第21話 信じる
「そうかよ、じゃあてめぇからぶっ殺してやるよ、女!」
どうやら生け捕りにするということは忘れてしまったらしく、アズールは標的を俺から葉島に変え、風の散弾を葉島に向けて放った。
「葉島、危ない!」
俺はそう言って警告を促すが時すでに遅く葉島の眼前に散弾が迫っていた。
しかし、既に葉島はアズールをにらみつけ結界を展開していた。
ガガガガガガガッ
そんな音が聞こえながら散弾を葉島の結界がはじいていく。しかしその結界には傷一つつかない。
これにはアズールも驚き一度攻撃の手を休めてしまう。
「なぜだ・・・以前より強度が増しているだと!?」
以前は数発散弾を受けただけで罅が入ってしまった結界だが以前よりも結界の強度が増して、今は大きくかたい壁となっている。
『メイの結界・・・やはりまだ何かカラクリがあるようですね』
リブラはナイフの姿のままそう考察する。確かに、多少訓練したとはいえあそこまで強度が上がることはないだろう。何かが、葉島を変えたのだろうか。
俺にそれはわからない。だが、今のままではジリ貧になる可能性が高い。まだまだアズールは底を見せていない。葉島がどこまでやれるのかは未知数だが、俺はそれまでに何とか対策を考えなければならない。
『レン・・・私に考えがあります。今思いつきました』
「本当か!? 勝算は?」
『成功すれば恐らく・・・うまくいけば生け捕りも』
「どうすればいい?」
俺は自分の相棒を信じてすべてを一任することにした。
※
メイ視点
(まずい、このままじゃ押される)
私は勇気を振り出して前へ出たが、じりじりと押されていた。今は拮抗しているがこのままでは結界が割れ、私の体はハチの巣になるだろう。
何か、何か決め手があれば・・・
私の足が後ろへと下がり始めた。いくら割れないとはいえ圧迫感を感じてしまい後ろへ下がってしまう。
「見栄を張ったのにそれだけか? てめぇは引っ込んでろよ、ぶっ殺しちまうだろうが!」
そんな事を言いながら攻撃をさらに苛烈にしていく。このままでは負ける。私はそう確信してしまった。
このままでは、二人を助けることもできずやられてしまう。それでは、私がここに来た意味がない。しかし、心なしか結界が薄くなっているように感じた。
私が不安を感じていた、そんな時だった。何か光るものがこちらめがけて飛んできた。
ザクッ
そんな音を立てながら私の足元に鋭いものが着地した。目を凝らしてみるとそれは一振りのナイフだった。水嶋君が先ほどまでもっていた美しいナイフ。恐らく彼が投げたのだろう。
『メイ、お願いがあります!』
そう言いながらリブラさんがしゃべりかけてきた。
※
チャンスは一度きりだ。俺が失敗するわけにはいかない。恐らく全力で拳を振れるのはあと一回だろう。それにすべてを賭けることにした。
作戦はリブラから聞いた。今は葉島の方へ情報を共有しているところだ。これがうまくいけば恐らく奴を倒すことができるだろう。
この作戦を実行するにあたり一番大事なことはお互いを信じあうということだ。そうしなければこの作戦は成り立たない。だから俺は葉島のことを信じる。
向こうも覚悟が決まったのかこちらを見て頷いてくれる。
(初めてかもしれないな、あんな目で俺のことを見てくれたのは)
今までは遠慮がちに俺のことを見ていた。目が合ってもすぐにそらしてしまう。だけど今回は違った。すべてを任せるという思いを込め、俺のことを見てくれた。
‘(失敗はできない・・・必ず成功させてみせる)
覚悟が決まった俺はさっそく作戦を実行するために、すべての思いを込めて異能力を発動させる。
『
俺は残りの意識をすべてこの一撃に集中させる。そして・・・
「アズーーールっっっ!!!」
奴は慌ててこちらを振り向いた。そして目を見開く。何せもうボロボロで風が吹けば倒れそうな男が、捨て身で特攻しているように見えたからだ。
「お前らが俺のことを馬鹿にしていることはもうわかったよ・・・やっぱりてめぇだけは今殺す、クソガキィ!!!」
どうやら俺を生け捕りにすることはやめたらしい。その感情的になるところが奴の弱点だ。だからこそ、奴は葉島の方から目を離した。
『
だから葉島が奴に気付かれぬよう、すべての思いを込めて結界を発動させる。ただしそれは守るための壁ではない。捕えるための檻だった。
「な、なんだこれはぁ!!!」
アズールは驚いていた。何せ見えない何かが巻き付くように自分の体を締め付けていたからだ。そしてそれと同時に、
「なっ・・・鎧が!」
真の狙いはここにある。葉島の結界の強度が増したおかげで奴の周りをうねりながら守っていた風の鎧を止められる。リブラはそう確信したらしい。
結界の形を変えるという応用ができるかは一種の賭けであったが、どうやら葉島の想いに軍配が上がったらしい。
「いまだよ! 水嶋君」
「レン・・・とどめです!」
へたり込みながら能力を発動させている葉島とすでに人の姿に戻ったリブラが俺のことを見ていた。
「ああ、任せろ」
みんなの想いをこの一撃に乗せる。
「クソが、放しやがれ女!」
アズールはなおも抵抗を続けており、風の鎧がわずかに動き始めていた。
ギリギリと結界がずれ始めていた。
「させない!」
そしてその分、葉島の結界が強度を増していく。結界が軋むような音を上げその強度が上がりアズールを締め付けていく。
「馬鹿な、ありえない・・・どうしてこれだけの力が・・・ぐっ」
風はおろか肉体を動かす余裕がなくなったらしい。
「もしやメイ、その結界は心の強さに比例して・・・」
リブラはそんなことを呟いていた。もしそれが本当なら葉島は一生分の想いを、この場面で振り絞ってくれているのかもしれない。だったら・・・
(その思いにこたえなければ・・・男じゃないだろ!)
俺は跳びあがり頭上からその顔面に向けて拳を振りかざす。
「受け取れアズール・・・これが俺たちの力だぁぁぁぁ!!!」
すさまじい衝撃とともにあたり一面が吹き飛んだ。
壮絶な土煙を上げあたり一面をおおいかくす。余波で廃屋となっていた工場も完全に崩れてしまったのか大きな音を立て崩れていた。今となっては見る影もない。
そして土煙が収まった時、大きなクレーターができているのがうっすらと見えた。そしてその真ん中に、アズールが大の字になって倒れていた。
(勝った・・・)
それを見た瞬間、俺はその場に倒れこんだ。
「水嶋君!」
「レン!」
駆け寄ってくる足音が大きくなるにつれ、俺の意識は闇の中へと沈んでいった。
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