第10話 疑問
「はぁ・・・はぁ・・・」
いったいどれだけ走っただろうか。俺たちは駅前から走り続け、気づけば住宅街の方にいた。さすがにもう追ってきてはいないだろうと、少しずつ走るペースを緩めていく。
リブラは途中から鳥の姿になり、俺の肩にしがみついていた。もう限界なのだろう、その姿はとてもぐったりとしていた。
そして一緒に逃げてきた女子高生にもさすがに疲れが見え始めた。怖い思いをしたのだ。ここまで体が動かせただけでも上出来だ。
「さすがにもう・・・いないよな?」
そして俺も限界を迎えさすがに足を止めてしまう。俺は近くにあった公園を指さす。
「とりあえずあそこまで行こう。そうすれば少しは落ち着けるはずだ」
女子高生はうなずき歩いていく。その隣を俺も歩き公園のベンチを見つけ二人で腰を下ろす。
そして二人して息を整えた後改めて向かい合う。
「助けてくれてありがとう。その・・・怖くて何もできなくて・・・」
「いやいいんだ。悪いのは全部、君を襲ったやつだから」
謝罪を受け取り俺も息を落ち着ける。そうして俺たちはようやくまともな会話をするすることができた。
(ん?・・・この子・・・)
なんだか見覚えがあった。公園のライトに照られたこともあり、お互いの顔をようやくはっきりと認識することができたのだ。
この女子高生は何というか、もの凄い美少女だった。そう、まるでうちのクラスの・・・
「その・・・もしかしなくても・・・水嶋君だよね?」
「あ・・・・・・・」
そこで俺はようやく気付く。俺が助けたのはうちのクラスの委員長であり、学校のマドンナ的存在だったことに。そう・・・
「葉島さん?・・・」
「う、うん」
そこで俺は自らの失態に気付く。俺がこの世界の住民ではない異邦の存在と関わっていたことに。
(マズイ・・・どう切り抜ける!?)
これ以上彼女を俺たちに関わらせるわけにはいかない。そう考え俺はこの場をどう乗り切るか考えていた。
「少しいいでしょうか?」
しかし、そんな考えとは裏腹に、俺の肩から声がかかる。鳥に化けていた俺の相棒リブラだ。
「鳥がしゃべった!?」
突然鳥がしゃべったことに驚いたのだろう。葉島は目を開き驚いている。
(ああ・・・誤魔化すのはもう無理だ)
俺はもう諦めていた。どちらにしろ誤魔化すのはもう不可能だろう。取り合えずこの場は俺の相棒に任せることに決めた。
「驚かせてしまい申し訳ありません。私はリブラと申します」
「あ・・は、はい。私は葉島メイと言います!」
おどおどしながら葉島は自己紹介する。そしてリブラは異世界のこと、そして現在進行形で何が起きているのかを話していった。
※
「その・・・ドラマの撮影とか、漫画の設定とかじゃないんだよね?」
「はい。この世界、というよりこの町は危険な状態にあります」
葉島は考え込んでいる。この町では数週間前から奇妙な事件が頻発していた。そのことを思い出したのだろう。
「最近は聞かないけど、この前から物騒な話題が上がっていたよね?・・・それってまさか」
「はい。異能力を悪用した犯罪行為の結果です」
彼女は何やら納得した表情をしている。それに先程その現場を目の当たりにしたのだ。もう疑うことができないのだろう。
「それはそうとメイ、いくつか聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「は、はい。なんでも聞いてください」
そう言われたリブラは次々と疑問を提示していく。
「どうしてあのような場所に?」
「えっと、私は電車を使って通学しているんです。今日もいつもみたいに帰ろうとして駅まで来たら、路地裏から声が聞こえたんです」
「声?」
「はい。なんていうか小さな女の子の泣声でした。危ないだと思ったんですけど、放っておけなくて。そしたらさっきの男の人がいたんです」
リブラはしばらく考え込んでいた。しかし何が思い浮かんだのか顔を上げしゃべりだす。
「その泣声は恐らく風で生み出された音でしょう。風を操ることに長けた奴は、恐らくあなたをおびき出すためにわざわざあなたに向けて音を出したのでしょう」
「風の音・・・」
葉島が戸惑った顔を見せた。おそらく信じられないほど本物に近い泣声だったのだろう。
そしてそれを聞いた俺はリブラが前に言っていたことを思い出した。
『異能力というものは応用が利くのですよ』
(そんなこともできるのか。きっとあいつはもっと力を隠している・・・)
勝てるのだろうか・・・。俺はそう不安になってしまう。
「では二つ目の質問です。こんな時間までいったい何を?」
「そ、それは・・・・・」
ここにきて葉島が急に口ごもる。心なしか目を泳がせながらリブラの方を見れないでいるように見えた。
「その・・・二人とも誰にも言わないでくれる?」
「はい。もちろんです」
「ああ、いいけど?」
そう言いながら俺も戸惑ってしまう。あの真面目そうな葉島に何か引け目があるのか。口をもごもごさせながら下を向いてしゃべりだす。
「・・・・・・・を・・・・ました」
「はい・・・?」
小さくもごもごされてよく聞き取れない。なんだ、よほど恥ずかしいことなのか?
「葉島、とりあえずきちんとしゃべってくれ。じゃないと何もわからない」
そう聞いた葉島は目をつぶって改めて話し出す。
「ねこさんを・・・」
「うん」
「ねこさんをずっと見てました!」
「・・・・・は?」
ねこを見ていた? そう言われて俺は戸惑ってしまう。
(え・・・ねこ・・・猫?・・・なんで?)
何か深い意味があるのか、それともしょうもないことを聞いているのか。とりあえず俺は自分なりに推理をして葉島に確認する。
「つまり・・・駅前のペットショップで猫を見ていて、気づいたらこんな時間になっていたと?」
「正確には猫だけじゃなくて犬にインコにハムスターにウサギにお魚にカメに・・・」
「わかった、わかったからとりあえず落ち着いて」
よほどの動物好きだったのか、葉島は少し顔を赤らめている。可愛いなと思いながらも、俺をすぐに気持ちを切り替えて葉島に聞いてみる。
「それだけ動物が好きなら、家で飼ってるんじゃないか?」
「家の両親が動物は嫌いで。それに壊されたりひっかかれたら困るものがたくさんあるからダメだって・・・」
そう言って葉島は子供みたいにしゅんとする。きっと昔からおねだりしていまだにダメだって言われているんだろうな。社長令嬢ということは聞いていたが、意外と不自由なのかもしれない。
「もしかして、友達の誘いをよく断っているのも?」
「うん。みんなに悪いってわかっているんだけど、どうしてもペットショップに行きたくていつも噓をついちゃうの」
意外だった。まさかそんな理由で友達と遊ぶのを断っていたなんて。真面目な委員長もこんな風に嘘をついたりするんだな。
「軽蔑した? 友達より動物を優先する私に・・・」
そう言って葉島は俺に視線を向けてくる。まるで怒られた子供みたいな顔で俺の反応を待っているようだった。
俺も人に何か言えるほど成熟した人間ではないが、何となく言葉を紡いでいた。
「確かに友達に嘘をつくのはよくないけど、軽蔑はしない。誰だって楽になりたい時はあるから。それに普段みんなにやさしく接しているからこそ、葉島さんはたくさんの友達に囲まれているんだろ? みんなも軽蔑したりはしない。笑って受け入れてくれると思うよ」
「水嶋君・・・・・」
とりあえずこの問題をどうするかは葉島自身の問題だ。あとは本人に任せて俺はリブラの方に目を向ける」
「とりあえずその問題は自分で解決することが重要だと思います。今度は噓をつかずにきちんとお友達と向き合ってくださいね」
そう言ってリブラも微笑む。そしてリブラは顔を引き締めて話題を元に戻す。
「それではメイ、最後の質問です」
そう言ってリブラは今まで以上に真剣な表情で葉島に問いかける。
「どうしてあなたが・・・・・異能力を使えるのですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます