第15話 異世界からの応援


 花咲と連絡先を交換した俺はそのまま家へと帰宅した。どうやら花咲はこの後一人で夜の街を歩き回るようだ。


 俺も付き合うかと申し出たのだが、逆に迷惑になると断られてしまった。きっと一人の方がやりやすいのだろう。


 だから俺は素直にリブラの待っている家に帰ることに決めたのだ。




「ただいまー」




 とりあえず俺は何事もなかったかのように玄関のドアを開ける。するとあわただしい音が部屋の方から聞こえ、すぐにリブラが駆け寄ってきた。




「お、おかえりなさい、それで、大丈夫でしたか?」


「お、おお、何とか大丈夫だった。無事に協力関係を締結することができたよ」


「そうですか、よかったです」




 するとリブラは安心したようにほっと肩をなでおろす。きっと心配させてしまったのだろう。この調子なら、骸骨剣士との戦いは言わない方がいいと思った俺は少しだけ話題をそらす。




「リブラこそ、もうそんなに動き回って大丈夫なのか?」


「少し倦怠感はありますが、一日休ませてもらったのでこれくらいは回復しました」




 リブラの方も順調に元に戻りつつあるらしい。これならオセロとの再戦にも間に合う可能性がある。




「もしオセロと戦うことになったら、次は俺も戦うから」


「それは・・・はい」




 リブラも以前とは違い強く断ろうとしなかった。きっと今の自分では説得力がないと判断したのだろう。




 とりあえず俺は花咲心のことを少し話すことにした。骸骨剣士の詳細は省いて協力関係を気付くに至ったまでのことをリブラに伝える。




「つまり、その花咲心は俺たちの味方サイドの人間。ガイアの敵で俺たちの敵の敵。だから敵対する意味はないし、本人もそれを望んではいないっぽかった」


「たしかに、そういうことならばある程度の信頼は置けるでしょう。昨日見た限り、彼女もガイアと同等程度に異能力を使いこなしていました。あれなら十分以上に戦力になるはず」




 ぶっちゃけ、彼女一人で俺たちの役割をこなせてしまうかもしれない。それほど花咲の異能力は強力なものだった。




創造クリエイト




 彼女はそういう風に言葉を紡いでいた。言葉の意味と能力からして、おそらく彼女の異能力は武器を創り出すものなのだろう。今のところ確認しているのは剣や槍、そして鎖と盾だ。




 一見攻守の守りもよく最強の異能力に見えるが、きっと代償などの欠点もあるはず。おそらくそこを補うために俺たちのことを仲間に引き入れたのだろうと予測する。




「それはそうと明日の早朝、一緒についてきてくれませんか?」




 ここでリブラが唐突にそんなことを言ってきた。その瞳は自信にあふれ、どこか楽しみが待っているような子供みたいだ。




「いいけど、何かあるのか?」


「ええ、今回の魔物騒動を名目に、ようやく王宮から戦力を引っ張り出せそうなんです」


「! それって・・・」




 俺はつい期待を込めたまなざしでリブラのことを見ていた。そしてリブラはそれに応えるように、笑みをこぼしながら首を縦に振り




「王宮の異能力者が増援に来てくれます」






   ※






 昼下がり、俺はリブラとともに森の中を歩いていた。




「この場所って・・・」




 そこは俺とリブラが初めて出会った場所。あるいは相棒になった場所でもある懐かしい森だ。話によると今日この時間に異世界の人が増援として俺たちに協力するため来てくれるらしい。




「それで、来てくれるのはどんな人なんだ?」


「ええ、転移系の異能力者で何かと優秀な人物ですよ」




 どうやらリブラの部下に当たる人物のようで、少なくともリブラのお墨付き。これは期待せずにはいられないだろう。何せ花咲に加え新たな仲間が増えることが確定したのだ。これで戦いはこちらの有利に進んでいく。




「なんか上手くいきすぎなような?」


「むしろ今までが恵まれていなかったんですよ」




 そんなことを放いているとき、突如空間が歪んだ。




「!?」


「来ましたか」




 そしてその空間の中から、誰かの影がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。そしてその人物が姿を現す。


 その人は女性で黒髪の短髪だった。身長は今のリブラよりは全然高くすらりとした体つきだ。




「ぷはーー、やっぱり世界を転移するのはきついですぅー」


「お疲れ様です。早速ですが迎えに来ました」


「リ、リブラ副団長!?」




 クロエと呼ばれた少女はリブラの出迎えに驚いたのか目を見開いて困惑するもすぐに敬礼のようなポーズをとる。




「お、お待たせいたしました副団長。クロエ分隊長、予定通りチキュウへ到着しました」


「ご苦労。早速ですが情報の共有を始めましょう」


「はい!・・・って副長、こちらの方は?」




 クロエは俺のことを見て不思議そうな顔で見つめてくる。おそらく俺のことも報告に上がっているはずだが、きっとすぐに情報を結びつけられていないのだろう。




「えっと、水嶋蓮って言います。リブラとは、仲間みたいなもんです」


「これはご丁寧に。私はクロエと申しまして、異能兵団の第3番隊分隊長を務めております」




 そうして昨日に引き続き俺は誰かに自己紹介をする。




「この方がこちらの世界での協力者たちです。期待していいですよ、少なくとも彼は私より強い」


「リ.リブラ副団長よりも!?」




 クロエは俺のことをまじまじと見つめてくる。そして信じられないような顔で改めてリブラに問いかける。




「ほ、本当ですか? それなら私なんていらないんじゃ?」


「いえ、今はあなたの異能力が必要な時です。少なくとも敵は私よりも強くて厄介だと思いなさい」


「・・・はい」




 クロエは決心したのか、優しそうな顔がこわばり真剣な顔つきになる。


 今の言葉からするに、リブラは異世界で強者の部類に入っているのだろう。だからこそリブラが厄介だという敵に対して、無事では済まないかもしれないと覚悟を決めた。




「それはそうと、その姿は何なのです?」


「ああ、ちょっと異能力を乱用しすぎまして。元に戻るのには時間がかかりそうで」


「珍しいですね。副長がそんなになるまで戦うなんて」




 そんなことを話しながらリブラはこの世界で起きていることを事細かに話していった。といっても前々から詳細な報告をしていたらしく、今はなしているのはオセロと魔物の騒動のことだ。


 クロエはオセロの名前を聞いた時、目を見開いて驚いていた。




「オセロって、その、リブラ副団長の・・・」


「ええ。だから私が決着をつけたかったのですが、それも難しそうで困っているのです」




 リブラがオセロに謎のこだわりを持っているのは分かったが、だからこそ俺は複雑な心境になる。


 そして二人が話し終えるころには日がまで登っており、俺の方へと二人で近づいてくる。




「レン、今後の方針は決まりました。とりあえず一度家に戻りましょう」


「わかった。それじゃクロエさんも」


「はい。・・・あれ、そういえば副長、この世界での衣食住はいったい?」




 そういえばそのことについて二人は話していなかった気がする。だから先に俺が説明しようとしたのだが




「私、この世界では彼の家にお世話になっているんですよ」


「・・・・・・・・ふぇ?」




 わずかな沈黙が流れた後、素っ頓狂な声を出してクロエがリブラに詰め寄った。




「ど、どういうことですか副長! 仲間とは言え、仮にも男と一つ屋根の下ですか!? もしかして、お二人は・・・はっ!?」




 このままだとロクなことにならないので、俺は家に帰りながら大体のことをクロエに話す。いろいろと疑問に思われることは多かったし、最後は訝しげな眼で俺のことを見ていた気がするが、頼むから勘弁してほしい。




 何がともあれ、二日連続で新たな仲間が増えた。


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