第2話 人気者

 休日明けのお昼ごろ。俺は学生という身分に縛られている。なので、もちろん学校に出席しなければならない。


以前なら最低限の友達としか話さず、特に注目されることのないつまらない学校生活だった。


 しかし今は違う。それも悪い意味で俺は注目を集めていた。




「また見られてんじゃね、人気者になったなー蓮」


「いやそういうのいいから、マジで何とかなんないかなこれ」


「仕方ないんじゃない、葉島さんと仲良くなったんだから。ほらあれだよ、有名税ってやつ?」




 俺たちは三人で固まり昼食をとっていた。しかしちらほらとどこからか視線を感じる。


 俺はどうやらこの学校で、完全に注目の的となってしまったようだ。




 こうなったのには訳がある。俺はこの学校のマドンナ的存在である葉島メイと友達になった。それだけならよかったが、今まで友達と心からの交流をしていなかった葉島は割とぐいぐい来る。というより、そういう関係が新鮮で気に入ってしまったんだろう。




 そして先ほどまで、俺と葉島はともに校舎の外に出ていた。それは現在ここにいない俺の相棒、リブラを送迎するためだ。ある程度騒動が収まったとはいえ異世界人が潜んでいることには変わりないため、今でもリブラは町の見回りを続けている。だから昼休みになると一緒にリブラを送り出すのだ。そして先ほどそれが終わり教室に帰って別々にお昼を食べる。そんなやり取りをほぼ毎日繰り返しているのだ。注目をされないはずがないだろう。




「ねー葉島さん、水嶋君と毎日何してるの?」


「そうだよ、ここのところお昼になると毎日どこかに行ってるよね」


「気になるー教えてよ葉島さん」




 そんなやり取りが教室の真ん中から聞こえてくる。葉島の席は真ん中の方なのでそこでの会話はクラス全体に聞こえている。男子は直接聞きだす勇気がないのか、がっつりと聞き耳を立てて葉島の言葉に耳を傾けていた。




「一緒に購買に言っていただけだよ。友達と購買に行くのが何かおかしいの?」


「いや、そういうことじゃないんだけど」




 葉島と近しい間柄のものはどうやら俺と葉島が付き合っているとにらんでいるのだろう。


しかし、葉島が友達だとはっきり言っているのでそれ以上追及できない状態だ。


俺のところに聞きに来た者もいたが、俺もただの友達だと説明している。葉島には言えなかったらしいが、何人かの男子生徒が葉島と付き合っているのかと直球で聞いてきた。もちろん俺は否定したし、それを聞いていたらしい葉島もあとからやってきて違うというので多くのものが困惑している。




 しかしそれでも、葉島と一番距離が近い男子生徒として、俺はこの学校の男子生徒の多くから不興を買ってしまったらしい。


 吾郎と龍馬も最初は人を殺せるんじゃないかと思うような目で俺のことを見ていたが、数週間近くたった今では、以前のように接してくれている。




「しっかし、葉島もこいつのどこが気に入ったのかね」


「前までは死にかけの半魚人みたいだったのにね」


「俺が知るか・・・というか龍馬、さらっと俺のことをディスってくるな」




 このような状況になってしまったが、俺たちは依然と何ら変わらない日常を過ごしていた。


 異世界人のことや異能力のことについては誰にも明かしていない。


 葉島もたまに俺たちの見回りに付き合ってくれるが、成果は芳しくない。アズールの一件以来、敵は完全に雲隠れしてしまった。




 アズールの仲間である異世界人が後二人。


 そしてこちらの世界で異能力に目覚めてしまった者たち




 俺たちはその手掛かりをつかめずにいた。完全な冷戦状態である。


 しかしその間俺たちは黙っているわけではない。自らの異能力を磨き上げ、いつでも戦えるように備えている。リブラも姿は元のままだが、戦闘に参加することは可能らしい。俺もアズールとの戦いを経て、異能力に体が慣れつつあった。




 一体的はどこに潜んでいるのか。そんなことを考えていると、俺の机に葉島が近づいてくる。




「水嶋君、放課後なんだけどちょっといいかな?


「放課後? ああ、空いてるよ」


「ありがと。じゃあまた後でね」




 そんな事を言いながら葉島は自分の机に戻っていく。そんなやり取りをすると目の前の二人を含め多くの視線が俺に向かって放たれるのだ。




「たまにこういうことあるけど、蓮って葉島さんとなにしてるの?」


「ああ・・・えっと・・・」




 そう言いながら俺は考えてしまう。多くの人が俺に耳を傾けているのだ。ここでうかつな発言はできないだろう。




「す、数学を教える約束をしているんだ」


「数学?」


「ああ、なんか数学でわからない問題があったらしくて」


「ふーん、まあ確かに蓮は数学が得意だからね」




 得意どころかテストで満点以外をとったことがない。この間も全国模試で数学において、日本1位の座に輝いたのだ。それを知ってる二人は納得した様子だった。




「確かに蓮ってやたら数学得意だよね、なんか習ってたの?」


「昔張り切りすぎて、大学の範囲にまで手を付けたことがあってな」


「大学!?」




 大学と言ってもさすがにすべての数学に精通しているわけではない。ただ高校生レベルの数学なら俺には絶対的な自信がある。




 勉強関係のことだったからか周りの注目も収まってきた。この学校には進学者が多いため、毎日いやというほど勉強をしている。この空間は勉強に嫌気がさしている人がほとんどだ。だからこそ、この会話に萎えてしまったのだろう。




 しかし勉強というのはもちろん方便で、俺は放課後葉島ととある場所に向かうのだった。。






  ※






「それじゃあ、見ててね」


「ああ、ちゃんと見てる」




 俺たちは放課後森の中にいた。先日も訪れた滝がある森の中だ。公園から神社に続く道を途中でそれればすぐにつくので、人に見られては困ることをするにはもってこいの場所だった。


 アズールとの戦闘以来、俺たちはこの場所でお互いの異能力を極めていた。葉島は結界を完全に使いこなしており、変幻自在に形を変えたり、移動させたりすることができるようになった。しかし、耐久力にはまだ自信がないらしい。だから俺が異能力による身体強化でその結界に攻撃したりと、強度を高められるように訓練しているのだ。




結界バリア




 葉島はそう呟くと自らの正面に小さな障壁を展開させる。どうやら今日は密度を高めて結界を分厚くする作戦らしい。




同調コネクト・・・インストール』




 俺もそれに続き自らの異能力を発動させる。毎度おなじみの全能感に包まれた俺は葉島の結界に向けて思いっきり蹴りを入れる。




「はあぁぁぁぁぁ!!」




 バリィン!!




 一瞬拮抗したが、大きな音を立て葉島の結界が崩れる。葉島も結界の扱いが上達したように俺の異能力も日々向上している。




「やっぱり駄目だった・・・」


「いや、一瞬拮抗されたし。そこで心が緩んだんじゃないか?」


「・・・・・確かに」




 葉島の結界は心の状態によってその強度が変わる。絶対に譲れない意思があるときは圧倒的な強度を誇るのだ。うまくその状態に入った結界は俺の全力でも破壊することができなかったのだ。




 ここ数日、俺たちはどんどん異能力の扱いを向上させていった。戦うためではなく、いざというとき誰かを守れるために。そのための努力を怠ろうとは思わなかった。




 そして気づけば日が暮れるまでお互い修行をしているのである。その日も暗くなり始めたころにお互い歩道に出てくるのであった。




「今日はあんまり調子が出なかったな・・・」


「それでも回数がこなせるようになったんだし、俺たちは着実に強くなってるよ」




 最初の頃は数回結界を発動させただけで完全に疲労していたのだが、今となっては数十回以上は結界を発動できるようになっていた。かくいう俺も能力の発動時間が延び今では以前の倍くらいの時間は戦えるだろう。




「それじゃあまた明日、リブラにもよろしくね」


「ああ、また明日な」




 そう言って俺たちはお互い帰路に着いた。これがここ数日のルーティーンである。確かに葉島とは一緒にいる時間が増えてしまったため、男子生徒のやっかみもこれからますます増えていくだろう。




(マジで何とかしないとな)




 これでは学園生活に支障が出てしまう。


 異能力に覚醒したことにより普段よりも五感が優れているのだ。だからこそこちらを見る視線や気配に敏感になってしまったのである。




 しかしその感覚は存外役に立つときもある。例えば今・・・




(・・・つけられてる?)




 超人的な感覚を無意識に発動できるようになった俺はすぐさま尾行されていることに気付いた。それもただの尾行じゃない。




(殺意がこもっている)




 俺をつけている者は俺に何か恨でもあるのだろうか。もしや葉島のファンクラブの者かもしれない。


そう考えるが俺はすぐに否定する。なぜならこの感覚を俺は既に知っている。




(アズールと戦った時と同じ・・・まさか異世界人!?)




 そう考えた俺はすぐに走り出し先ほどの公園へと戻る。




 もし異世界人なら逃げ切るのは難しいかもしれないし、家に帰り自らの居場所をばらしてしまってもリスクしかない。


戦うなら、広いところに誘導してリブラに見つけてもらう。恐らくリブラは今も空から町中を見回っているはずだ。二対一に持ち込めれば多少は有利になるかもしれない。そう考え俺はペースを上げて公園まで全力で走った。






 なんとか先ほどの公園に入ることに成功した。公園の中心に立ち気配を探ると、やはりまだこちらを見ているようだ。俺が尾行に気付いていることに気付いたのだろう。しばらく膠着状態が続いた。


 このままでは埒が明かないので俺は声を張り上げ牽制する。




「誰かいるんだろ、おとなしく出てきた方が身のためだぞ!」




 しかし気配が動く様子はなかった。




(こちらから動くしかないか)




そう考えていた時だった。足の感覚が急になくなった。




「なっ!?」




 俺は自分の足を見て驚愕する。俺の視界に入らないように何かが延びていたことに気付いたからだ。暗闇の中ひんやりするそれをよく見ると




「氷・・・?」




 氷でできたツタが俺の足に絡みつき、足を巻き込んで凍っていた。


俺が驚愕し、何者かに捕まったと気づくと同時に物影に潜んでいた気配がこちらに向かって近づいてきた。


 まだ姿と顔はよく見えないが白いフードをかぶっており背丈は俺より小さかった。しかしこれだけはわかったことがある。




(女・・・)




 さすがに予想外で俺は目を見開いてしまう。女にストーカーをされるほど人気者になった覚えはないので俺は困惑した。


 その人物は俺に向け圧倒的なまでの殺気を放ち、




「悪いがお前を殺す」




 そうして圧倒的な氷の質量で俺を潰してきた。


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