第4話 厄介

 俺はリブラに肩を貸してもらいながら家まで帰った。久しぶりに倒れるまで異能力を使ったので体が鉛のように重く感じた。


道中つけられることもなく、無事に帰ってくることができた。




 リブラには道中で何があったのかを話したがやはり苦い顔をしていた。


 再確認したが、氷を操る異能力者はこちらの世界には来ていないらしい。つまりあの少女はアビリティストーンを拾った人間なのだろう。


 しかも俺たちに対して、明らかな敵対行動をとった。それどころか俺のことを殺すつもりで来ていたのだ。




 一応葉島にも電話をして無事を確かめた後に今回のことについて説明と忠告をしておいた。俺が狙われた以上、葉島にも危険が及ぶ可能性が高い。


 俺たちはその日、遅くまで話し合ったが結局結論を出すことはできなかった。






  ※






 次の日の朝、俺は何とか起き上がって怪我の具合を確認する。肩や頬につららがかすっていたのだ。しかも異能力を限界まで使ってしまった。けがはある程度治っていたが、今日からしばらくは激しい動きができないだろう。




「とりあえずレン、その少女のことは私に任せてください。それとメイとあまり離れすぎないように注意してください。次あなたが一人で襲われたら、本当にまずいですので」


「ああ、今日はおとなしくしているよ。運よく体育の授業はないからな」




 今日はずっと座学が続くので、特に体に負担をかけるようなことはないだろう。リブラはネックレスへと変身し俺がそれを首にかけ学校へと向かう。しかしたちは寄り道をして学校に向かうことにしていた。


今日は葉島と待ち合わせをして登校することにしたのだ。昨日のことについて改めて話すためでもある。




「おはよ、水嶋君、リブラ」




 そう言いながらこちらへと葉島が駆け寄ってくる。一見元気そうに見えるがよく見るとどこか不安げだった。




「ああおはよう葉島」


「おはようございますメイ、そちらは大丈夫でしたか?」


「うん。特に変わったことはなかったよ」




 狙いが俺一人なのか、それとも三人のことを狙っているのかわからない。


 しかしあの少女はまず俺のことを狙い、そして次は殺すと言っていた。だからこそ次も俺が真っ先に狙われると思っている。


 それはリブラも同じ考えで、だからこそ俺たちはリスクを減らすためにあることを相談した。




「メイ、今回の件なのですがあなたはあまり関わらない方がいいでしょう」


「え!? なんで・・・」 




 そう言って葉島が先ほどよりも不安そうな顔を見せてくる。仲間外れにされたとでも思ったのだろうか。以前もそこらへんでこじらせていたためリブラはすぐに誤解を解こうと慌てて説明を始める。




「恐らくですが敵の狙いはレンの方です。どうやらご丁寧に殺害予告までされているようなので。リスクを減らすためにも、メイにはおとなしくしていてほしいのです」


「そんな・・・私たちは仲間だって言ったじゃん!」




 やはり俺たちの予想通り、葉島は怒り始める。アズールの件を通して葉島は俺たちの中で一番仲間思いになっただろう。以前と比べてまるで別人のようだ。しかし、だからこそ余計なリスクは減らすようにしたい。




「敵はね、強かった。俺でも歯が立たないくらいに。だからこそ、葉島には今回は待機していたほしいんだ。もしあいつが学校に乗り込んでくるような奴だったら俺だけでは対処ができない。だからこそ葉島には今回守備とバックアップに徹して欲しいんだ。そうじゃないと、俺たちは満足に戦えないかもしれない」




 俺は身体強化によってあのつららの攻撃をよけることができた。しかし葉島が戦う場合、あのつららを正面から防御しなければならない。こんなことは本人には言えないが、あのつららの攻撃力は葉島の防御力を上回るだろう。直接戦った俺だからわかることだった。そしてそんなことになれば俺たちは一網打尽にされるだろう。




「あの敵とは肉弾戦になりそうなんだ。だから葉島の異能力は向いてないかもしれない。それにまだ異世界人がどこかに潜んでいる。俺たちがこっちに集中する間異世界人の方にも警戒してくれる人材が必要なんだ」




 そう言って俺は葉島に懇願する。葉島も俺たちの熱意に負けてしぶしぶ了承してくれた。


 そんなやり取りをしていた俺たちはすぐに学校についてしまった。




「え、とうとう一緒に登校してきてるよあの二人!」


「もうそんな関係に!?」


「ほ、本当に付き合っていないんだよな!?」




 教室に入った瞬間に俺たちに注目が集まる。やはり葉島は目立ってしまう。だから今回は葉島を迂闊に動かさない方がいだろうし、俺の一緒にいるのは避けるべきだろう。


そんなことを考えていると相変わらず誰かが俺の席へ向かってくる。




「蓮! お前とうとうやりやがったな!」


「まさか同伴出勤なんてね」




 吾郎と龍馬がそんな事を言って茶化してくる。というより吾郎に関してはちょっと怒りがこもっているな。




「朝偶々一緒になっただけだよ。ちょっとした世間話をしていただけだ」


「世間話?」


「ああ、今度は英検に挑戦してみようかなだって」


「あ・・・うん。そうなんだ」




 やはりこの二人も勉強の話題は聞きたくないようで、苦い顔をしながら遠い目をする。




「そういえばお前ら二人、成績の方は大丈夫なんだよな?」


「僕は問題ないんだけど、吾郎が・・・」


「その話はやめてくれー!」




 どうやらこの前のテストも赤点ギリギリだったらしい。というよりギリギリアウトだったものを先生の恩情によって見逃してもらえたらしい。




「勉強・・・教えようか?」


「・・・・・今度頼むわ」




 そんなやり取りをしながら俺たちはホームルームまでくだらない話を続けるのだった。






  ※






 授業中俺は昨日のウィッチと名乗るあの少女のことを思い出していた。




(強かったな・・・あの子)




 異能力のすさまじさはもちろんだが、何より注目すべきはその身体能力だろう。間違いなく何かしらのスポーツ経験者だ。でなければあんな動きはできないだろう。




(空手・・・それとも剣道か)




 柔道とも考えられるが、俺自身に武道の心得がないのでよくわからない。だが、素人目にも彼女の技量がすさまじいレベルにあるということはわかった。


 氷の刃を二刀流で操り、予想を上回る体術で俺を翻弄。さらには創り出したつららを浮遊させて追撃。




 弱気になってしまうが勝てるビジョンが今のところ浮かばない。もしかしたら体捌きだけでなく異能力の扱い方も俺より上手かもしれない。


 なんとなく、あの少女はアズールよりも格上なのではないかと思ってしまう。アズールとあの少女が戦ったら、あの少女に軍配が上がるような気がした。正直リブラでも相性が悪いのではないか。




(それに・・・あれほどの殺意)




 どこかで俺は彼女に会ったことがあるのだろうか。知らないうちに恨みでも買ってしまったのかもしれない。


 だが俺にそんな覚えはないし間違いなくあの少女とは初対面だろう。




 俺はあの少女の圧倒的な力に完全にネガティブになっていた。




(このままじゃ、次はやられる)




 一刻も早く体を回復して、異能力をさらに極めよう。もしくは武道について勉強するのもいいかもしれない。俺はそんなことを考えながら昼休みまで過ごし、結局その日の授業が手に付かなかった。




 時間が過ぎて昼休み。俺と葉島は例のごとく校舎の外まで出向きリブラを送り出す。




「レン、今日は授業に身が入っていませんでしたよ。気を付けてください」


「ああ、ごめん。きちんとするよ」


「まったくです・・・では」




 そう言ってリブラは鳥の姿に変身し町の見回りに飛び立つ。


 昨日はリブラとばらばらに帰ってしまったが、今日は待ち合わせをして一緒に帰る予定だ。だがあの少女も疲労していたと思われるためすぐに襲われるようなことはないと思っていいだろう。




「それじゃ水嶋君、教室に戻ろうか」


「そうだな。日差しがきついし早く校舎に戻ろう」




 最近は日差しが強くなっており、少しずつ暖かな春の名残が消えている。リブラに夏バテ防止グッズを買った方がいいかもしれない。


 そう言って俺たちは教室に戻りそれぞれお弁当を食べていた。吾郎と龍馬は既に食べ始めており俺もあわてて席に向かう。俺を見る視線はこのところ落ち着いてきたので、このまま収束してくれるとありがたい。


 昼食を食べ終わり飲み物を買いに行こうかと考え始めていた時だった。




「すいませーん。水嶋君っていますか?」




 見たことない女の人が俺の名前を呼んでいた。ネクタイの色が違うことから先輩だということがわかる。


俺の名前を呼んでいるので結局俺に注目が集まってしまう。吾郎と龍馬もジト目で俺のことを見ていた。


どうやら俺に安息は訪れないらしい。




「お昼休みにごめんね、ちょっといいかな?」


「・・・・大丈夫です」




 ため息をつきそうになるのを我慢しながら俺は先輩に従い教室を出る。




 きっと厄介ごとだと予想しながら俺は廊下を歩いてゆくのだった。


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