第12話 それぞれの思惑

 葉島を送るために一緒に離れのバス停まで向かう。さすがにまた先程の駅前まで戻る度胸はなかった。なので最寄りのバス停からバスに乗車し、いくつかのバスを乗り継いで葉島の家まで向かう。


そうして俺たちは葉島の自宅前までついてきた。




(うっわー・・・これが金持ちの家かよ)




 仮にも葉島は社長令嬢だ。使用人の送り迎えとかがあるかと思ったが、両親の教育方針で厳しく育てられているらしい。


 噂では葉島の父親である社長も毎朝自転車で、大企業といわれるほどの会社まで出勤しているとかなんとか。




「今日はいろいろとありがとう。それじゃあまた明日ね」


「ああ、それじゃあおやすみなさい」


「うん。おやすみなさい」




 そうして俺たちも家に帰ることにする。葉島とは明日異能力についてともにリブラから指導を受けることになった。俺も何かしらの影響があるかもしれないから努力は怠らない。




「とにかく、今日は帰って明日にそなえますよレン」




 俺の肩乗ったリブラが帰るのを急かす。このままで歩いていても危ないし、リブラも体を休めたいのだろう。


 こうして俺たちは明日のために、体をゆっくりと休めるのことに努めるのだった。






  ※






メイ視点




「はぁ~どうして巻き込まれちゃったんだろ、私?」




 私は無駄に広い家の廊下を歩き、自室のドアを開けベッドにカバンを放り出す。




「結局利用しようとしているだけなんだよね」




 ペットショップに言っていたというのは本当だが、別に動物が好きというわけではない。単に欲求に従って行動する動物を何も考えず眺めているのが好きなだけだ。




 私は他人を信じることができない。




 いわゆる人間不信というやつだ。私は私以外のすべてを信頼してはいない。




 私の両親は厳格でいつも厳しかった。その性格ゆえに自分たちが間違っていてもそれを認めようとせず、いつも私の能力不足のせいにしようとするのだ。幼少の頃からゆがんだ愛情を注がれ、私はすっかりひねくれてしまった。それでも大抵のことは要領はよかったため、途中から安心した両親は完全な放任主義になってしまった。ここ数年、親とはまともに口をきいていない。それどころか、家に帰ってこない日も多いのだ。




 父は会社の社長で多くの部下を取り仕切っている。社長にもかかわらず部下の仕事を引き受け残業も買って出ている。そのため部下にも慕われているらしい。そしてそのカリスマ性で多くの支社を管理し、日本有数の大企業に上り詰めた。




 母は世界的なモデルで今も世界中を飛び待っている。スケジュールの都合上、家にいる時間も短くなってしまい、会えない時は置手紙を残したりする。というより、日本にいるより海外にいる時間の方が多い人だ。




 率直に言おう。二人とも見ていてイライラする。


 結局人の上に立つような人間でも誰かに利用されているし、憧れの存在であっても誰かにスケジュールを決められ自分の時間を奪われているのだ。


 あまつさえそんな人間が自分たちの理想通りのお人形を作ろうとして厳しく躾け、完成したらしたで、もう用はないと放り出してしまうのだ。




 つまり私自身も誰かに決めつけられて生きていた。いや、自分を偽って生きているのだ。




 誰とも関わりたくない。面倒をおこしたくないし掛けられたくない。クラスのみんなも両親たちももう関わらないでほしいものだ。




 だからそのための努力もした。できるだけクラスの人と面倒を起こさないように、一度は喋ってどのような人柄か判断することにしているのだ。自分にとって脅威でなければ二度と喋らないし、逆に面倒な人間達とはしゃべるようにしている。そうしてその者たちを仲良くさせ、自分はその中から自然消失するというのが私のやり方だ。


 私は仮にも社長令嬢だ。取り入ろうとする人間は大人だけでなく、私と同い年の子まで、私のことを色眼鏡で見てくる。女子だけならまだしも、男子に関しては私のことを気色の悪い視線で見ていた。先日の野球部などがいい例だ。


 だからこそ私は余計なことにならないようにお人よしを演じているのだ。そのせいで教師を含め多くの人に信頼されるようになってしまったのは誤算だった。しかし最低限のコミュニケーションをとり最終的にはもう一切関わらないでほしい。私はそう願いながら毎日努力をしていたのだ。




 そんな中、私の願いを否定するかのように面倒ごとが降って湧いた。異能力? 異世界人? そんなの知ったことじゃない。勝手に争っていればいい。幸い自分には自分の身を守るための能力が偶然にも備わっているし、自ら関わるメリットもない。だからこのまま身を引くつもりだった。




 しかし、私が狙われているのは厄介だ。自分で動かざるを得ないし、私一人にどうにかできると思えない。




 だからあの二人を利用するのだ。自分が誰かと関わらなくていいように。これ以上巻き込まれないためにも。




「まっ、助けてくれた恩義もあるしね」




 余計な貸しを作っておくのも癪に障る。しかし助けられたのは事実なので、最低限の働き をしてこの貸しをを返済しよう。




「どうせ今回限りの仲間、これが終わったら二度と喋らないだろうし」




 そうして私は一人で、作り置きされた遅めの晩御飯を食べるのであった。






  ※






アズール視点




 俺は先程の駅前から離れた山の中に身をひそめていた。幸い食料などは、提供してくれ協力者がいる。服に付いたちを能力で剝がしとり、俺は今後の行動について計画を練っていく。




(まず優先すべきはあの女だ。ようやく見つけた異能力者、何としてでも見つけなければ)




 俺たち異世界からやってきた連中はこの世界について何も知らない。だからこそ早く元の世界へ帰って自由の身とならなければならない。帰るという目的だけならリブラを頼ってもよいのだが、それでは結局牢の中に逆戻りだ。それだけは避けなければならない。




(どうする・・・あいつらと合流するか?)




 リブラに仲間がいるように俺たちにも仲間がいる。一緒にこちらの世界にやってきた奴らとこの世界で協力をしてくれる連中だ。




(いや、あいつらだけなら俺一人で対応は可能。それにあいつらに余計な心配をかけるわけにもいかねえ)




 なんやかんやで俺は仲間思いなところがあるのだが、仲間からはそうは思われていないらしい。まあ問題をおこすのはいつも俺なので反論はできなかったが。




 そう言って俺は仲間のことを思い出す。俺たちは三人で構成されたいわゆる犯罪者集団だった。


 「鮮血の影せんけつのかげ」と名乗って活動しており、それぞれが一騎当千の異能力を所持していた。


 しかし、王宮直属の異能力者集団につかまってしまい俺たちは真っ暗な牢獄にぶち込まれた。その中にあのリブラもあった。その姿ゆえに、戦闘ができるイメージはなかったため前回も今回も完全に油断していた。




(あの女を捕獲したら次はお前だ・・・待っていろ、リブラ!)




 そう決意していた時だった。




「相変わらず血気盛んだねー、アズールは」


「つ!?」




 いきなり後ろから声をかけられ俺は体勢を崩して驚いてしまう。




 赤髪の男だった。身長は俺より低い。恐らくリブラと一緒にいたあの少年よりも一回り小柄であろう。しかし、俺は驚いた後に安堵する。何せ頼りになる仲間がやってきてくれたのだから。




「お前よぉ、いきなり背後に立って驚かせるのをやめろって言ってるだろ


「アハハ、ごめんネ。アズールっていつも面白い反応するからつい魔が差しちゃって。それはそうと困ってるんだって? 俺も手伝った方がいいかな?」




 確かに、こいつが来てくれたなら安心だ。何せ俺よりも強く武闘派であり、そして残忍だ。鮮血の影の中で一番の戦闘狂であり、頭も回る。俺はこいつのことを組織の柱のように思っていた。


 こいつに頼れば間違いないのだが、俺はストップをかけてしまう。




(こいつのことを頼らなくても、まあ俺なら大丈夫だろう)




 恐らくもうリブラは戦えない。あの少女の能力は確かに厄介だが、俺の攻撃を受け、割と早くひびが入っていた。それにあの少年も逃げる以外何もできていなかった。よって問題はないと判断する。




「いや問題はない。それよりそっちに進捗はあったのか?」




 恐らくこいつも誰かしらをマークしているはずだ。そうでなければこんな余裕ぶって俺のところへ来ないだろう。




「実を言うと進展と呼べるものは何もないよ。けどね面白そうな女の子たちを見つけてさ。その子たちのことを見守っているんだ」




 見守るなんてそんなことをする奴じゃない。かといってこいつに性欲のようなものはない。恐らく適当に人間関係を壊し、掻き乱して楽しんでいるのだろう。




「ちなみにその女の子たちの一人ってあいつらの事なんだけどね」


「ああ。あの気味の悪い女か」




 俺たちを支援してくれる協力者たち。その中に一人女が混ざっている。恐らくあいつをきっかけに壊れた人間関係を、こいつはさらに搔き乱したのだろう。




「とにかく俺もぼちぼち頑張るから、そっちも頑張ってねー」


「ああ。大船に乗ったつもりで待ってていいぞ!」




 そう言ってレインは去っていく。仲間に頑張れと言われたのだ。期待に応えないわけにはいくまい。


 そうして俺はあの女を探すために行動を開始するのだった。


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