第3話 氷使い

『同調コネクト・・・インストール!』




俺は氷に潰される直前に能力を発動する。そして腕を強引に振り回し,迫りくる大きな氷塊を粉砕した。




 ズドォォォーン!!




 割れた氷が大きな音を上げ地面にめり込む。そして同時に足に絡みついた氷を粉々に踏みつけ離脱する。




(こいつは一体?)




 リブラからの情報によると、こちらの世界にやってきた異世界人は全員が男らしい。しかし目の前で異能力をふるっているのは俺と大して歳が変わらないであろう女の子だ。


何より氷を操る異能力者がいるなどリブラからは聞いていなかった。




そうして俺は思い当たる。




(まさか、アビリティストーンを拾ったのか!?)




 アズールの言っていた異能力に目覚めてしまったこちらの世界の人間なのだろう。しかし、俺を襲う意味が分からない。




「おい、話を・・・」




 俺が話しかけた瞬間、身がすくむような冷気が少女から発せられる。


 目の前の少女からは話し合おうとする意志が感じれられない。最初から俺と話す気がないのだろう。


少女はその背後に新たな氷を発生させ、こちらに向けて投げ飛ばしてくる。




「くっ・・・」




 つららのような氷が俺の肩をかすめる。貫かれたら間違いなく体を貫通するだろう。俺はその猛攻を何とか避け続け説得をしようと試みる。




「こんなことはやめろ! 俺たちが戦う意味はないだろ!」




 少女は何も答えず攻撃の手を緩めない。そうして目の前の少女はこちらに距離を詰めてくる。遠距離攻撃は効果が薄いと悟ったのだろう。少女はその手氷の刃を生成する。それも二刀流だ。




「はぁぁーーっ!!!」


「うっ・・・」




 この少女の異能力は氷を生成し操る能力だ。だから素の身体能力は異能力で底上げした俺より低いはずだ。


しかしこの少女は俺の身体強化に匹敵するほどの体さばきを見せた。この猛攻に俺はよけるのが精いっぱいだった。おそらく彼女自身の身体能力と技術なのだろう。




(戦うしかないのか?・・・)




 こうなってしまった以上俺も全力でこの少女と戦わなければならない。しかし、彼女は異世界からやってきた犯罪者というわけではない。それどころか、歪な力を手に入れてしまった被害者でもある。しかしこの少女は明らかに、俺を殺すつもりで仕留めに来ていた。




「くそ、やってやるよ・・・インストール」




 俺は一段階ギアを上げる。体に負担がかかるが致し方ないだろう。俺は迫りくる氷の刃をよけ少女に足払いをかける。




(当たる!)




 そう確信するが、彼女がギリギリのタイミングで背後へと飛びのいた。攻撃は空振りしてしまい、結果的に相手に追撃のチャンスを与えてしまった。




(今のを避けるのかよ!?)




 どうやらこの少女には圧倒的な格闘センスがあるらしい。今のは異能力者に溺れる人間なら避けきれなかったはずだ。何かしらのスポーツをやっているのかもしれない。


 しかしそんなことを考える余裕はなく、俺は迫りくる刃をよけ続けるのだった。




「これでも足りないか・・・なら!!」




 そう言って少女は新たにつららを生成し背後に浮遊させている。どうやら刃とつらら、二つを使って攻撃するらしい。近づけば氷の刃、逃げればつららの投擲。俺は今まで異能力を極めていたが、素の格闘センスは一般人並みのため、その点では彼女に遠く及ばなかった。




(この子・・・強い)




 経験の差。アズールの際は異能力。そして今は格闘センスと経験。やはりまだまだ足りないものだらけだと実感するがそんなことを考える暇はなかった。




「はあっ!!」




 少女が強く踏み込んでこちらに接近する。どうやら本気で俺を殺しに来るらしい。




(今の俺は弱い・・・けど!)




 だからと言って負けるつもりも毛頭なかった。それに俺はこの少女に聞かなければいけないことがいくつもあるのだ。




 どうしてそんなに強いのか?


 どこでアビリティストーンを手に入れたのか?


 なにより、なぜおれを殺そうとするのか・・・




「俺も本気で行かせてもらうぞ」




 だからこそれもこの少女の殺意に本気でぶつかることにした。このまま逃げ続けてもいずれは捉えられ、俺はなすすべなく負けるだろう。だから俺は少女の踏み込みに応えるように一歩前へ踏み込む。




(狙うのはこの子の体じゃない・・・)




 そう言って俺はこちらに振り下ろされる刃に照準を合わせる。真正面から拳で叩くと恐らく俺が負けるだろう。俺の手首が切り落とされて今度こそ治らないかもしれない。




「死ねっ!」




 少女が右手に持つ氷の刃を振り下ろしてくる。しかも背後からつららを飛ばしてくるのが見えた。このままでは俺は一刀両断され、体をつららに貫かれるだろう。




 俺はまず氷の刃に真横から衝撃を加えることにした。いわゆる回し蹴りだ。最近俺は蹴りを練習していた。拳が使えない時でも攻撃の手段を増やすためだ。


 予想外だったのか、少女が目を見開くのが見えた。


 俺の練習の甲斐あって、見事に俺の蹴りは刃の中心を捉え、綺麗に氷の刃を粉砕した。




「なっ・・・」




 これには少女も驚いたのか横に大きく飛んだ。それと入れ替わるようにつららが俺の目の前に現れる。それを俺は身をよじって何とかよける。厄介なことにつららは円錐の形をしており、衝撃を加えてもうまく割れる気がしない。だから最初からよけ続けていたため少女にうまく近づけなかった。だが、俺は少女との距離を詰める。刃も片方になり体勢を崩しているので今が好機だと判断した。




「な、めるなぁ!!!」




 しかし少女は足元を凍らせ氷の波を作り出す。




「くそっ・・・」




 俺は慌てて後ろへ大きく飛んだ。あのまま前へ進んでいたら、氷の中に埋められてしまっていただろう。自分の運の良さに感謝するが、同時に運は残酷にも俺を見放そうとしている。




(まずいな、同調コネクトがもうすぐ切れる)




 どうやら思ったより時間がたっていたらしい。訓練直後なのもあるが、疲労がにじみ出てしまっていた。しかしそれは目の前の少女も同じらしく、異能力の使い過ぎか鼻から血が流れていた。




「こんな戦いやめろ! 俺たちが争っても意味がないだろ」


「いいや、お前はここで殺す」




 どうやら引いてくれるつもりはないらしい。しかしお互いが限界だった。俺は作戦を逃亡に切り替え、改めて周囲の様子を探るが遮蔽物などもないため、すぐに追いつかれてしまうだろう。


俺が追い詰められていた、決死の覚悟をしたその時だった。




「ちっ・・・ここまでか」




 少女は舌打ちし大きくため息をついた。




「今回は見逃してやる。だが、次はない」


「何を言って・・・」




 しかし俺の言葉は途中でかき消された。




「ふっ!」




 突然俺の周囲を吹雪が襲ったのだ。それにより完全に視界が閉ざされてしまう。


 俺が唖然としていると吹雪の向こうから声が聞こえた。




「ウ・ィ・ッ・チ・」


「・・・は?」


「その名を覚えておけ」




 そう言うと俺を囲む吹雪がよりいっそう激しくなった。




「まずい!・・・はぁぁ!」




 俺は力を振り絞り、腕を薙ぎ払った衝撃波で周りの吹雪をかき消す。それと同時に同調コネクトが切れてしまったが、俺はその場にへたり込んでしまった。




「逃げられた・・・」




 どうやら先程の少女は今の一瞬で逃げたらしい。恐らく彼女も異能力を使いすぎたのだろう。


 俺は一瞬安堵するがそれでも早く移動しなければと重い足を動かそうと何とか立ち上がる。


彼女はまた俺を狙うような事を言っていた。目的は不明だが、恐らくまた俺のことを殺しにやってくるだろう。


それにあの様子、恐らく異能力を使い慣れていた。少なくとも今初めて使ったという様子ではない。




(いったい何が目的なんだ?)




 俺が何とか意識を繋ぎ止めていると上空から何かが飛んできた。


 青い髪を振り乱して着地するそれは、息を切らしたリブラだった。先ほどの騒ぎに気付いてもらえたらしく、慌ててこちらまで飛んできたらしい。


 走って俺のところまで慌てて駆け寄ってくると心配そうな顔をして俺に詰め寄る。




「レン、無事ですか!? 一体何が・・・」




 どうやら先程の少女はリブラがやってきたことに気付いたのだろう。だから慌てて逃げだしたのだ。


 しかし状況がまずい方向に向かっているのは事実だろう。




「リブラ・・・まずいことになったかもしれない」




 こうして俺たちの新たな戦いが再び幕を開けようとしていた。

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