第14話 新たな仲間

 少女が創り出した剣と、骸骨剣士が持っていた骨がぶつかり合った。




「うぐっ」




 切れ味ならこちらの方が絶対に上だ。だが純粋にパワーで押し返されてしまった。あの細い腕(骨)のどこにそんな力があるのか疑いたくなるが、やはりあのサイクロプスよりは格上だ。




「カカカ」




 骸骨剣士はあざ笑うかのように俺のことを見据える。やはり馬鹿にしているようだ。




「そっちがその気なら・・・やってやる」




 俺はスピードで押し切るため、骸骨剣士の周りをステップで高速移動する。




「へぇ」




 茶髪の少女は感心するかのように俺の動きを見ていた。そして目の前の骸骨剣士も俺のことを捉えようと必死に首を動かしてキョロキョロしていた。




「ここだっ、やぁっ!」




 俺は垂直に剣を振る。ちょうど頭蓋骨をとらえており、このままいけば骸骨を一刀両断できるだろう。しかし、思ったよりも力が入らず頭蓋骨に跳ね返される。




「くそ、硬すぎだろ」




 魔物は皮膚を硬質化するトレーニングでもしているのだろうか。そう疑いたくなるほどには体が硬い。骸骨剣士は目を白黒させており、ようやく俺のことを捉えられたのかこちらに骨を向けて突撃してきた。




「ちっ!」




 俺は上へ跳躍することでそれを何とか避ける。


 体重が軽いからか、思ったより骸骨剣士の動きが速い。しかも想像より柔軟な動きをしてくるので俺もやりずらい。




(というか、剣なんて使ったことないんですけど!)




 こちとら初めて剣を握ったのだ。普通は型だとか素振りだとかいろいろ練習するだろうが、俺はぶっつけ本番で(骸骨とはいえ)本物の剣士と戦っている。




(自信はないけど、やってみるか)




 俺は一度動きを止めてバックステップで骸骨剣士と距離をとる。そしてその隙に異能力を発動し、自身の理想を想像する。




同調コネクト・・・インストール』




 俺に剣の扱い方などわからない。なら、それができる自分を想像して理想の自分を表現して投影するだけだ。


 これこそが、『同調』の正しい使い方。




「・・・いける」




 まだ剣を持って数分しか経っていないが、今や俺の手には剣がとても馴染む。まるで長年剣を振り続けてきたような心境に至った俺は、改めて剣を構える。




「カッ!?」




 すると目の前の剣士は一瞬身をこわばらせる。どうやら、俺の中で起きた変化に気づいたようだ。


 今まではじゃれるように骨を構えていたが、真剣な雰囲気をまとって骨を強く握りしめていた。




「カァッ!!」




 次の瞬間、骸骨剣士は俺に向かって一直線に走ってきた。


 どうやら真っ向勝負で片を付けたいらしい。




「いいぜ、迎え撃ってやる・・・『インストール』」




 俺はこの場面でどの手が最善か、改めて模索し自分の体にインストールする。


 最善手を見つけた俺は、その技を繰り出そうと腰を深く落とす。そして剣を今まで以上に強く握りしめ、極限の一瞬を見極める。




(さらにここで、もっと深い集中状態へ)




 俺は意識さえすれば、スローモーションで景色を見ることができるようになっていた。ウィッチとの戦いで完全にその世界への入り方をマスターした俺は、骸骨剣士のことを目を見開いて観察する。


骸骨剣士は俺の体を右側から横に薙ぎ払って切り捨てようとしている。きっとあれに当たれば俺の体はへし折れるだろう。


 それを確認した瞬間、俺は足に力をため始める。ここから求められるのは、純粋な反射神経とスピードだ。だから俺はただ一瞬の動きに集中して、相手を見据え深く息を吐く。




「カァ!」




 そしてとうとう骨が振り払われる。そしてぎりぎりのタイミングでそれを見極め・・・今だ!!!




「疾!!!」




 俺は音速の速さで数歩踏み込み、骸骨の首を切り落とした。今まで骸骨の体を切ることができなかったのは、俺が剣の正しい扱い方を知らなかったから。だが異能力で剣の振り方を知れた俺は、どのように剣を振ればこいつを切れるのかがなんとなくわかるようになった。




「カァ・・・ァ」




 胴体と首がバラバラになった骸骨は、青い粒子を放って消滅した。俺は地面に剣を突き刺して、大きく眺めの息をついた。




「ふぅ、何とか勝てた」




 慣れない戦い方をしたせいで、素手で戦った時より余計に疲れてしまった。新しい戦い方が増えたのは喜ばしいことだが、あんなギリギリの駆け引きはそう何度もやりたいものではない。


戦闘の余韻に浸って剣に体重をかけていると、いきなり剣が崩れるように消滅したので俺は思わずよろめいて転びかけてしまう。




「いいわね、合格よ」




 俺が一人で焦っていたところに、茶髪の少女は笑顔で歩いてきた。その顔は先ほどまでとは違い純粋に勝利を称えるものだった。




「普段はしないだろう戦い方でも、あれほどの力を発揮できる。磨けばダイヤモンドを超える輝きを放つ逸材よ、あなたは」


「そ、そりゃどうも」




 いきなり褒められたのでついぶっきらぼうに返してしまったが、どうやらこの少女は俺のことを認めてくれたようだ。




「これならあの異世界人はもちろん、ガイアとの戦いでも十分以上に渡り合えるはず。正直コマンダーが厄介だけど、ほかの二人ならあなた一人でもなんとかなるはず」


「やっぱり、ガイアはお前にとって敵なのか?」


「ええ。私の目的は彼らの打倒。だから異世界人だとか魔物なんかに構ってられないの」




 きっとこの少女はガイアについて俺たち以上の情報を持ち合わせているのだろう。とりあえずガイアと敵対していることが分かっただけでも十分なので、それは後々追及することにした。




「あと、あなたの仲間たちも戦力に数えさせてもらうわよ。あなたがそこまでできるのなら、ほかの人たちにも最低限の期待はできる。少なくともあなたの仲間の異能力は結構使えるから。それはそうと・・・」




 すると少女は、思い出したかのように急に真顔になって俺の顔をまっすぐ見据える。




「あなたの戦いに敬意を表して、私もいい加減に自己紹介をした方がいいかしら」




 すると茶髪の少女は自らそう言い、今更ながら名乗ろうとした。だから俺もそれに合わせて自らの名前を名乗る。




「とりあえずそうだな。俺は水嶋蓮。見ての通り高校生だ」


 そう、と興味なさげに一言だけで返した少女は続けて名乗る。




「私は花咲はなさきこころ。とりあえず、あなたたちの味方サイドの人間だから安心していいわよ。これからよろしくだけど、失望だけはさせないでね」




 そう言って茶髪の少女、花咲心は俺に手を差し出してくる。俺はそれに倣って右手を差し出し握手をする。




 今夜、心強い仲間が一人増えた。




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