診てもらうことに抵抗があって、非協力的になるってやつ。とーちゃんはちゃんと見てもらったのかな?


「あれは誰のせいでも無いわ。自分を責めないで。」


 かーちゃんがとーちゃんの肩に手を置いて言った。


「あれって?」


「うーむ……シンクは、俺たちが冒険者だったって話はもう知っているよな。これは最後の冒険の時の話なんだが、とーちゃんはかーちゃんを守れず、大きな怪我を負わせてしまったのさ。それが原因で子供が出来づらくなっちまってな。だから、守れなかったとーちゃんが悪いってわけさ。」


「あのアンデッドの群れにリッチがいたなんて情報、どこにもなかったんだもの、仕方ないわ。レンファもギーたんも、そしてベンノもみんな責任を感じ過ぎよ。」


 そんなことがあったのか。リッチか、如何にも強そうなアンデットだな。


「そのリッチは倒せたの?」


「それがね。パパがバチコーンってやったら逃げちゃったのよね。」


「俺の一撃で結構ダメージを与えたんだが、やつにはまだ余裕があったはずだ。それなのに退いて行った。ギースが言うには、恐ろしく慎重なやつらしい。ちょっとでも危ないと判断したら退いちまうようだと。リッチの情報がどこにもなかったことや、ベンノが偵察時に見つけられなかったことも、慎重に慎重を重ねて己を隠していたからに違いない、とさ。そんなやつだから、誰にも討伐されずにまだ生きているかもな。」


 ほうほう。そいつにはメテオ使っちゃっても良いよね? カルマ値を稼ぐためにモンスターを倒す、ということは漠然と決まっていたものの、これといって具体的な目的は無かったのだが、どうやら一つ見つかった。メテオは冗談にしても、まずはかーちゃんに重症を負わせたっていうリッチを見つけて、倒そう。


「ベンノはまだアムリタを探しているのかしらね? どこかで幸せに暮らしてくれていると良いのだけど。」


「アムリタって?」


「アムリタってのは、あらゆる怪我や病気を治すといわれている霊薬だな。かーちゃんが子供が出来なくなったって話が出た時に、索敵担当だったベンノは特に責任を感じていてな。ある日、置手紙をしていなくなっちまったのさ。”アムリタを探してくる”と、そう手紙には書いてあった。その後、ベンノを方々探したが見つからなくてな。シンクが産まれたって話も、手紙は冒険者ギルド経由で出しているものの、届いているのかどうか。未だ返事がないんだよ。間違いなく一緒に喜んでくれるはずなんだが。」


 2つ目的追加だな。ベンノさんとアムリタを探す。ぜひ、かーちゃんには俺以外の子供も作ってほしい。あ……でもかーちゃんは確か今26歳だ。俺が15歳で成人する頃は38歳で、そこからアムリタを5年で見つけたとしても43歳か……。4つ目の目的として、若返りの薬とかも一緒に探すしかないな。

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