第16話 楽しく
俺の異能力についてわかったことがある。どうやら単純に身体強化や治癒能力の強化をするのではない。自分が理想とする姿。それを一時的に自分の身に宿すことができるらしい。今回は一瞬で解けてしまったが、訓練すれば時間を伸ばせるだろうし、可能性は無限大だ。治癒の強化をした際、一回目はどれくらい時間がたったのかわからないが、二回目に治癒したときは少ない反動で済んだ。恐らく貫通した肩を治すのは今の俺ならある程度余裕らしい。無意識とはいえ慣れが生じていていたことに俺は感謝する。それに・・・
(思いついちゃったな、新たな戦法)
これにはリブラの協力が必要不可欠だが、アズールとの戦いにおいて間違いなく主力となる戦い方だろう。ここにきてようやく勝ち筋が見えてきた。それにこの週末に決着をつけるのなら十分な余裕がある。あとはどうやってアズールと遭遇するかだがそれについてはリブラに考えがあるらしい。だからあとは作戦を考えて実行するのみだ。
「日が暮れてきましたね。今日はこれくらいにして一度帰りましょうか」
「そうだな、森が暗くなる前に出ないと危ないからな」
夜に危険性が増すのは先日の件で十分に焼き付いていた。というより俺も一度殺されかけているので実体験である。
「そういえば二人は一緒の家に住んでいるんだよね、違った?」
そう言えば朝に余計なことを言ってしまったな。一応事実ではあるのでリブラに判断を任せようと俺は目配せをする。
するとリブラもこちらを見て俺の判断を理解したのか、はい、と葉島に答える。
「住んでいると言っても食事の時くらいしかレンの家にはお邪魔しません。それ以外は町の見回りをしたりするのですよ」
「そうなんだ・・・あれ? じゃあ寝るときはどうしているの?」
「確かにそうだな。なあリブラそこはどうしているんだ?」
思い返せば疑問の一つであったリブラの生活。ここにきてようやく核心に触れてみる。
「内緒にしていましたが実はこまめに睡眠をとっているんですよ。ネックレスになった際の移動中や休憩時間を自分なりに決めて作ったりと、工夫次第でどうにでもなるものですよ」
眠い時ももちろんありますがと言って苦笑した。というより慣れているのだとか。
そんなことをいいながら俺たちは森を出る。そして俺は思い出す
「やばい、そういえば冷蔵庫に何もない」
「マジですか!? それでは晩御飯は・・・」
正直もう買い物するほどの根気は残っていなかった。正直に言おう、もはや面倒くさい。ただでさえ全身疲労感に包まれているのだ。今からスーパーに行く気力は残っていなかった。
「適当にファミレスでも行くか?」
「レストランのようなものですよね、いいのですか?」
「いいよ、どうせ安いし」
リブラが目を輝かせながらウキウキとしている。最近分かったことだがリブラはどうもこの世界の食文化に大きな関心があるらしい。俺の料理を楽しみにしてくれることからもそれは明らかだ。スマホでメニューを見ながらそちらに向けて歩こうとすると、
「メイもご一緒しませんか?」
「え、私も?」
「食事は人数が多いほどおいしくなるものですよ」
「けど私は・・・」
何やら葉島が複雑そうな顔をしている。予定でも入っているのだろうか。嫌そうというより迷っているというか・・・
そう考えていると葉島は顔を上げ何かに挑戦するかのような顔をして
「それじゃあ、一緒に行かせてもらいます」
そう言うのだった。
※
「ここがファミレスというものですか、家族連れや学生が多いのですね」
「気軽さが売りだからねこの手の店は」
「ファミレスに来たの何気に初めてかもー」
それぞれが会話をしながら席に案内される。
「想像以上にメニューがあるのですね、それに安い」
「とりあえずドリンクバーでも頼むか、ええと他には」
「あっ、パスタとおいしそー」
注文を終えた俺たちは頼んだものが来るまで、明日のことを話し合っていた。
どうやらリブラは明日にでも決着をつけたいらしい。そしてそれは敵も同じだろうと話し出す。
「見たところ彼にも余裕はないのでしょう。どうやら成果を独り占めしたいような節が見えました。なら、仲間に頼られる前に先につぶしておいた方がいい」
「それで、明日あいつと戦うのか」
「私の予想では、明日の夕方ごろに奴は姿を現すでしょう。ですのでそこを強襲します」
「そういえば私は聞いてないんだけどさ、どうやって敵をおびき寄せるの?」
葉島がリブラにそう問いかけると、リブラは視線をメニュー表のデザートコーナーからこちらに向ける。
「私は事前に隠れ家になりえるであろう場所にマークを付けていました。そしてそこに・・・」
「アズールがいたと?」
「いえ、正確には奴がいた痕跡です。もし奴に会いたいのならそこで待てばいいでしょう」
つまりこちらがアズールの隠れ家に奇襲をかけるのだ。先制攻撃できる分こちらが有利になるだろう。
「当初はレンが攻撃をしてメイがそれをサポートするという作戦でしたが、今日のような威力の攻撃を出せるのであれば、奇襲してそれを叩き込んだ方が間違いないでしょう」
つまりこちらから攻撃を仕掛ける。今までは襲われてばかりだったが、今回は初めて襲う側に回るということだ。
「勝算はあるんだよね?」
「いまのところは五分でしょう。こちらは異能力に目覚めたばかりの二人に役に立たない私の計三人。向こうは異世界で戦闘に入り浸り、多くの命を奪ってきた異能力のエキスパートが一人。外部からの介入がないと仮定すれば、ややこちらが有利かと」
それでも強敵に違いないのですが、とリブラは言うが、彼女の中では勝ちの目は見えているらしい。
そこで俺はリブラに思いついた作戦の話をする。
「そういえばリブラさ、俺思いついちゃったんだよ。あいつに対する戦い方を」
「? それはどういう」
と言ったところでようやく料理が到着する。俺が頼んだのはハンバーグ定食だ。このファミレスのチェーン店では看板メニューとなっているので間違いはないだろう。葉島が頼んだのはトマトソースのパスタだ。そしてリブラが頼んだのは・・・
「お前それって・・・」
この店はタブレットで注文するので俺はリブラの頼んだものを今初めて見た。しかし、まさかそれを頼むとは思っていなかったため俺はつい驚いてしまった。
葉島も目を見開いてリブラの頼んだものを見ている。さすがに社長令嬢とはいえこれが何かはわかるらしい。
「どうしたのですか二人とも。私の頼んだものをじっと見て」
「いや、どうしてそれを選んだのか参考までに聞かせてもらっても?」
「どうしてって、このプレート一つで多くの料理を堪能できるのですよ。旗が乗っていてかわいらしいですし、コインまでついてくるのです。とてもお得なセットじゃないですか」
とリブラはお子様ランチのことを熱がこもったようにレビューする。本人がいいなら構わないが、これを子供用と知ったらおそらく、なんで教えてくれなかったんですか! と怒られるだろうが時間の問題のため放置する。葉島も何も言えないのか自分のパスタをフォークで巻き始めているところだった。まあ今のリブラの容姿とお子様ランチはさほど違和感がないので周りの目は気にしなくていいと思う。とりあえず俺も冷める前にいただこうと、ハンバーグに箸を入れ肉汁があふれるのを眺めながら食べ始めることにした。
「やっぱうまいな、俺にこの味は再現できないよ」
大手ファミレスの看板メニューというだけあってやはりおいしい。葉島もパスタに満足しているのか黙々と食べ始めていた。
そして何より、リブラがスプーンを持ってどれを食べようか悩みながら食べていた。ちなみにデザートのプリンを大事にしているのかプリン用のスプーンを別に用意していた。楽しそうで何よりだ。
俺達は食べ終えた後も明日のことについて話し合いをし、ついでにドリンクバーを制覇するのだった。
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