第17話 寝付けぬ夜
ファミレスで食事を堪能した俺たちは会計を済ませ帰路へ着く。
リブラは付属でついていたコインでガチャガチャを回し、サメのアクセサリーを手にウキウキと歩いていた。本人的にはかなり気に入っているらしく、ファミレスの店員さんや他のお客さんから暖かい視線を向けられていた。
ちなみにここでの会計は俺持ちである。
最初は葉島も悪いからとお金を出そうとしたが、付き合わせているのはこちらなので奢らせてもらうことにした。葉島は渋々納得して店の外で待っていてくれた。
そして俺たちは二日連続で葉島を家まで送ることになった。
「またごめんね、遠回りさせちゃって」
「いやいいんだ。ここで襲われる方が怖いからな」
そんな他愛もない会話をしながら俺はあることに気付く。
「そういえば今更だけど、親御さんとかに連絡入れなくて大丈夫だったか?」
少なくとも俺は葉島が家に電話をしたり連絡を取る姿を見ていなかった。そのうえで日が暮れるころに帰宅するのだから、葉島が俺たちのせいで怒られるのではないかと俺は心配する。
「大丈夫だよ、どうせ家に帰っても誰もいないし。今日は休日だからお手伝いさんも休みなんだ。それにお父さんもお母さんも仕事で忙しいから多分今日も帰ってないと思う」
「忙しいんだな、二人とも」
「まあ、ここ最近はまともに顔を合わせてないからね。休日はコンビニでご飯を済ませることがほとんどだし。二人とも私のことをほぼ放任してるようなものだから」
おかげで自由な生活を送らせてもらってるんだ、と葉島が苦笑しながら笑いかけてくる。
俺には何というか、その笑顔が痛々しく見えた。
『どうして俺の言うことを聞けないんだ!』
『何のために今まで勉強を教えていたと思ってるの!』
・・・・どうして今思い出す。俺のことはどうでもいい。俺みたいになる前にせめて何かしてやれることはないのか。
「なあ葉島、もしかして何か悩んでる?」
気づいたら俺は葉島にそんなことを言っていた。
「えっと・・・どうしてそう思ったの?」
「何となくとしか言えないけど、葉島がなにかを諦めてるように見えたから」
「・・・・・」
葉島は一瞬あっけにとられ動揺したのか視線をさまよわせる。やはり何か悩みがあるらしい。けど俺が深入りするのもお門違いかもしれない。
「話したくないなら話さなくていいよ、たださ・・・」
「ただ・・・?」
「俺たちは仲間だろ。たとえ一時的なものだとしても今は仲間なんだ。仲間の力になりたいと思うのは当然だし、俺もリブラもそう思ってる。だからまあ、気が向いたら話しやすい方に話してくれればいいし、一生話さなくてもいいさ。でもこれだけは言っておく。俺とリブラはいつでも葉島の力になる。それだけは絶対に約束する」
気が付いたら俺は自分の思っていることを恥ずかしげもなくしゃべりだしていた。
葉島も目を丸くして俺たちの方を見ていた。きっと戸惑っているんだろうな。
(というか俺も言ってて恥ずかしくなってきたな)
そんなことを考えていたら葉島の家まで着いていた。
「じゃ、じゃあ今日はお疲れ様。また明日よろしくね」
「おう、おやすみ」
そう言って俺は葉島を送り出す。すると今まで黙っていたリブラが俺の方をじっと見ていた。
「なんだよじっと見て」
「いえ、ただ・・・」
「ただ?」
「私が言おうとしていたことをほとんど言われてしまったので、セリフを奪われた心境です」
リブラも俺と同じことを思っていたらしく、話し出す機会をうかがっていたようだった。
(もしかしたら俺もリブラにだんだん近づけてるのかな・・・)
リブラは俺の目標になりつつあるのであった。
※
メイ視点
「仲間・・・」
家に帰った私は水嶋君の言ったことが頭から離れなかった。
仲間どころか友達や親すらいらないと思っていたのだ。そんなことをいわれても複雑になるだけである。今までの私なら何も考えることなくバッサリと切り捨てていた考えなのだから。
(仲間なんていらない、ただ私は・・・)
あの二人を利用しているだけ。今回のことが終わったら、すぐに関係を断ち切るのだ。
なのに・・・
「どうして胸が苦しくなるの?・・・」
ここ数日で私の心はおかしくなっていた。
彼はかなり的確な指摘をしてくれていた。そう、私は人を信じるのを諦めている。
私に近づく人間のほとんどが邪な考えを持って取り入ろうとしたり、男女の関係を迫るものばかりだったのだ。正直もうウンザリしていた。
『何か不満があるのですか?』
『仲間の力のなりたいと思うのは当然だし、俺とリブラもそう思っている』
ぐるぐると頭の中で二人の言葉が行き来する。
まるで私が私でなくなるような感覚に襲われる。もうこれ以上、私を、私の世界を侵されたくない。
『俺とリブラはいつでも葉島の力になる。それだけは絶対に約束する』
―頼っても、いいのかな?―
(何を、何を考えているの私は!)
仲間なんていらない。何度もそう言っているのに、心が、魂が、私の思考を否定する。
(私は、私は・・・)
どうしたいんだろう。いったい何を望んでいるのだろう。自分のことがわからない。
―助けてほしい―
「助けなんて・・・いらない」
―じゃあなんであの時、助けてなんて叫んだの―
異世界人に襲われたとき私は諦めた、諦めようとした。助けてもらえるのを、そんな都合のいい展開を想像してしまったとでもいうのか?
―あの二人なら、助けてくれる―
(裏切られる。信じた瞬間、裏切られる)
―でもあの二人なら、もしかしたら・・・―
(ありえない、ありえない、ありえない)
私がこの日、寝付くまでいつもより長い時間がかかった。
※
葉島を送った後、俺たちも家に帰ってくる。どうやらリブラは今夜も俺の家に泊まるようだ。回復に努め、少しでも役に立てればとのことらしい。サメのアクセサリーを大事そうに棚の上に飾っていたリブラに俺は声をかける。
「それで、調子はどうだリブラ?」
「悪いことに変わりはないのですが、今日ゆっくり休めれば全身の変身が数回はできるかもしれません。ただ、変身できるだけで、動き回ることは恐らくできないです」
「俺の考えたことって出来そうか?」
「恐らく可能ですが、それでも危険なことに変わりはないですよ?」
確かに俺の考えた戦い方は少し危なっかしいものだった。下手をすれば俺だけではなくリブラも危ない。けれどあいつに直接攻撃するにはこれがベストだと思う。
「奇襲が成功すればこの戦い方をする必要はなくなる。けれど、もし仕留めきれなかった場合にはこうするしかないだろ?」
「確かにそうですが、私もあまりやったことはないので不安です」
「そんなときのための葉島だろ?」
「・・・・そうですね、私たちが二人だけで戦うわけではない。メイだって私たちの仲間ですものね」
呆れたように笑いながらリブラはベッドに潜る。そうして俺も椅子で寝るかと思ったのだが。
「レン、来ないのですか?」
「・・・・・はい?」
今あいつなんて言った? 来ないのですか? えっ、それってまさか・・・
「もしかして、一緒に寝ようとしてる?」
「ベッドが一つしかないのでこれしかないでしょう。それにあなたは明日戦うかもしれないのです、体を痛めてしまってはメイに迷惑をかけることになりますし、結果的に私の身も守ることにつながりますので」
言ってて恥ずかしいのか、少しほほを紅潮させている。それに本人はそのことを嫌がってないらしかった。
「わかったよ、一緒に寝ようさすがに今日は疲れたし」
「明日のためにも早く寝ますよ、奴はあなたのことを役に立たないと思っている。つまり、あなたが頼りなのですから」
部屋の電気を消し俺はリブラとともにベッドで寝る。とはいえやはり緊張してしまいなかなか寝付くことができそうにない。
「レン、起きてますか?」
「ああ、なんか眠れない」
「仕方ないですね、少しおしゃべりでもしますか」
そんなことを言って二人でしばらく他愛もない会話をする。
(そう言えば俺はまだリブラのことを全然知らないんだよな)
今度異世界のことを聞いてみるか。きっと面白いことや楽しいこと、つらいこともたくさんあるのだろう。何となく俺はリブラの異世界生活のことを聞いてみたかった。
「レン、勝ちますよ」
「ああ、もちろんだよ・・・相棒」
そして俺は深い眠りにつくのだった。
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