第14話 憧れ
「身体能力の強化?」
そう言われ俺は首をかしげる。今まで治癒だと思っていたのだがまったくの別系統ではないのか。そう思っていたがリブラは説明を始める
「まずあなたの治癒能力ですが、あれは恐らく自己治癒力の強化でしょう。自分の治癒力を強化することで命を繋ぎ止めたり、傷を治したりできていたのでしょう」
そう言われ俺はまだピンと来ない。それだけなら身体能力の強化とは言えないのではないか。
「確かにそうかもしれないけど、それだけなら治癒と言ってもいいんじゃないか?」
「いえ、きちんと根拠はあります。思い出してください。アズールと遭遇したあの日の夜のことを」
「あの日の夜・・・」
思い出したくもないが思い出す。俺があの現場を見つけることができ、何とか葉島のことを救い出すことができたのだ。ぶっちゃけほとんどリブラに戦闘を任せてしまい、俺自身は何も・・・
「そもそもどうしてあの現場を見つけることができたのか、覚えていますか?」
「なんでって、葉島が助けてって言ってたのが聞こえたから・・・」
「その場所まで何m程離れていたかわかりますか?」
結構がむしゃらに走ったから覚えていないが、たぶん200mほど走って・・・あれ?
(なんで俺、そんなに離れた場所から声が聞こえたんだ?)
ここでようやく俺は違和感に気付く。
「気づきましたか。あなたは聞こえるはずもない距離の声を拾い、その場所まで確か・・・15秒もかからずに向かっていましたが?」
「なっ・・・そ、そんなに早かったのか俺?」
「私は途中で鳥になって追いかけたから早く着くことができましたが、それでもあなたの足は異常でした。極めつけは彼女の手を取った時です」
リブラの大砲によってアズールが葉島から手を離した時のことだ。もうここしかないと思って俺はあの場所に飛び込んだ。けれど確かに、あんなにうまくいくことはあるか? そう思っているとリブラはため息をつきながら俺に教えてくれる。
「あの瞬間ですが、私にはあなたが消えたように見えました、気づいたら彼女のもとにいたのですから」
「消えた・・・?」
「はい。私の目ではとらえることができませんでした。恐らくあなたはあの日、聴力と脚力を無意識に強化していたのでしょう。それにその後肩の傷を治していましたね? 正直言って異常ですよ、あなたの能力は」
異常? けれどリブラやアズールだってあれだけの力を使って戦闘をしていたのだ。ちょっと耳がよくなったり、足が速くなったりで異常などと言われても・・・
「私の世界にも身体強化の異能力を持った人はいます。けれど異能力を手に入れて数日であそこまでの強化はできません。せいぜい運動能力が少し上がるくらいですし、ましてや五感の強化など聞いたことがありません。そして・・・」
そう言ってリブラは恐れるように俺を見つめ
「自分の傷を治すことなど絶対に不可能なはずなのです」
不安そうにそう言い放った。
「でも最初に言っていただろ、自己治癒力を強化したって。それならば可能なんじゃないのか?」
「確かに止血や免疫の強化はできるかもしれません。けれど失った血肉が戻ることはないんです。現にあなたは一週間前に心臓を貫かれましたね。しかしあなたは心臓の修復に成功し今も鼓動を続けている。あなたの能力は想像以上に強力なものなのかもしれません。何せ覚醒せず無意識に能力を使っている時点でこれほどなのですから」
そう言ってリブラは俺のことを恐れるように見つめてくる。相棒にそんな顔をされるのは辛いが、それほどまでに俺の異能力はおかしいらしい。
「待って、今覚醒って言った?」
「はい。アビリティストーンと体が馴染むと無意識に言葉が浮かんでくるんです。それを私たちは覚醒と呼んでいます。例えば葉島さんはもう覚醒していますよね。何せ自分の意志の下で能力を使えるのですから」
そう言えば俺にはそんなことは今までなかった。だからこそ俺は自分の異能力についていつまでたっても無知なままなんだろう。
「なのでレン、あなたが始めるのは能力を覚醒させることからです。そうでないと何も進みません」
「覚醒と言っても具体的には何をすればいいんだ?」
「私には何もできません。アドバイスするとしたらそうですね・・・」
リブラはそう言って何かを思い出すかのように目を閉じる。
「私が覚醒したきっかけは、力を欲したからです。仲間を守りたい、誰かの役に立ちたい。
けれど何もできない自分に嫌気がさしておかしくなりそうでした。日に日に傷ついていく仲間を見て私は覚悟を決めたんです。みんなのために生きようと。その瞬間私は覚醒しました。頭の中に言葉が浮かんで気が付いたら、私は盾となって仲間を守っていました」
そう言ってリブラは葉島のほうに歩いていく。
「だからレン、あなたも覚悟を決めなさい。あなたがなにをしたいのか。どうして戦おうと思ったのか。もう一度見つめなおしてみてください」
※
ひとりになった俺は、静かな森の中で立ちすくみながら考え込んでしまう。
(俺がなにをしたいのか・・・・・か)
気づいたら得ていたこの力。それを使って俺は何をしたいのか。
確かに俺は目の前のことしか考えていなかった。敵を倒すことだけを考え、それ以外をないがしろにしていたかもしれない。目をつぶって浮かぶのはリブラと初めて出会った日のこと。
―あんな風に生きたいー
俺はそう思ってしまったのだ。彼女の揺るがない心に影響され俺は自ら協力を申し出た。その先に何が待ち受けているかはわからない。
もう誰にもあんな痛い思いをさせたくない。この町で悲劇を起こしたくない。
そうだ、俺もリブラみたいに・・・・・・
その時、俺の心が燃えた。
※
リブラ視点
「結果はよろしくないようですね」
私はメイの様子を見に戻ってきました。しかし、彼女は地面にへたばっており、まるで全力疾走直後のように肩で息をしていました。
「それが、私の能力って二分以上発動できないみたいで。それに結界を大きくしようとすると薄くなるし疲れるしで、全然うまく行かなくて」
「やはりあなたの異能力にも制限のようなものがあるのでしょう。まあ、それがわかっただけでもよしとします」
そう言って私は彼女へ近づき前々から気になっていたことを話してみます。
「そういえば私は学校であなたを見たことがあるのですが、多くの人に囲まれていましたね」
「あはは、まあ・・・はい」
そう切り出した私はやはり違和感を覚えます。まるで友達のことを話したがらないように、話題を切り替えるタイミングを狙っているように見えたのです。気づいたら私は
「何か不満でもあるのですか?」
そんなことを言ってしまいました。彼女は目を丸くし、苦笑いを浮かべながらニコニコと笑います。
「ふ、不満なんてないよ? こうして知らないことを教えてくれているだけで、十分すぎるくらいだし。それにこれって必要なことなんでしょ? だったらもっと頑張るよ!」
そう言って彼女は普段よりも明るく私に応え返してくれました。私には彼女がなにを抱えているかわかりません。ですが一応、アドバイスをしておきましょう。
「そうですか。でも、もし何か不満があるならいつでも口に出してくださいね。口に出して啖呵を切るのとただ心の中で思うことは大きく違います。そうしないと相手には伝わらないのです。人はきっかけがなければ何も変わりません。気づくのは手遅れになってからです。そしてそのきっかけを見つけたり作り出したりするのは、他でもないあなた自身なのですから」
「・・・・・・」
メイは口を閉じて真剣に私の話を聞いていました。私が思ったとおり、何か秘めた思いでもあるのでしょう。しかしそれはあくまで彼女の問題。私が口出しするのはここまでです。変われるかどうかは彼女次第なのですから・・・
「とりあえずメイ、これくらいにして一度レンのところへ帰りましょう」
「う、うん。そう言えば水嶋君は今何を?」
「はい、レンは・・・」
今頃自分と向き合っているでしょう。そう言おうとした時でした。
ドーーン!!!
「なっ!?」
まるで雷が落ちたかのような音がして私は危うく転びそうになります。なにかの地響きまでこちらに届いてきました。隣にいたメイも耳をふさいで震えています。
(まさか・・・敵襲!?)
まさかこんな明るい時間から襲ってくるなんて、うかつでした。無理矢理覚醒を促そうとあんな突き放すようなことを言って別行動をしたことを私は後悔します。
レンと合流しなければ。私たちと違って覚醒していない彼には、まだ明確に戦うための力は備わっていません。そんな彼が捕まったらどんな目にあわされるか。私は急いで駆け出し、慌ててメイもついてきてくれます。正直、私が駆け付けたところで今は何もできないので、彼女が来てくれるのはありがたいことでした。私たちは森の中を駆け抜け、轟音がしたところへとたどり着きます。
「レン!! 無事ですか!?」
そう言って私は何があったのか確認します。
そこにはえぐれた木がありました。太さは、半径1mほどでしょうか。決して小さくはないその大樹は途中で割れ、大きな幹がその奥に倒れていました。まるで横からとてつもない衝撃波をくらったかのようでした。
恐らく先程の轟音はこの木に何かとてつもなく強い衝撃が走った音で、この木が倒れることでちょっとした地響きが私たちのところに届いたのでしょう。
「いったい何が」
あったのでしょう。そう言おうとした時でした。誰かが折れた木の手前で倒れているのが見えました。警戒しながら近づくと倒れている人影が見えたので私は慌てて駆け寄りました。
するとそこには、
「いったい・・・いったい何をしたのですかレン!?」
私の相棒が気を失って倒れていました。
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