第20話 仲間
『
俺はここで異能力を発動する。奴と渡り合える肉体をこの身に宿す。そして奴に隙を与えぬようすかさず背後に回りこむ。
「な・・・めんなぁ!」
俺の刃が奴の首筋を捕らえた瞬間再び風の鎧を展開される。先ほどと同じように吹き飛ばされるが、俺はすぐに起き上がりナイフを構える。
(くっ、やっぱあの風が厄介だな)
あの風の鎧があったらいつまでも仕留められない。
俺たちは既にアズールを無傷で生け捕りにすることは諦めていた。奴に気を使うとこちらの身が危ないからだ。だからいかにして仕留めるか。
まず俺は正面から戦うのを極力控えていた。最初は押し返せたが、このナイフはリブラが変身したものだ。本人次第だが、何時までもつかわからない。だからできるだけ打ち合いの数を少なくする。そしてそのうえで仕留めなければならない。
(やっぱり、背後に回り続けるしかないか・・・)
スピードは今のところこちらが勝っている。そして瞬間的なパワーも恐らくこちらが凌駕している。あとはタイミングだ。だからどこかで隙を作るしかない。とにかく俺は動きを止めないよう注意しながら奴の周囲を拘束で移動し続ける。
「ちょろちょろとこざかしい真似を・・・」
どうやらアズールはストレスがたまり始めているらしかった。奴の風は大雑把なところがある。だから細かい攻撃をすることができないのだ。
今なら風の弾丸を放たれても俺はすべてをかわせる自信があるし、葉島も結界を使って防ぐことができるだろう。避けていた長期戦がこちらに有利に働きかけていた時だった。
「いい加減に・・・しやがれぇ―――!!!」
風の爆弾が廃屋の中心で爆ぜた。これには思わず足が止まってしまう。葉島も結界を使ってその場にはいつくばっていた。
「いくぞクソガキ!」
そう言いながらアズールがこちらに向かって一直線に飛んできた。あまりの速さに俺は動きが止まってしまう。風で加速しているのだろう。俺はその速度に反応できなかった。
(まずい・・・)
俺は避けていたが、再び刃を奴の腕に向かって振りかぶる。しかし、
「ぐあっ」
完全に俺は力負けする。加速した力をそのままぶつけられたのだ。その衝撃に吹き飛ばされそのまま外まで押し出されてしまった。
立ち上がろうとするも、思わず俺は立ちくらんでしまう。
『レン、早く立ってください!』
リブラの声を受け何とか俺は立ち上がる。だが、ここで気づく、
(マズイ・・・同調コネクトが切れかかってる・・・)
恐らく後数分も持たずして元の体に戻ってしまうだろう。その後、俺はしばらく動けなくなる。そしてその瞬間俺たちの敗北が決定する。
(今日ここで、ここで決めるしかないのに・・・)
奴は恐らく仲間を頼らない。そうリブラから聞いていたので、奴を倒すなら今日ここで倒し切るしかない。もし次の機会があったとしても、その時は恐らく仲間を増やしてくるだろう。そうしたら俺たちはあっという間に負けてしまう。
土煙が立つ中こちらに足音が近づいてくる。強い風が吹き荒れるとその中からアズールの姿が見え、こちらに向かってゆっくりと歩いてくるのが見えた。
「そろそろ終わらせてもらうぜ? いい加減飽きてきた」
俺は絶体絶命の状況に追い込まれていた。
メイ視点
「うぅ・・・」
強い衝撃波に結界ごと吹き飛ばされた私は、何とか意識を保って、その場で起き上がっていた。
「いったい何が・・・」
正直なところ何も見えなかった。水嶋君が超人的なスピードでアズールを追い込んでいたように見えたが、どうやら圧倒的な暴風で吹き飛ばされたらしい。
こっそりと外を見るとアズールが水嶋君の方へ歩いていくのが見えた。
そして私は思ってしまう。
(逃げるなら、今しかないんじゃ・・・)
そうだ、この場で逃げてしまえばいい。もともとアズールを怒らせたのはあの水嶋君だ。仮に敵の狙いが異能力者の確保だとすれば、彼が捕らえられたら私の身は安全になるのではないか。このまま静かに一生を過ごしていればいいだけだ。今のうちにばれずにこの森を抜ければ、町に戻れる。何時もの日常に戻れるのだ。
(逃げよう。そうすれば・・・)
私は助かる・・・
―二人が死んでしまう―
「っ!・・・」
まただ。私の中の何かが私の考えを否定する。この場面で助かりたいなら逃げてしまうのが最善のはずだ。私はそれを確信しているし、今なら間違いなく逃げ切れるだろう。
けど、私の中の何かがそれを引き留め、足を動かせずにいる。
(何が、何が私を引き留めるの?・・・)
思わず私は目をつぶってしまう。
『俺には仲間がいる。それが俺とお前の差だ』
『私たちには仲間がいる、そうでしょう・・・メイ』
今までもいろんな人から言葉をかけてもらった。なのにどうしてあの二人の言葉はこんなにも耳に残り・・・・・私を温かくさせるのだろう。
(仲間・・・・・)
私はもう一度目をつぶりこの数日のことを思い出してみる。
一緒に異能力を高めあった。はじめは失敗してしまうことが多かったが、水嶋君が覚醒してから、私も負けてたまるかと気づけば滝を完全に止められた。そしてリブラさんにそれを誉められた。私は素直にうれしくて・・・
初めて誰かと外食に行った。いつもはどうでもいい会話をしながら、どうでもいいクラスメイトと適当に話を合わせお弁当を食べていた。けれど、なぜだかあの時は楽しくて。リブラさんのことを笑ってしまいそうになって・・・
そして・・・・・今、仲間として必要とされている。
(仲間・・・・・)
『俺たちは仲間だろ。たとえ一時的なものだとしても今は仲間なんだ。仲間の力になりたいと思うのは当然だし、俺もリブラもそう思ってる。だからまあ、気が向いたら話しやすい方に話してくれればいいし、一生話さなくてもいいさ。でもこれだけは言っておく。俺とリブラはいつでも葉島の力になる。それだけは絶対に約束する』
私は目を開けもう一度外を見る。そうだ、今仲間がピンチに陥っている。
私が、いや、私じゃないと助けられない。
(初めてかもしれない)
誰かのことを信じてみようだなんて・・・
※
「それじゃあいい加減さよならだな」
そう言ってアズールは俺に風の刃を振りかざそうとこちらに近づいてきていた。
「まあ安心しろ。殺しはしない。適当に痛ぶって動けないようにしてやる。異能力者を殺しちゃあ本末転倒だからな」
攻撃の射程範囲に入ってしまった俺たちはもう睨みつけるしかできないでいた。
(最後に、せめて最後に一撃を食らわせられれば)
俺は最後まであきらめない。握ったナイフに力を籠め最後の瞬間まであがこうとする。
しかしそんなことはお見通しだろう。アズールは事前に風の鎧をまとっていた。
「まぁ殺さないと言っても・・・半殺しぐらいはいいよなぁ!」
(来る!)
だがだめだ、腕が重くて動かない。
俺はそれを見ることしかできなくて・・・
『レン!』
リブラが叫んでいるがもう体が動かないでいた。そしてアズールの腕が俺の右半身めがけて・・・
『
振り下ろされる寸前だった。見えない結界が俺のことを守った。
「なんだと!?」
これにはアズールも驚いていた。まさかこのタイミングで結界を使用されるなんて。しかも以前よりさらに強度が上がっているのだ。その結界には罅一つ入っていなかった。
「よくもやってくれたな、クソ雑魚女!!」
そうして廃屋の中から一人の少女が出てきた。以前より足取りは軽く、その目は覚悟が決まったように見えた。そして何より、その可憐な姿が戦場にひときわ違和感を与える。
少女はアズールに向かい吠えた。
「これ以上、私の仲間を傷つけさせない!」
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