第8話 あなたを想う
璃子視点
「その、付き合ってもらってありがとうございます・・・リブラさん」
あたしは蓮の提案を申し訳なく断り、その隣に座っているリブラさんに送ってもらうようお願いした。
「いえ、私たちがあなたのことを巻き込んでしまったのです。これくらいしないと、私が申し訳ないんです」
そういってリブラさんはあたしの隣を歩いていた。
一見身長は小学生ぐらいなのだが、そう歳は変わらないらしい。
あたしがリブラさんに付き添いをお願いしたのはいろいろと理由がある。
「そういえばずっと聞きたかったんですけど、リブラさんって、その・・・蓮とどういう関係なんですか?」
正直これを聞くのが一番の目的だった。
まさか新しいライバルがこんな小さな子だとは思わなかったのだが、蓮とこの少女は深くて固い信頼関係を築いていることを、先ほど目の前で見てしまったからだ。
「私とレンの関係? 仲間・・・いえ、相棒と言った方がいいのかもしれませんね」
「相棒・・・」
その響きに複雑な感情を覚える。
恋人などの親密な関係ではなさそうなことには安心したが、それでも少し悔しくなる。だってそれが、二人だけの特別な関係であることには違いはないのだから。
「ご飯を作ってくれることにも感謝をしていますし、本当に、いい人ですよ」
リブラさんは蓮のことを嬉しそうに話してくれる。
あたしの大切な人がそんな風に褒められるのは初めてなので、少しむず痒い。
恐らくだが、この二人は恋人のような関係性には至っていないのだろう。
あたしがそうであるように、恋をする乙女の表情は何となくわかるのだ。そしてリブラさんからはそれが感じられない。
異世界人だからと言われたらお終いだが、愛に国境も世界もないとあたしは信じる。
「そういえばリブラさんって蓮の家で同棲しているんですよね?」
この際だからとあたしは聞きたいことを次々聞いていこうとリブラさんへ質問を投げかける。
あたしの質問を聞いたリブラさんは動揺したかのように少しよろけて不安定なステップを踏んだ。
「す、すいません。少し驚いてしまって。レンとは、そう、ですね、半同棲という程度のものでしょうがそんな感じになってます、はい」
「めちゃめちゃ動揺してますね」
少し言葉を濁していたのは、本人もそう感じていたからだろう。
気づいたらそんな感じになっていた、と言ったところだろうか。
「でも私はこの世界で行く当てはほぼないので、こうするほかなかったのですよ。メイの家にだってずっと泊まり込むわけにはいきません。なので一人暮らしをしているレンの家は都合がいいのです」
「都合がいいって・・・まあ確かにそうかも?」
葉島さんにだって家族とか一緒に住んでいる人がいるだろう。そんな人たちがいる中で赤の他人が毎日入り浸ってしまったら、気まずいことこの上ない。
そのうえ蓮だったら一人暮らしだし、身を隠すのにはちょうど良かったのだろう。
それならば、あたしにとってのリスクを減らすことも可能かもしれない。
「よかったらあたしの家を使ってもいいですよ、部屋は結構余っているんで」
「お気遣いありがとうございます。では機会があればいずれ」
ほぼ初対面の人物にこんな誘いをするのは気まずいものがあるが、助けてくれた恩義もあるため、これくらいのことはしてしかるべきだろう。
それにこれ以上彼女が蓮の近くにいると、あたしが蓮に近づけなくなってしまう。そういう意味でもあったのだが、リブラさんの純粋な性格を感じ取ると、あたしは少し罪悪感を覚えてしまう。
「そういえばリコ、お友達のことについて何か進展はありましたか?」
話題を変えようとしたのか、それとも心配してくれていたのか、リブラさんはあたしにそう問いかけてくる。
「和奏は・・・ううん。今も何もわからないままです。ていうより、これ以上手がないんですよ」
あたしはあの後も和奏についていろいろ調べた。
しかし時間が経つにつれその足取りはつかめなくなってくる。今は以前のように部活を休んではいないため、必然的にあたし自身の時間も減ってしまうのだ。
このまま何もできずに時間がさらに経ってしまうのだろうか・・・
「心配しないでください。あなたのお友達は必ず見つけて見せます。約束です」
あたしを心配してくれての事か、リブラさんがそう言ってくれる。
きっと先日の件でもあたしの知らないところでいろいろ力になってくれていたのだろう。
多少は蓮から事情を聴き齧っていたが、もしかしたらリブラさんだけでなく葉島さんにも何か迷惑をかけてしまっていたかもしれない。
「あ、ここがうちです」
そんなことを考えていると私たちは家の前まで着いていた。
「ここが璃子の家なのですね。なるほど、レンが豪華だと言っていた理由が何となくわかりました」
確かにうちはそこら辺の家よりは土地も家も大きく、ちょっとした旅館のように見えるが、実は老化が進んでいるためそこまでいい家とは言えない。
「とりあえずリコ、明日も私が迎えに来ましょう、それまでどうか危ないことはしないように」
「うん、リブラさんも気を付けて」
「ええ・・・『
玄関前で別れを告げると、リブラさんは急にまぶしい光を放った。
そしてそこに先程までのリブラさんの姿はない。だがすぐ真上で風を切る音がするのであたしはその方向に目を向ける。
「あ・・・」
そこにいたのは小さな鳥だった。
「あれが、異能力」
蓮から話は聞いていたし、実際にそれをあたしは見ていた。
しかしあの二人は共に身体能力に関わる力であったため、その力がいまいち伝わってこなかった。
しかし、目の前で魔法のようなことが起きたのだ。ここにきてあたしは異世界という存在を意識し始めてしまう。
「あたしも、異能力が使えたらな」
そうすればみんなの力に・・・蓮の力になれるのに
そんな高望みなことを考えながらあたしは家の中に入るのだった。
※
リブラ視点
「少し気を遣わせすぎてしまったかもしれませんね」
どうしてレンではなく私を指名したのかはよくわかりませんが、彼女と会話をしたかったのは私もなので一石二鳥と考えます。
「やはり、不自然なほど静かですね」
すでに暗くなってしまったため、この段階で私は危険に置かれています。
彼らガイアが襲撃をするとするなら夜。それも、できるだけ人通りが少ないところ。
私が今いる空などは人通りなどあるわけもないので、絶好の的をさらしてしまっているのだ。
ばれていないことを祈りつつ私はレンの家まで全力で飛ばします。
そして私はレンの家のベランダに着陸し、扉を開けて中に入ります。
以前からの取り決めで、ベランダのカギはかけないことにしているのでいつでも入り放題です。
「レンは、まだ帰っていないようですね」
部屋の明かりもついておらず、玄関のかぎもかかったまま。
すでにあたりも暗くなっている時間帯、私の相棒はいまだに帰宅していません。
何かあったのかと心配になってしまいますが、ここで私が家を出ても入れ違いになるだけです。
「とりあえず、しばらく待ってみましょうか」
私はすまーとふぉんを持っていないのでレンと連絡を取ることができません。
だから、こうして愚直に帰りを待つことしかできないのです。
「そうしないと、今夜はご飯抜きになってしまいますからね」
もはや私の胃袋は彼に掴まれたと言っても過言ではないでしょう。ですから、レンが帰ってくるのを楽しみに待っています。なんなら、代わりに家事をある程度して彼の負担を減らしてあげた方がいいかもしれませんね。
そうして私は掃除でもしようと最近使い方が分かった掃除機に手を伸ばします。
こうして私は彼が帰ってくるのを待ちました。
先に結論を言いましょう。
今夜、彼が帰ってくることはありませんでした。
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