第18話 奇襲
アズールに勝つ。そんなことを思ってやる気に満ち溢れていたはずの俺たちは、見事に昼過ぎまで寝坊した。襲撃は今日の夕方になる直前を狙っているので支障はない。しかし
「まさか・・・この私が寝坊を・・・」
どうやらリブラは遅刻や寝坊などを今までしたことがないらしく、地味にショックを受けていた。
しかし、本人の体調は悪くないらしい。一度や二度の変身なら可能とのことだ。作戦に支障はないだろう。
・・・リブラが元の姿に戻るまで、一体どれほどの時間がかかるのだろうか。
少なくとも数日では無理らしく、数か月単位で休養に努めなければならないらしい。恐らく異世界人の脅威がある限り無理なのではないだろうか。
そんなことは置いておき、今日は葉島と合流してから作戦を実行する手はずとなっている。集合時間は駅前に13時。現在12時半である。
とにかく俺たちは葉島と合流するため待ち合わせ場所へと急ぐのだった。
※
「はぁ・・はぁ・・ごめん、待たせちゃった?」
慌てて家を出た俺たちだが、どうやら全員が遅刻したらしい。現在13時半。慌ててこちらに走ってきた葉島がビリである。とはいえ俺たちも数分前に着いたばかりだ。
「いや、俺たちも遅刻しちゃったんだ。だから問題はない。でも意外だな、葉島が遅刻するなんて」
「その、実は昨日あんまり寝付けなくて寝坊しちゃって。緊張してるのかな、私」
仲間全員が遅刻するという最悪なスタートを切った俺たちは、さっそく移動を始める。
俺の家とは真逆の方向にある森の中に現在使われていない廃屋があるらしい。そしてそこに、風の刃で切りつけたかのような跡があったそうだ。俺たちは慎重にその場所を目指すことにした。
「それで二人とも、ここからは本当の意味で異能力を使った戦闘になります。いつでも発動できるように準備していてくださいね」
そうリブラに言われた俺と葉島は警戒を怠らないようにする。まだ住宅街とはいえ奴がこちらに気付いている可能性もある。風の銃弾をここで放たれてしまってはどうにもできないため俺は周囲を警戒しながら先を進む。
「本当ならこんなところで警戒するなと言いたいのですが、敵が敵だけに侮れません。最初から最後まで警戒を怠らないように努めましょう」
そんなことをいいながら俺たちは何とか森の入口までたどり着くことができた。立ち入り禁止の看板があるが、こっそりと侵入した俺たちは森の中を歩いていく。
「二人とも、あれって・・・」
そして葉島がとあるものを見つけた。地面が黒ずんでおりよくわからないが
「焚火の跡?」
「はい。やはりここで間違いないようですね」
そして焚火の規模から恐らくここにいる敵は一人だと推測する。恐らくアズールがここにいたのだろう。それもかなり最近だ。
警戒を強めた俺たちは再び奥を目指す。そして古めかしい建物が見えてきた。
「あれは、工場?」
「うん。その跡かな・・・多分」
葉島も知らなかったのだろう。こんなところに工場があったなんて。今やその面影もなくところどころにひびが入り、あまり長居はしたくないような場所だった。
「アズールはあの中で休んでいるはずです。もうすぐ日が暮れます。そこを一気に奇襲をかけますよ」
「ああ、わかった」
「・・・うん」
俺たちは覚悟を決めその時を待つのだった。
※
「そういえば葉島、今日は大丈夫そうか」
リブラが周辺の見回りに行った後、残った俺たちはアズールがいると思われる廃屋の前で監視をしながら張り込んでいた。
そしてそのついでに葉島の状態を確認する。
「うん。初めて能力を使った時よりもだいぶ強度が上がったんだ。家でも練習してたからね。きっと力になれると思う」
「そうか、何かあったら逃げてもいいし、とにかく全力を尽くそう」
「うん。そうだね」
なんでだろう。恐らく葉島は本当のことをいっている。なのに俺は違和感がぬぐえない。それは今日に始まったことではなくここ数日、葉島と喋っているときにたびたび感じていることだ。
「葉島、不安なことがあったら今のうちに言っておけ。不安要素はなくしたい」
「不安と言っても、緊張してるくらいしか」
違う、そうではない。なんだろう、妙に引っかかるのだ。しかし俺はそれ以上問い詰める勇気がなかった。
そんなとき、見回りに行っていたリブラが戻って来る。
「二人とも、なにか忘れていたことがあったのなら今のうちに。ここからは命を懸けた戦いです。勝つためには力を合わせなければいけません。この奇襲にすべてを賭けます」
どうやらリブラは覚悟が決まっているようだ。当然と言えば当然で、俺も戦いに身を投げる覚悟はあの日の夜にできている。だが葉島は違う。完全に巻き込まれた被害者だ。俺と違い戦う理由もなければここで逃げたって文句は言われない。だからこそ俺たちは葉島の方を見て確認する。
「ここで逃げても、どうせ追われるんでしょ。なら私は二人と一緒に戦う。そして・・・」
「そして?」
「・・・やっぱり何でもない。二人とも、頑張ろうね」
そうして少しずつ空はオレンジ色に近づいていくのだった。
※
「時間です。これより作戦を実行します」
作戦はこうだ。まず俺を先頭にリブラと乗り込む。そして可能なら俺の能力でアズールに奇襲をかけ打ちのめす。葉島は俺が仕留めきれなかったときに防御の要として結界を起用してもらう。これがプラン1だ。
そして仕留めきれなかった時、違う作戦で臨機応変に対応する。これがプラン2だ。
できればプラン1で仕留めきりたい。そうすれば後はリブラに任せるだけだ。
そうして日が沈む間際、俺たちは廃屋に突撃する。
俺は走りながら異能力を発動する。
『
俺が宿すのは一撃で奴を仕留めることができる力。そんな強力な力を俺は思い浮かべ
『インストール』
そう言葉を告げた瞬間、俺の体を圧倒的なエネルギーが包み込む。五感が冴えわたり力が体の奥底から溢れてくる。
建物内に入った瞬間俺は奴の姿を探す。
(どこだ、どこにいる?)
確実にいるはずだ。そう俺の第六感がそう告げていた。俺は警戒を怠らずいつでも拳を振れるように構えている。この一撃で仕留めなければ面倒くさいことになるからだ。
しかし、そんな俺たちをあざ笑うかのように闇の中から声が聞こえてきた。
『
「ぐっ・・・」
俺たちの正面から突風が吹き荒れた。間違いなくアズールだ。そして事態が悪化していることに気付く。
「どうして・・・気づかれてはいないはず・・・」
リブラがそんな事を言いながら力なく前を見つめている。すると奥から案の定聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「はは!! お前らの方から乗り込んできてくれるとは、こいつは手間が省けたぜ!」
「なぜ・・・なぜ私たちに気付けたのですか!」
風に耐えながらリブラがアズールに言い放つ。
そして笑い声とともに姿を現したアズールがこちらに近づきながらしゃべりだす。
「俺の異能力は風を操る力だぜ。お前らが外でなんかしてんのは、はなからお見通しなんだよ間抜けどもめ!」
ばれていたことに焦りながら俺は奴に拳の照準を合わせる。これだけの暴風も恐らく俺の拳から放たれる一撃は風を貫通して届くはずだ。しかし、げらげら笑いながらアズールが告げる。
「はっ まさかてめぇも異能力者だったとはな。だが無駄だぜ。てめぇが何かしようとしても俺には届かない。忠告するぜ、やめておけ」
「っ・・・そんなこと、やってみなけりゃわからないだろうがよ!」
「レン!!」
拳を放とうとしたところでリブラが俺のことを止めてくる。どうやらリブラも今のままでは不可能だと思っているらしい。正直俺は今すぐ攻撃に移るべきだと思う。しかし俺の相棒が目でやめろと訴えかけてきてるのだ。だから俺は異能力を解除した。
『リリース』
前回は気絶してしまったが、能力を自分の手で解除すれば反動が少ないことに俺は試行錯誤気づいた。
そして異能力解除と同時にプラン1が失敗したことを俺は実感したじろいでしまう。
「ハハハ! そうだ、諦めろ。今のお前たちじゃ俺には勝てねぇよ」
そしてアズールが俺たちの方へと迫ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます