第11話 仲間(仮)
真剣な顔をしたリブラが葉島に問いかける。それはそうだ。俺だって一番気になっていたことなのだから。葉島は間違いなく異能力を使った。俺たちはそう確信し葉島から話を聞く必要があると思っていた。
「・・・・・・・」
葉島は黙ってリブラのことを見つめていた。少し時間が流れた後、葉島が重そうな口を開きしゃべりだす。
「ちょうど一週間くらい前のことです。白い髪の女の人が突然目の前に現れて、私に近づいてきたんです。幽霊みたいで怖いし、逃げようと思ったんですけど身体が動かなくて。そしてその女の人が突然笑いだして、ふっと消えたんです」
手を固く結び震えながらその時のことを俺たちに話す。
「いなくなった時気づいたんです、私の手に石みたいな何かが握らされていることに。しかもそれは割れちゃうし・・・。人に相談することもできず、というか相談する人がいなくて・・・」
葉島はいつも相談に乗る側のイメージがある。彼女が相談する姿を確かに想像することは難しかった。頼れる彼女だからこその悩みなのだろう。
「そのまま何もすることなく日々を過ごして、今日あの男の人に襲われたんです。『ようやく見つけた』って言われていきなり腕をつかまれたんです。そして必死に叫んだら二人が来てくれて、あとは二人も知っているとおりにそのまま助けられて・・・」
そのまま俺たち三人は沈黙する。何せ一気に重要な情報が増えたのだ。何となくだが葉島に起こったことは理解できた。
まさか彼女が異能力者になっているとは。それだけでなく自身の異能力を使いこなしていた。あの光景を見て俺は自分の無能力さに少し腹が立つ。
そして次の瞬間俺の相棒が沈黙を破り話し出す。
「あなたに近づいた女の人ですが、顔ははっきりと見えたのですか?」
「その・・・見たはずなんですけどよく思い出せなくて、ただ女の人だったということと、白い髪をしていたことしか覚えていないんです」
「それは・・・・・」
異能力による力。俺もその結論に至り少し考え込んでしまう。その女は髪の色から恐らく異世界人の可能性が高い。しかし、なぜ葉島にアビリティストーンを渡したのだろうか。俺はさっぱり意味が分からなかった。
「ではあなたにもう一つ質問を。あなたの異能力はいわゆる盾のようなものを作り出すものだと思ったのですが違いますか?」
「その・・・あたしにもよくわからなくて。あたしもあんなことができるなんて」
どうやら葉島自身も驚いていたようだ。
「・・・? あの様子だとあなたは能力を使いこなしているように見えましたが、違うのですか?」
リブラも違和感を感じたのだろう、より深く葉島に追及した。
「その・・・あの時何とかしなきゃって思ったんです。そうしたら頭の中に言葉が浮かんできて、そしてそれを言い放ったらあのバリアが現れたんです」
「ああ・・・」
何やらリブラも納得した様子で、唯一わかっていたいのであろう俺に説明する。
「アビリティ―ストーンを取り込んだ人はしばらくすると、頭の中に言葉が浮かぶんです。私の場合は『メタモルフォーゼ』という言葉が浮かびました。その言葉をトリガーにいつも能力を使っているんです」
思い返してみれば、理宇ブラはいつもその言葉をいって能力を使っていた。
「ということは俺もトリガーになる言葉があるってことか?」
「間違いなくそうかと。きっとあなたも異能力を必要とする時が来たらそのことばがおもいうかびますよ」
そう言いながらリブラは俺の肩を見て目を見開いた
「ところでレン今更なのですがあなた、怪我はどうしたのです?」
「あっ・・・そういえば」
俺はアズールから逃げる際、風の弾丸を思いっきりくらって肩を貫通していたのだ。改めて肩を見るともう血が止まっていた。それだけではない。もう痛みが引いている。どうやら完治しているようだった。
「やはりあなたの能力は治癒系の能力なのでしょうか・・・」
だとしても俺はトリガーとなる言葉をいっていない・・・と思う。
(俺の能力は一体?)
俺がそう考え始めた時だった。
「えっと・・・もしかしてだけど水嶋君も同じことがあったの?」
そういえば葉島には俺のことを説明していなかった。俺は自分が殺されかけたことは除いて大体のいきさつを話すことにきめた。ここまでかかわってしまった以上、何も説明しない方が危険だろう。
「俺も一週間くらい前に、たまたま石みたいな何かが頭の上から降ってきたんだよ。そしてそれを触ったら割れちゃってさ。そしてリブラと出会ってこいつのことを手伝ってるってわけだ」
「なるほど?・・・・・」
端折りすぎて少しわかりずらくなってしまったが大体こんな感じだろう。俺たちはお互いの情報を交換し、一番事情を知っていそうなリブラに話の結論を任せることにした。
「恐らくですが、アズールたちの狙いはわかりました。恐らく彼らはこの世界で異能力に目覚めた人たちを襲っているのでしょう」
目的はわかりませんが、と付け加えリブラはそう言い切る。だがあながち間違っていないと俺は思う。数ある人間の中でわざわざ葉島を狙ったのだ。恐らく何らかの手段で葉島が異能力者になったことを知り、今日の夜に襲おうと計画し実行した。そう考えるのが何となくしっくりくる。
「怖いかもしれませんが、恐らく奴はまた襲ってくるでしょう。正直なことをいうと私はしばらく戦闘に参加できないでしょう。今回の戦闘で想像以上に消耗してしまいました」
そしてリブラはある意味残酷で、もっともなことを俺たちに言い放つ。
「もし次襲われたとき、動けるのはあなたたち二人だけです。早ければ明日中に私たちの居場所を突き止め、追いかけてくるでしょう」
「突き止めるって、それも能力の応用か?」
「それもあります。しかしどうやら彼らには協力しているものがいる様子です。私が知る彼はあそこまで頭が回らなかったはず」
確かに最後の方は怒りに任せて攻撃を仕掛けてきた。感情的になっていたのがこちらにとっては幸いし、俺たちは逃げおおせることができたわけだが・・・
「とりあえず急ぐ必要ができました。レン今日は私たちで彼女を家まで送りましょう」
「ああ・・・そうした方がよさそうかもしれないな」
「その・・・おねがいします。さすがに一人で帰るのは怖いかな」
俺たちの目の届かないところで襲われる方が怖い。俺に何かできるわけではないが、治癒のようなことができる以上、俺が身代わりになった方がいい。俺はそう結論付けた。
「レン、明日は休みのはずですよね?」
「そうだな、二日間休みになる」
「この二日間です。この二日間で・・・・・アズールと決着をつけます」
「・・・・・・・・は?」
いきなりの展開だった。確かに逃げるにしても限界があるが、まさかいきなり戦うつもりだったとは思わなかったので俺は驚く。
「そして次に戦うのは・・・レン、あなたです。あなたがアズールを倒すのです」
「俺が・・・・・・」
あの化け物を倒す。いくらリブラが付いているとはいえ、俺なんかにできるのだろうか。残念なことにあいつを倒せるビジョンがなにも浮かばない。俺の異能力にかかっているのはわかる。しかし、仮に俺が覚醒してもどこまで戦えるかは未知数だ。あのリブラがここまで追い詰められたのだ。正直自信がなくなってきた。
「あの、私が力を貸せば勝つことができますか?」
するとここまで黙っていた葉島が口を挟んできた。彼女は怖がっているのか体が震えている。しかし、その瞳は覚悟が決まっているように見えた。
「あの人の狙いは私ですよね。狙われるならばどちらにしろまた逃げなきゃいけないし、それがだめなら結局戦って勝たなきゃいけないんです。それなら私がいた方が勝率は上がるはずですよね。一対一より二対一の方がいいに決まっています」
ちらりと葉島がこちらを見てそうまくしたてる。
そうだった、この葉島メイという人間はお人よしだったな。クラスで陰キャの俺を覚えていてくれるくらいには。
「こちらとしては助かりますが本当によろしいのですか? 命の危険だってあるんですよ?」
「だったらなおさらです。ここで私だけ逃げてしまって、その結果二人が死んでしまったら私は一生後悔するかもしれません。だから私も一緒に戦わせてください」
そう言い切った葉島の体は既に震えてなどいなかった。
「ありがとう葉島さん。どうか俺たちに力を貸してくれ」
「呼び捨てでいいよ。私たちはもう仲間なんだから」
少し口調を和らげた葉島はそう言い笑みを浮かべ頷いてくれる。リブラも微笑んで頷き返し俺たちはあの怪物と戦うことを誓う。
そうして俺たちは葉島を家まで送るために、三人で夜の街を歩いていくのだった。
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