第19話 相棒
不吉な笑みを浮かべながらアズールが近づいてくる。
奴はわかっているのだ。こちらが短期決戦を仕掛けてきたことに。
長期戦となってしまえば異能力慣れしているアズールに軍配が上がる。こちらは中途半端な戦力で来ているのだ。これでは何もできずに俺たちは負ける・・・
と、奴はそう思っていることだろう。
こっちだって決死の覚悟で飛び込むにあたり策を練りに練ってきたのだ。だからまずは、
『
葉島が結界を発動させる。それと同時に俺はアズールに向かって無理矢理走り出す。葉島は、結界を俺が走る位置にあわせて移動してくれる。どうやら葉島の結界は本人の意思で自由に移動させることが可能になるのだ。そして、結界を小さくすればするほどその強度は上がる。俺は葉島の結界で風を防いでいる間に奴との差を埋める。
「あぁ?」
アズールも不審に思っただろう。恐らく俺が大ぶりの一撃を放っても奴はかわせるし防げるからだ。案の定アズールは顔をしかめ迎え撃つ体制をとる。だから俺は、
「リブラ!」
「はい、・・・『
「ちっ、いったい何を企んで・・・」
アズールの視線が一瞬リブラに行く。しかし、リブラに変身の際に発せられる光はない。当然だ。それは言葉によるフェイント。最も単純で子供だましだが、相手がリブラの脅威度を知っているために思わず反応せざるを得ない。
だから奴にも隙が生まれるのだ。
その隙を逃さない。俺は間髪入れず能力を発動させる。
『
俺は自分のスピードを極限まで上げた。瞬間移動、その光景を見ているものがいたらそう捉えたのではないか。俺は光のような速度でアズールの目の前に移動する。
「なにっ!?」
奴も気を取られたのだろう。だがまさかこんなにあっさりと近づかれるとは思っていなかったらしく奴の足がよろめく。
だがさすがに戦闘慣れしているだけあって、すでに後ろに飛ぼうとしている。改めてこいつの技量を思い知る。
だが、
『
俺を守るように正面にあった結界がアズールを包み込む。これには奴も完全に予想外で、目を見開き、驚きながらこちらをにらみつけていた。
結界の中にアズールを閉じ込めそこに俺が一撃を放つ。これがプラン2。奴が一番警戒していたのはリブラだろう。だから今回、俺はリブラのことをおとりに使った。
これはリブラが考案した作戦でもあり、俺自身、最も勝率が高そうなので採用させてもらった。
『・・・インストール』
俺はもう一度異能力を発動し思い浮かべる。奴を倒せる一撃。すべてを終わらせられる一撃。そして俺はあの時のような全能感に包まれる。そしてそれをすべて右の拳に集中させる。だが・・・
「・・・っ! 舐めるな、このクソガキども!! うおおおおお!!!」
アズールは自身に纏わせるように風の鎧を作り出す。そして葉島の結界ごと俺の体を吹き飛ばした。
「うぅっ・・・クソ」
吹き飛ばされた俺は意識を何とか繋ぎ止め奴に改めて向き直る。
リブラも苦い顔をしている。正直これで勝ったと思ったのだろう。俺と葉島もそう思ったのだ。しかし、奴の方が一枚上手だった。
ここにきて、経験の差が俺たちの壁となっていた。
俺と葉島は異能力に目覚めて日が浅い。そして唯一まともに戦えるリブラは消耗のせいでまともに戦えない。
状況は刻一刻とこちらに不利になってきた。
アズールは既こちらに向けて歩き始めていた。
奴の血管が音を立てそうなくらい膨れ上がりその怒りを形容している。
「やってくれたなクソガキ やっぱりまずはお前からだ・・・『
奴は自身の腕に風の刃をまとわせた。どうやら腕を剣のようにしたようだ。どうやら俺にあわせて近接戦闘に付き合ってくれるらしい。恐らく正面から叩き潰さないと気が済まないのだろう。それほどまでに奴は怒り狂っていた。
「おら来いよ! 逃げてばっかの三流風情が!」
アズールはそう言いながら腕を振るかぶる。それだけで地面が抉り取れたのだ。その余波で俺は思わず尻もちをついてしまう。
「・・・・・」
さすがに俺も絶句する。今から俺はあいつと向き合わなければならない。正直勝てるかはもはや未知数だった。相手は完全にこちらを見据えて警戒している。恐らくもう逃げるのは不可能だろう。
葉島もすでに絶望を顔に染めていた。
詰み。その一言が俺の頭の中に浮かび上がった。
実を言うとまだ作戦はある。俺とリブラだけで話し合っていた作戦が。
だがこれを見た後で確信する。間違いなく無傷では済まないだろう。そしてそれは俺だけでなく・・・・
「レン・・・」
気が付いたらリブラが俺の隣に立っていた。俺をかばうわけでもなく、逃げるためでもなく、一緒に戦うためにリブラは隣に立っていた。
「立てますか? 相棒」
「・・・・・」
実はリブラに相棒と呼ばれるのはこれが初めてだ。俺から何度か言うことがあったが、リブラは意味を知らなかったらしく時折首をかしげていた。異世界に相棒なんて概念はないのだろう。そしておそらく今も知らないはず・・・
いや、違うな。こいつはこの世界の知識に貪欲だ。目を輝かせるようにしていろいろな場所を見て、多くのことを知っていった。だから多分、相棒という概念もどこかで理解しているのだろう。
「お前もただじゃ済まないかもしれないぞ、だから・・・・」
「大丈夫です、変身した私の体は頑丈なので。それに・・・・」
「それに?・・・」
リブラは迫りくる奴を見据えて不敵な笑みを浮かべる。そして、
「なんだか、あなたと一緒なら負ける気がしないんです」
「・・・・・」
もう何も言えなかった。だって今まで役に立ててない俺がそんな事を言われるとは想像していなかった。俺はこみ上げる感情を抑えリブラの目を見据えた。
「それに・・・私たちには仲間がいる、そうでしょう・・・メイ」
「・・・・・ぁ」
なぜか葉島も感情を抑えるかのようにこちらを見ていた。そうだ、俺たちは二人ではない。頼りになる仲間がいるのだから。俺はかみしめるように立ち上がり、アズールをにらみつける。
「アズール、後悔するなよ?」
「あぁ、てめぇいま何つったコラァ!!」
「別に俺は一人で戦うわけじゃない。俺には仲間がいる。それが俺とお前の差だ」
「「・・・・・」」
アズールはぽかんとした表情をして一瞬呆けた顔をしたがすぐに顔を怒りに染める。
一方、葉島も何故だか下を向いて黙り込んでしまっている。何か思うことでもあったのだろうか。
「レン、メイ・・・覚悟はいいですか? 正真正銘、これが最後のプランです」
「決まってるだろ。戦うよ。お前と一緒に」
「・・・・・うん。任せて」
そして俺はリブラに頷き立ち上がる。葉島もなにやら決意が固まったらしくいつでも能力を発動できるようにしている。
「話し合いは終わったかぁ! 悪いが付き合ってもらうぜ、俺の怒りが収まるまで・・・なぁ!」
そう言いながら俺たちの方へと向かって走ってくる。
「リブラ、いけるか?」
「ええ、いつでも!」
そうして俺たちも駆ける。これから始まるのは単純なこと。刃と刃の打ち合い。すなわちつばぜり合いだ。
『
キィーン、と固いものがぶつかり合う音がした。そしてアズールがわずかによろめきながら後退する。
「お前、いやお前ら・・・」
そう言いながらアズールが見るのは俺の右手。
先程、風の刃に拮抗したのは俺の右手に握られているひと振りのナイフだ。
剣より短く、携帯用のナイフより長い。これがリブラが化けた武器。いわゆるタガーナイフとでもいうのだろうか。一見頼りないナイフに見える。
しかし、見事にそれはアズールの風の刃を打ち返した。
「行くぞアズール!」
『私たちは負けません!』
そう言いながら俺たちはアズールに反撃を開始した。
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