第8話 遭遇

 何事もなく午前の授業が終了し、俺たちは駐輪場のほうまで行く。誰もいないことを確認したリブラが少女の姿へと戻ってこちらに向き直り。




「それでは、私は町の見回りに行ってきますね」


「よろしく。お昼は家の冷蔵庫に入っているから、チンして食べてね」


「ありがとうございます。では・・・」




 そう言って小さな鳥の姿に変身したリブラが大空へと飛び立っていく。




(ほんと便利だよなあいつの変身能力)




俺も空を飛んでみたい。そんなことを思いながら俺は教室に戻るのだった。






  ※






「しっかし、ほんと人気だよなー葉島のやつ」




 昼休み、そう言いながら吾郎はタッパーに入ったとんでもない量の米をかきこむ。成人男性1日の量をはるかに超えたカロリーなのではないか。それはそうと確かに葉島の方に目を向けると、多くの人に囲まれており楽しそうに談笑しているらしかった。


 しかし何だろうか。あの笑顔に違和感を感じる。なぜだかそんな気がした。


 そんなことを思っていると、隣にいた龍馬が相槌を打つ。




「まあ彼女のことを嫌っている人はほぼゼロなんじゃないかな」




 確かにあの様子では、ほかの女子から嫉妬されたりするのが普通だろう。しかし葉島は、大抵のことは完璧で隙がない。困っている人がいたら助けられるだけの能力を持っているし、事実みんなから頼られている。なんでも生徒会長に教師直々に推薦されたほどだ。まあ葉島はそれを断っていたが・・・


 俺の幼馴染である鳴崎璃子も多くの人間から信頼を勝ち取っているが、葉島のそれは少し違う。


葉島に任せれば大丈夫と誰もがそう思ってしまうのだ。


 しかもあの裏表なさそうな優しい性格も相まって、みんなから好かれている。本人は知らないと思うが、うちの学校で秘密裏にファンクラブが作られているとかなんとか。




「この前うちの先輩が葉島に告ってたぜ。まあその後ゾンビみたいにバットを振っていたから結果は誰も聞かなかったけど」


「まあ、葉島さんが誰かと付き合うなんて想像できないよねー」




そんなことをいいながら俺たちは昼食を食べ終える。俺はもう一度葉島の方を見る。その時、一瞬目が合った気がしたがさすがに自意識過剰だろう。




「そういえばさ蓮、最近調子がいいのかい? ここ数日で顔色がよくなってるような・・・」


「確かに、蓮っていつもクマばっかり作ってたからな」


「仕事を減らしたんだよ。もう少し自分の時間を作ろうと思ってな」




 二人とも安心したように微笑んでくれていた。よほど心配をかけていたのだろう。


 しかし、事実は違う。異世界人や異能力を手に入れた者たちのことを調べるために時間が足りなかったのだ。だから俺はいったん仕事をストップすることにした。


 もともと、お金に困っていたわけではなく、何となく続けていただけだった。仕送りもあるし、別に働かなくても元々余裕で生活できるほどお金は既に十分にたまっている。


 最近、半同居人みたいなやつがいるが、それを踏まえても高校卒業までは問題ないだろう。だから今のうちに異能力者について情報を集めるのだ。




「そういや二人とも、俺今日部活休みなんだよ。どっか遊びに行かないか?」


「ごめん吾郎。僕はもう違う友達と先約があるんだ」




 と龍馬は断る。こいつも誰にでもフレンドリーで、意外と女子受けもいい。だからこそ友達も多いのに、俺みたいなやつとつるんでくれるから感謝しかない。まあ口が裂けてもそれをいったりはしないが。




「ちぇーそうかよ・・・蓮は?」


「ごめん。俺も用事があってな」


「なんだよお前ら、つまんねえな」




 すまない吾郎。俺にはやらなければいけないことがあるのだ。必ず敵の尻尾をつかむ。そして平穏が訪れたら今度こそ三人で遊ぼう。


 俺はそう誓うのだった。






  ※






 放課後になり俺は教室に残ってリブラを待つ。俺の教室にはベランダがあり誰でも出入りできるようになっている。すると一羽の鳥がベランダの手すりに降り立っていた。


 俺は電話をするふりをしながらベランダに出て、リブラと合流する。




『今日も何も起きませんでした。どうやらこのまましっぽをつかませない気かもしれませんね』




 そう言いながらリブラは最初のネックレスへと変身する。これは後から分かったことだが、どうやら変身するものが小さければ小さいほど、放たれる光も小さくなるようだ。ネックレス程度ではあまり光が出ず、目立たずに変身が可能だ。




「異世界人は今頃何をやっているんだろう」


『わかりませんが、非合法的なことを問わない輩たちです。問題を起こしていてもおかしくはないのですが・・・』




 敵もそれだけ慎重ということだ。そして電話をするふりを続けながら今日あったことをリブラに報告する。




「特に異常はなかったし・・・今日も見回りをして帰るか?」


『それしかありませんね。こうした見回りも相手を牽制する行為になりますので』




 こうして俺とリブラは夜の町に繰り出すことにした。




 それから時間は過ぎ現在夜の9時。俺たちは駅前の比較的にぎわっている商業集積地にきていた。この時間帯から街中は静かになりだす。塾から帰る学生や、居酒屋を出て帰っていくサラリーマンたち。ちなみにリブラは髪を防止で隠し、俺の隣を歩いている。シークレットブーツを履き中学生のような制服を着ている。なんでも変身の応用で体の一部を物に変化させているのだとか。これなら怪しまれることはないだろう。




「いつもと変わらない光景。さすがにこんなところにはいないよな」


「人だかりに紛れ込んでいる可能性もなくはないですが、確かに私も避けたいですね。何せ私たち異世界人は、この世界のことをよく知りもしないのです。そんな中こんな人ごみに紛れるのは、リスクが大きすぎる」




 今日はここまでか、そう思っていた時だった。




「た・・・け・・・」


「っ・・・」




 何かが聞こえた。それもかなり遠くから。だが俺の耳に間違いがなければ、




 ―助けて―




 そう聴こえた気がしたのだ。




「レン!?」




 気が付いたら俺は走り出していた。後ろからリブラが慌てて追いついてくる。




「どうしたのですかレン、何か気づいたことでも」


「今聴こえたんだ! 助けてって、あっちの方から」


「??」




 リブラには聞こえていなかったらしい。だが俺には確信があった。誰かが助けを求め叫んでいた。


 俺の耳がよくなったのか、誰かの思い届いたのかはわからない。けれど俺はその場に向かい全力で走った。


 待ってくださいとリブラの声が後ろから聞こえたが俺はただ走り続けた。






 場所は薄暗く誰も寄り付かないような路地裏だった。


そこに二つの影が見えた。一人は腕をつかまれて怯えている女子高生。そしてもう一人は見慣れない服を着ているすらっとした俺より背の高い緑髪の男。




「やめろっ!!」


「っ・・・!」




 俺はそう叫びながらその男の前で止まる。


 息を切らして追いついたリブラも気づいたのだろう。慌てて周囲を確認し、その男を問い詰める。




「やはりいましたね・・・アズール!」




 そうしてアズールと呼ばれた男はリブラの登場に動揺する。




「貴様はリブラ! くそ、やはり王宮は追っ手を放っていたか・・・」




リブラは俺の前に出て、アズールに言い放つ。




「今すぐその人を解放し、おとなしく私と来なさい。これは最後通告です。でなければあなたを拘束します」




 そしてリブラはありったけの殺気を放ち




「抵抗するつもりなら殺してでも連れ帰ります」




 冷たくそう言い放った。

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