第9話 出し抜く
『異能力というのは応用が利くのですよ』
異能力について尋ねたときリブラはそう言って色々見せてくれた。力を失っているとはいえ、最低限の能力は使えるらしく、戦闘も可能とのことだ。
『たとえば私の場合、部分的な変身も可能です。腕を刃にしたり盾にしたりなど、攻撃や防御の手段にすることもできます』
『マジで? それってすごく便利そう。武器を持ち運ぶ必要がないし』
『欠点としては、私は近接戦闘に向いていないということでしょうか』
『あ・・・』
確かに、と思った。申し訳ないがリブラに近接で殴り合ったりするイメージがわかない。というか本人の口から苦手だと言っている。
『利点としては、通常の変身よりも消耗が少ないことや一瞬光るので目くらまし代わりになるとかでしょうか』
それでも、相手によっては意味がない。相手が格闘の達人だったら、本格的に勝ち目が見えなくなる。俺たちは勝てるのだろうか・・・
『一応念のため合図とかそういうのは決めておきましょう。初めての戦闘でそう簡単に勝てるとは思いませんし』
すぐに解決策を用意できる当たり、やはり俺の相棒は頼りになるな。
『そうですね、やはりレンが教えてくれたあれを使いましょう。例えば・・・』
※
あの時のことを思い出しながら俺は相手を観察していた。
リブラの話によるとこちらの世界にやってきた異世界人は3人
そしてそれぞれが髪の色が違い、全員能力が攻撃的だと言っていた。
リブラはこいつのことをアズールと呼んだ。確かこいつの能力は・・・
『
風を操る、そう思い出した瞬間俺の正面に強烈な風が吹いていた。
『
しかしリブラは冷静だ。腕に盾を作りその風を防いでいる。しかも足を釘のようにして地面に固定しているのだ。恐らく経験の差だろう。
「抵抗しても無駄です。あなたでは私に勝てません」
「そうかい?見たところ以前より貧弱そうになってやがるな?」
「っ・・・」
核心をついていたのだろう。リブラは苦い顔をする。そしてこちらに目配せする。
勝てない、恐らくそう言いたいんだろう。このままじゃじり貧。かといってまともに挑んで勝ち目が見えるとは思えない。
だから俺はうなずいた。
以前から決めていたことだ。俺はただひたすら合図を待つ。
「図星らしいな。それになんだかお荷物を抱えているようだ。これはひょっとしてチャンスかね?」
アズールは獰猛な笑みを浮かべ風を一層激しくする。さすがに消耗してきたようだ。リブラも少しずつ押され始めた。
「ギャハハ!! 俺の勝ちだぜリブラ。そんな状態で俺に挑もうとするからこうなる」
不敵に笑うというより馬鹿みたいに笑い始めた。しかし相手は完全に油断している。もう訪れないであろう唯一のチャンスだった。
『
「ああ?」
その瞬間、リブラの腕が変形した。恐らく異世界人は持ち合わせないだろうこの世界の知識。それを俺がリブラに吹き込んだ。
リブラの腕は黒い鉄のようなものに変化した。
大砲
最初は拳銃などの銃を教えようとした。この武器の登場で戦国時代、日本の戦況は大きく変わっていったのだ。案の定、リブラは銃を知らなかった。そして俺は動画を見せてその威力をリブラに説明した。最初は目を輝かせ、自分の腕を拳銃にできたらと試行錯誤していた。しかし、拳銃は構造が複雑だったためリブラは再現することができなかった。だから代わりに教えたのが大砲だった。拳銃よりも構造は簡単で、リブラも理解することができた。
しかし、これができるようになって問題点があらわになった。
威力が弱すぎる。射程が短いうえに消耗が激しすぎるのだ。リブラはこれを1度しか使えないと言っていた。だから俺も準備をする。いつでも行動できるように。
「なんだよそりゃ、苦し紛れの工作か? だったら傑作だぜ、アハハハハハハ!」
チャンスは一度きり、失敗すれば命が危ない。しかし俺に不安はなかった。どんな状況でも俺の相棒は決めてくれる。俺はそう信じて疑わないからだ。
「ファイア!!」
リブラが叫んだ瞬間だった。大砲から空気のような衝撃が飛んでいく。弾は用意できなかったため、飛ばせるのは空気の衝撃波だった。いわゆる空砲だ。しかしただの空砲ではない。きちんと衝撃波富んでいく。そう、向かい風を貫通するほどには。
「ぐぁっ」
見事にその衝撃波は、アズールの顔にヒットした。その一撃でひるんだのだのか、アズールは尻もちをついた。俺はその隙を見逃さずアズールめがけて一直線に走っていく。
否、アズールでにはない。隣に捕らえられていた女子高生に向かってだ。
「・・・・・は?」
なぜだかリブラは驚いた顔をしていたが、かまわず俺は女子高生の腕をつかみ起き上がらせる。
「こっちに!」
「えっ?」
俺はそのままこの子の腕をつかみ来た道を逃げ始める。最初から戦う気などない。この子を助け逃げられれば、俺たちの勝ち逃げとなるのだ。
「リブラ!!」
「うっ・・・はい!」
俺が声をかけるのと同時にリブラも走り始める。これで助かった、そう思った瞬間だった。
「なめてんじゃねえぞぉぉクソガキぃぃ!!!」
無数の風の散弾が俺たちに向かって放たれた。
「マズイ・・・うっ!」
攻撃の一つが俺の肩を貫通した。ものすごい激痛に襲われるが関係ない。今はこの場を離れなけ得れば。しかし無慈悲にも背後には先ほどの何倍もの攻撃が俺を追随していた。
「レン、危ない!」
リブラがそう言って俺に注意を促すがもう遅い。次の瞬間、俺は無数の風の球に撃ち抜かれる、
『
はずだったが、透明な壁がそれを防いでいる。アズールもそれに驚いているのか、おもわず攻撃の手を止めている。
「今のうちに早く、長くは持たないから!」
そう言って俺の隣にいる女子高生が逃げるのを促す。俺たちは夜の街を無我夢中で書け得だした。
「逃げるな! 待ちやがれクソ女ぁぁぁ!!!」
背後でそう叫んでいるのが風に乗って聞こえてきた。
※
「クソ・・・逃げられた!」
思わずアズールはそう呟く。
まさかすでに覚醒していたとは。急いで捕獲しなければ。
そしてリブラとあの少年もだ。アズールはイラつきながら、近くにあったゴミ箱を蹴り八つ当たりをする。絶対に許さない。残酷な目にあわせてひたすら痛めつけてから殺してやる。
そう思い浮かべながら、騒いでいたのが原因だろう。いくつか足音が聞こえてきた。
「警察だ! そこで何をして・・・」
いる、そう言おうとした瞬間には彼の首と体が切断されていた。風の刃で一瞬にして吹き飛ばされたのだ。しかも、この一瞬で遺体を複数も作り出してしまった。さすがにまずいと思いアズールはこの場を離れる準備をする。
「絶対に見つけてやる・・・」
そして、アズールという怪物が蓮たちを追いかけ始めた。
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