第13話 指導

 翌日の朝。俺は重たい瞼を開け、ベッドからから体を起こす。そして昨日のことを思い出し思わずため息をつく。


 俺が戦わなくてはいけないのだ。もうリブラはしばらく戦えないだろう。だからこそ、俺が今までの分を取り返すように役に立たなくては。




そういえはリブラはどこに行った? あの後一緒に帰って行って珍しくうちに泊まっていくことにしたのだ。彼女は食事や学校、そして一緒に見回りをする時以外は基本的にどこかへ行ってしまうので、四六時中一緒にいるわけではない。よほど疲れていたのだろう。




 その時、俺は自分の横に何か重たいものがあることに気付く。




(まさかな・・・・・)




 そう思いながらも不安になった俺は思わず布団をめくってみる。




 そこにいたのはリブラだった。寝ているうちに力がある程度戻ったのだろう。鳥から人間の姿へと戻っていた。それだけならいい。俺は彼女に手を出したわけではないしお互い疲れていたのだから仕方ないと割り切れる。しかしそれとはまた別で問題が生じていた。




(なんで裸なんだよ!?)




 そう言えばリブラは服を能力によって変えていると言っていた。昨日は駅前を歩くために女子高生の制服を能力によって作り出していたのだ。


 恐らく初めて会った時に来ていた異世界の服はどこかに隠しているのだろう。だから昨日彼女が着ていたのは能力によって作り出されていた服で、能力を解除したら元に戻るのは必然であった。




(せめて・・・起こさないように)




 忍びのようにベッドから抜け出ようとする。しかし神は悪戯好きなのだろうか取り返しのつかないアクシデントが起きる。




「♪~」




 けたたましい音が鳴り響いた。俺の電話だ。こんな早朝に電話をかけてくる奴がいたらしい。いったいどこの誰だ? そう思いながらも俺は現状を思い出して焦りだす。




「んんっ・・・・・・・レン?」




 もはや手遅れだった。俺は頭の中で言い訳を考えるがすぐには思い浮かばない。そんな中リブラも少しずつ意識を覚醒させる。




「あれ・・・人間の姿に戻って・・・というかこのベッドは・・・はっ!!」




 恐らくすべてを悟ったのだろう。リブラは少しずつ顔を赤く染めわなわなと震えている。




「わ、私としたことがこっ、このようなはしたないことを・・・・・」




 あわあわとしているリブラは何というか新鮮だった。いつもは頼りになる相棒なのに、今はとてもかわいい小動物に見えてきた。




「とりあえず服を着てくれ、最初に来ていた服があるだろ。それがだめなら能力で・・・」


「そっ、そうですね、では着替えてきますので、あっちを向いててくださーい!」




 とんでもないスピードでもう一つの部屋へ行く。向こうの部屋からこっちを覗いちゃだめですよと念を押される。というか俺の家に服を隠していたのか。




 俺は切り替えてさっきからなりっぱなしの電話を手に取りベランダに出る。非通知で怪しさ満点だった。




「もしもし?」




 俺はベランダでしゃべりだしながらついでに洗濯物をしまい込もうと、空いている手を動かす。




『もしもし水嶋君? 葉島ですけど』




 そう言えば昨日俺の電話番号を教えていたな。




(にしても非通知設定かよ)




 用心深いのだろうか。まあ教えたのは俺の電話番号だけで、葉島の電話番号は登録していないのだから仕方がない。




『今日会うってことだけどどこにしよっか?』


「ちょっと待ってくれ・・・リブラ」




 俺は着替え終わったであろう相棒に声をかける。若干顔は赤いが先ほどよりはマシだろうか。




「葉島がいつ会うかって言ってるんだけど」


「そうですね・・・では二時間後くらいに昨日の公園で」


「わかった・・・葉島昨日の公園に二時間後でどうかって」




 そう言って俺は葉島の返答を待つ。




『うん構わないよ。ところでもしかしてもう水嶋君はリブラさんと合流しているの?』


「合流も何も今うちに」


『えっ! 二人とも一緒の家にいるの!?』


「あっ・・・・・」




 やばい。余計なところで口が滑った。とりあえず俺は葉島の誤解を解こうと説明する。




「リブラとは食事を一緒にするくらいで後はほとんど別行動だ。今日はたまたま早く来てくれていただけだよ。昨日のこともあったし・・・」


『なるほど、でもそれって半同棲って言うんじゃ・・・』




 そんなことはないと思うのだが。現にリブラが顔を赤くしてしまっているからやめてほしい。


 俺はまた後でなと言って電話を切り部屋の中へと戻る。リブラは少し不貞腐れて顔だけでなく耳まで真っ赤になっている。




「悪かったって、お前の裸を見たことは謝るから機嫌を直してくれよ、な?」


「私が悪いのでそこはもういいです。まあいささか不本意ではありますが」




 本人的にも納得できていない様子だった。俺は話題を変えようと朝食の話をする。




「とりあえず飯でも食って気分を変えようぜ、いまから作ってやるからさ」


「・・・・・・デザートも所望します」




 まったく優しいのか手厳しいのか。デザートと言っても何も・・・ああそういえば貰い物のさくらんぼがあったな。あれを消費してしまおうか。


 そんなことを考えながら俺は朝食を作るのであった。






  ※






二時間後、俺たちは昨日の公園に集まっていた。


可愛らしい私服の葉島に一瞬見入ってしまったが、俺はすぐに切り替える。しかし、どうやら葉島の方もリブラのことをじっと見ているようだった。昨日は鳥の姿だったからか、まじまじと見ている。




「二人とも、じっとしてないで行きますよ」




リブラの声に従い、俺たちは公園の奥の方へ向かい歩いていく。この公園は奥に神社がある。公園から神社の道を途中で曲がると、すぐ森の中に入ることができるのだ。リブラが上空から見つけたらしい。なんでもこの町の地理をもうほとんど覚えているとか。


 ともあれ、俺たちは開けた場所に来るとリブラは止まり




「今日はここを訓練場とし、それぞれの異能力を磨いてもらいます」




 これは今朝も聞いたことだが、やはりリブラは今回の戦闘に参加できないらしい。一回程度なら変身できるらしいが、力を取り戻すのにはもうしばらくかかるそうだ。




「レンは私と一緒に異能力の開発を、メイは障壁の質を上げるために練習メニューの指示を出します。各々自分にできることから始めましょう」




 そう言うとリブラは何かを目指して少し歩きだす。30mほど歩いたところに見えたのは




「滝?」




 こんなところに滝、というか川があるなんて知らなかったな。どうやらそれは葉島も同じらしく、同じく目を見開いている。




「メイには異能力を使ってあの滝を止めてもらいます」


「あ、あれを止めるの!?」




 そこまで大きな滝ではないといえ、どうやら本人的に難しいらしい。




「せめて三分以上止められるようにならないと、戦いでは話にならないでしょう。現にあなたにもそれはわかっているはずです」


「・・・・・」




 葉島だけでなく、俺にも思い当たることはあった。アズールの攻撃を受けたときあの結界はすぐにひびが入っていた。リブラはそれを役に立たないと言い切った。それに異能力である以上、何かしらの制限はあるはずだ。それを模索することも目的に入っているらしい。


 葉島はやってみると言い滝の方へと歩き始めた。




「さあレン、私たちはこっちです」




 そして俺たちは先程の開けたところへと再び戻ってきた。そして丸太の上に座ったリブラが、一瞬目をつぶり何かを考える様子を見せたがすぐに向き直って話し出す。




「まだ予測の域を出ませんが、あなたの異能力について少しわかったかもしれません」


「えっ、それってどういう?」




 わかったもなにも、俺の能力は治癒能力ではないのだろうか。少なくとも俺はそう思っている。それ以外に思い当たる節は何も・・・




「あなたの能力、おそらくそれは・・・・・・・・・・身体能力の強化です」


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