第7話 これからの方針
その日の放課後、俺はファミレスの一番奥のテーブルに座っていた。
この時間帯は人も少なく、秘密の話をするにはもってこいだろう。
ちなみに以前来たときから一度もファミレスに来ていなかったので久しぶりの来店となる。
そして俺はここにいる面子に顔を向ける。
俺の隣に座るのは相棒であるリブラ。そしてリブラの正面では葉島がオレンジジュースを静かに飲んでいた。そして俺の正面には
「悪いな璃子、部活を休んでまで来てもらっちゃって」
俺の幼馴染である璃子に来てもらっていた。
彼女も俺たちと中途半端に関わってしまっているために、今回のことを知らせておかねば後で拗ねてしまうし、もしかしたら危険かもしれない。
このメンバーで集まるのは初めてなので、全員がどことなくぎこちない。一応璃子はこの二人と面識があるので初対面というわけではないがそわそわしている。
「う、うん。別に今日もいつもと変わらず練習するだけだったし」
そう言いながらチラチラと俺の隣に座っているリブラに目を向ける。
俺たちはドリンクバーを注文し各々飲み物を取りに行ったが、それを口につけていたのは葉島と璃子だけで、俺とリブラは真剣な顔で二人のことを見ていた。
そんな視線に気づいたのだろう。リブラが璃子に向かって話しかける。
「この前は落ち着いて自己紹介をできなかったので改めて。私の名前はリブラ。細かいことはこの前話したのでいいでしょうが、これからよろしくお願いします、リコ」
「あ、えっとその・・・よろしくです」
璃子は初対面の人間であろうがそのコミュニケーション能力をいかんなく発揮できる方なのだが、何故かリブラに対しては委縮していた。それどころか警戒している風にすら見えた。
「璃子、もしかして緊張してる?」
「そ、そんなわけないじゃん。ただ、この場に呼ばれた意味が分からないと言いますか」
あたふたしている璃子を見るのは面白いのでしばらくこのままにしておこうと思ったのだが、葉島が璃子を窘める。
「大丈夫だよ鳴崎さん。私も何も聞いていないけど、この二人が呼び出すってことはきっと厄介ごとだろうし」
「全然大丈夫じゃない!?」
異常事態に慣れてしまった葉島が若干ずれた事を言う。
まあ、ほぼ正解であることに変わりはないのだが・・・
「とりあえずリブラも一口ぐらいそのパンケーキを食べたら? さっきから甘い匂いが漂って仕方がないんだけど」
「・・・そうですね、では本題に入る前に頂いてしまいますか」
リブラはちゃっかりイチゴのパンケーキを頼んでいた。俺は特に食べ物を頼む予定はなかったのだが、目を離したすきにリブラがタブレットを操作して注文を済ませていた。
ちなみにリブラは前回来た時ポイントカードを作っており、今も大事に机の上に置いている。心底このお店を気に入っているらしかった。
そうして俺たちも適当にドリンクを飲み干しながら、昨夜のことについて話すのだった。
※
全てを話し終えた後、二人はしばらく黙りこくった。
「それって、どうにかなるの?」
静まり返った空間を破ったのは璃子だった。
璃子には特別な力は何もない、ただ音楽が好きな家族思いの少女だ。自分が狙われたら危ないのを承知のはずなのに、真っ先に俺たちのことを心配してくれる。
「恐らくこれから私たちが向き合うのは異世界人以上の脅威でしょう。私たちだけでどうにかなるかは未知数です」
安心させることもなく、リブラは現在の状況を偽りなく伝える。これくらいの緊張感を持ってもらった方が、話がスムーズに進むからだ。
「そんなにすごい人だったの、そのコマンダーって人は?」
そう問いかけてくるのは葉島だ。
俺たちはコマンダーから直接的な攻撃を受けてはいない。だが、
「何もできなかった。いや、俺もリブラも怖くて動けなかったんだ。それほどのプレッシャーがあの男から放たれていた」
俺たちはコマンダーが異能力を使う場面を見ていない。だが、一歩踏み出せば負ける。そんな感覚に襲われてしまった。
俺の第六感が、そう告げていたのだ。
そしてそれはリブラも同じらしく、険しい表情をして葉島に告げる。
「どうやら彼のほかにも数人、仲間のような人物たちがいるようです。このままでは、私たちは一網打尽にされて終わりでしょう」
そう聞いた葉島の顔は不安さを隠しきれていなかった。
「だからこそ、今後の方針について話し合いたいんだ」
それを少しでも打ち消せればと、俺は話題を切り替える。
話し合うのはこれまでのことではなくこれからのことだ。
「具体的には、それぞれが一人になる時間を減らそうと思うんだ。常にだれかと一緒に行動する。それぐらいしないと、知らないうちにこの中の誰かがやられてることもあり得るからさ」
「それは・・・そうかもね」
俺の意見を聞いた葉島が考えたうえで賛成する。
残りの二人も反論はないらしく、俺の考えに従う様子だった。
「そしてその間に打開策を考えなければいけませんね」
最終的に俺たちはガイアに勝たなければならない。
それができないと、いつまでたってもこの町に平穏は訪れない。
「まだ見つかっていない異能力者を見つけて仲間になってもらうとか?」
璃子はそう言ってくれるが、それが難しいことを俺たちは知っていた。
「それって、すごく難しいよ。私と水嶋君が異能力を使えるようになったのは偶然だし、そう都合のいい人がいるとはちょっと思えないなぁ」
葉島も俺も異能力を使えるようになったのは本当に偶然だ。
それにもしそんな人がいたとしても、俺たちに力を貸してくれるかは別問題だ。
「そうだ! リブラの世界の人たちに来てもらうのはできないか?」
あちらの世界には、世界そのものを超えることができるほどの転移系の異能力者がいるらしい。その人に頼んで応援を読んでもらえれば心強いことに違いない。
だがその考えにリブラが首を振る。
「少し前ならできたかもしれませんが、もうそれもできません。王がそうお決めになったのです」
「王?」
リブラは王宮に仕える異能力者である以上、王国があり、そこに王があるのは何となくわかっていたがその王が拒否している?
「私はレインの死体をあちらの世界まで送り届けた際、王にこれまでのことを報告しました。そしてその結果、この世界にこれ以上余計な干渉をすることを禁じたのです」
「なっ!?」
リブラが申し訳なさそうに俺たちに謝る。
「実を言うと、王宮でも意見が分かれているのです。所詮この世界は私たちの世界とは別の世界。その世界がどうなろうと知ったことではない。何なら、厄介な犯罪者たちを違う世界に閉じ込められた。ならば、そのまま放置しようとする意見が飛び交ったのです」
確かにあちらからしてみれば、厄介者たちを追放できたのでむしろいい。危険を冒してまでこれ以上この世界に関わる理由はない。
だがいくら何でもそんなのって・・・
「当初、王や私をはじめとする者たちは他の世界に迷惑を掛けられないとこの世界のために動いていましたが、あろうことかこの世界に乗り込んで王国の領土にしてしまおうという者まで現れ始めたのです。その意見が火種となり王宮内は荒れました。それを解決するために、王はこの世界に干渉することそのものを最小限にせざるを得なかったのです」
王はこの世界のことを気にかけていたらしい。だが最後は自分の国を守るために、この世界への干渉を最小限にとどめる決断をした。つまりこの世界のことを切ったのだ。
つまり、この世界のために動いてくれているのは実質リブラ一人だけだ。
転移系の異能力者の人は善意で協力してくれたらしいが、それ以上は望めないそうだ。
「すみません。もともとは私たちの問題なのに」
「リブラは悪くないよ、私たちは本来関わることがなかったんだからさ」
「あたしも、リブラさんが蓮を救ってくれたおかげであたしが蓮に救われたんだから、リブラさんがあたしを救ってくれたようなものだよ」
リブラが来てくれなければ、異世界人たちはこの世界で好き勝手に暴れ多くの人が被害を受けていたはずだ。
俺はオセロにあのまま殺されていたかもしれない。
葉島はアズールに攫われひどい目にあわされていたかもしれない。
璃子はレインに遊び半分で殺されていたかもしれない。
リブラがこの世界に来てくれなければ、俺たちは全員命を落としていただろう。だからこそ俺たち三人はリブラに感謝していた。
リブラはまだ世界を救うことができてはいないが、少なくとも三つの命を救ってくれている。だからこそ俺たちはリブラに自分を責めてほしくはなかった。
「・・・」
珍しくリブラが照れていた。無言のまま無表情を貫いているが顔が赤くなっているのが隠せていない。
「そ、それはそうと今後の方針について話すのではなかったのですか?」
リブラは話題を変えようと必死になってまくしたてる。恥ずかしがりながら必死になっている姿は可愛くて、真剣な話をしていたのに思わずみんなでほっこりしてしまう。
「えっと、結局はそれぞれができる限り一緒の場所にいるってことでいいね」
そう言って俺が話をまとめる。恐らく俺と璃子、リブラと葉島がこれからはペアになって行動することになるだろう。
「それじゃあ俺は璃子を送ればいいかな?」
すっかり夕方になってしまった。夜になる前には全員家に帰らないといけないだろう。俺は異能力を全開にして帰る予定なので、もし危険がないようなら今夜は家に帰るつもりだ。
一応確認のため璃子に俺が送っていくかと問いかける。
「えっと、それじゃあ・・・」
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