第15話 想い
時は遡り数分前。
覚悟を決めた俺は全能感に包まれていた。今なら何でもできる気がする。そう思ってしまえるほどに、体が熱くほとばしっていた。
頭の中に浮かんだ言葉を俺はなぞって復唱する。
『
力が欲しい。あの異世界人を倒せる力を。あの風に負けない強靭な体を。仲間を守れる強き思いを。
『インストール』
俺は自分という存在そのものを書き換える。注がれる力に負けないよう、己という器を強化する。人知を超えた異能力というものに耐えられる体へ。
気が付いた時、俺は五感が冴えわたっているのを感じた。どうやらリブラが葉島と合流したようだ。葉島は疲れて座り込んでいるらしい。そんな気配を感じ取れるようになった。
そして冴えわたっているのは五感だけではない。今なら本当に何でもできる。そう思った俺は近くにあった木に向かって走り出す。距離にしておよそ10m。今の俺なら一瞬でたどり着くことができる距離だ。その勢いを利用して俺は固く握りしめた拳を振りかぶる。
「はぁぁぁぁぁ!」
ドーーン!!!
雷が落ちたと錯覚するほどけたたましい音が鳴り、俺は気を貫いていた。否、えぐるように粉砕したのだ。
「これなら俺も・・・」
戦って役に立てる。そう思った時、強烈なめまいが俺を襲ってきた。グラグラ揺れる世界の中で、俺を呼ぶリブラの声が聞こえ、俺の意識はプツンと切れた。
※
「・きて・・い・・レ・・」
ぼうっとする意識の中で。誰かが俺を読んでいた。この声は誰の声だっけ? 心配そうに必死に何かをしゃべりかけている。
静かにしてくれと俺は心の中で思うが一向に静まる気配がない。
「・・さい、起きてくださいレン!」
俺の名前を呼んでいる。なんだろうか、不思議と悪い気がしない。けれど心配そうなその声の主をそれ以上心配させたくないと、俺の中の意地がそう訴えかけてくる。
「・・うっ」
俺は体を起こして目を開く。体がふわふわする気がするのは、恐らくさっきしでかしたことの反動だろう。それとも自然を大事にしなかったことに山の神が罰でも与えているのかもしれない。
やけに鮮明な意識の中俺は頭を覚醒させる。少し頭痛がするが時期に収まるだろう。そんなことより涙目になりながら俺のことを見ている少女に目を向ける。
「悪いリブラ、少し失敗しちゃったみたいだ」
「失敗って・・・」
そう言って俺の奥にある木に目を向ける。結構派手にやらかしたなと思う反面俺はうれしかった。これなら多少は役に立てるだろう。それに新しい戦法も思いついた。
「なあ、リブ・・・」
「何をしているのですかあなたは!」
リブラが俺に怒るのは初めてなのではないだろうか。よく見ると彼女は涙目になっており、大きな心配をかけてしまったことがわかる。
「また、襲われて、今度こそ手遅れになるかと思ったのに・・・本当にあなたは!」
「・・・・・ごめん、リブラ。何度も迷惑をかけて」
「・・・・・私にも責任があります。あなたのことを考えていなかった。私のミスです」
「・・・・・」
もうリブラに何も言い返せなかった。極論俺が悪いのだが、それにリブラが責任を感じているらしい。そんな中俺は口の端が吊り上がっていた。
「レン・・・何を笑っているのです?」
そうリブラが困惑する。まあ、今の俺は他人から見れば気持ち悪いだろうが。それでも俺はつい笑ってしまった。
「・・・なんだかさ、心配してくれるのがうれしくて笑っちゃったんだ。だから・・・ありがとう、リブラ」
「・・・・・・・」
一瞬真顔になったリブラだが、俺につられて笑ってしまう。そういえばしばらく見ていなかったかもしれないリブラの笑顔だった。
「本当にあなたは、おかしな人ですね、レン」
「ああ。それがお前の相棒だ、リブラ」
そう言って俺たちは笑いあってしまった。遠くで見ている視線に気づかないで・・・
※
メイ視点
私はリブラさんと一緒に水嶋君のいるところまで走っていた。そして目に入った光景に思わず足を止めてしまう。大きな木が倒れていた。それだけではない。まるで殴り飛ばされたかのように大きくえぐられた跡があったのだ。
(これが、水嶋君の力)
そう思って私は心の中でほくそ笑む。これで私の力はほぼ必要なくなっただろう。
今回の戦いは手を貸すが、それはあくまで借りを返すためであり、それ以降は関わりを持つ必要はないのだ。何せここまでのことができる人物がこちら側にいるのだ。私の出る幕は恐らくないだろう。当の水嶋君は意識を失って倒れているがきっとすぐに能力に順応して異世界人と戦ってくれるだろう。
(もうこれで安心かな)
最初はこの戦いに勝利しても他に異世界人が狙ってくるなら、最低限のつながりは残しておこう思っていた。しかし、異世界人の狙いが異能力に目覚めた人間なら、それは彼も該当する。それに彼は異世界人と積極的にかかわろうとしているのだ。敵の狙いは間違いなく彼に向けられるだろう。その間、私はおとなしくしていれば案外うまくやり過ごせるかもしれない。
また独りで生きていける。
もう誰にも侵されることのない私の世界。
けれどなんでだろう。
「けれどレン・・・無事でよかった」
「心配かけて悪かったって」
最初はリブラさんが怒っていたがなぜか笑いあっている彼らを見ると胸が締め付けられる。
―本当は私も―
(っ!!)
一瞬くだらないことが頭をよぎったが私はそれをすぐに振り払う。私は一人で生きていたい。仲間なんて必要ない。ただ私は・・・
『何か不満があるのですか?』
先ほど言われた言葉が妙に頭の中に刻まれている。私は震えながら歯を食いしばって必死にそれを否定する。
(不満なんてない! 私はもう誰にも私の世界を侵されたくない。ただそれだけなんだ)
けれどもこの感情は何だろう。私はそれで満足のはずなのに。あの二人が私の胸をざわつかせる。あの光景を見て私が羨ましがっているとでもゆうのだろうか。
(ありえない・・・そんなことはありえない!)
確認も含めて私は二人のところに遅れながら歩いていく。こわばった顔を無理やりほぐしてニコニコしながら、かつ心配した風を装って不安定にも歩いていく。
「水嶋君! 大丈夫だったの!? 何かすごい音がしたけれど・・・」
「葉島、驚かせてしまってすまないな、けれどおかげで何かがつかめたんだ」
そう言って彼は笑いかけてくれる。とにかく無事で何よりだ。予定では明日にもあの異世界人と遭遇するかもしれないのに、けがで彼も退場されたら、本当にこの二人が邪魔ものになってしまう。とにかくこれで日常へと戻れそうだ。そう思っていたところ、
「これで、葉島のことを守れそうだよ。とにかく役に立って見せるから!」
「・・・・・・うん、そうだね」
守る? 誰が、誰を? いったい何のために、どんな見返りを求めて?
下手をしたらまた貸しのようなものを作ってしまうかもしれない。そう危惧した私は思い出す。私が異世界人に襲われたとき、彼は・・・・・
『やめろっ!』
ただ走って駆け付けてくれた。そう言えばどうして彼はあの場に来てくれたのか。もしかして知らないうちにストーキングでもされていたのだろうかと一瞬身をこわばらせるが、私は思い出す。
(そうだ、助けてって私が叫んだんだ)
何故? どうしてあの時私は知りもしない誰かに助けを求めたのだろう。別にあのまま死んでいても、私は未練なんて何もなかったのに・・・
―誰かに助けてほしかった―
「っ!?」
さっきから何なのだろうか。この二人と関わってから私はおかしくなった気がする。ありえないことばかり考えて今までの自分を否定しようとしてしまう。
「? どうした葉島、なんか顔が怖いぞ」
「あ、ご、ごめん。やっぱりちょっと緊張しちゃって。でも大丈夫、私も力になって見せるから!」
そう言って私は誤魔化した。そうしないと自分がおかしくなってしまう。こうして私は先ほどの光景が目に焼き付いて離れないまま、自分自身を誤魔化し続けるのだった。
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