第9話 心配性

 ファミレスでリブラたちと別れた俺は葉島と二人きりで夜の道を歩いていた。


 葉島と二人きりになるのは何気に久しぶりかもしれない。今まではリブラと三人合わせて集まることが多かったため、なんとなく新鮮な雰囲気になってしまう。


 ちなみにすでにあたりが暗くなってしまっているのは、リブラのパフェを見た俺たちが追加注文をしてしまい、あの深刻な雰囲気の後和気あいあいと食事を楽しんでいたからである。




「まさか璃子がリブラを指名するなんてな」




 てっきり俺が送ると思っており、まさかリブラと一緒に帰るだなんて思わなかった。




「そこまであの二人に関わりはなかった気がするんだけどな」


「だからこそなんじゃない?」




 そういって俺の独り言に答える葉島はどこか不思議そうな顔をしていた。




「鳴崎さんって水嶋君と仲いいんでしょ。だから水嶋君と仲のいいリブラとも仲良くなろうって思ったんじゃないかなー」




 確かに俺が知る璃子は、友人に明確な好き嫌いを分けていない。あいつにとっては誰しもがいい人なのだろう。


 間接的にとはいえ命を守ってくれ、友達のことを一緒に調べてくれていたリブラとも仲良くなりたいのだろう。もしかしたら今頃お礼とかを言ってるのかもな。




「葉島の家の方に行くのって、俺は久しぶりな気がするな」


「あはは、リブラはしょっちゅう寄ってくれるけど、水嶋君の家と私の家ってそこまで近くはないからね」




 フットワークの軽さだ。俺も空を飛べたら頻繁に遊びに来れるのかもしれない。だが女子の家に遊びに来るというのも若干の抵抗が生まれてしまう。




 璃子以外に、俺は友達の家に遊びに行くということをしたことがない。女の子どころか男ともだ。


 それは葉島も例外ではなく、この前家に来たのは怪我をして運ばれた時で遊びに来たわけではない。


 璃子の家(途中からは自分の家)を除き俺は友達の家に遊びに行ったことはなかったのだ。




「水嶋君さえよければいつでもうちに遊びに来てね。どうせ親も帰ってこないし」


「そうだな。今度リブラと一緒に行ってみるか」




 その今度がいつになるのかはわからないが、絡み合っている問題が解決していったら皆でどこかに遊びに行きたいものだ。




 璃子はもちろんのことこの前はいっしょに行けなかった龍馬や吾郎も誘いたい。この前遊園地に一緒に行った先輩ともまたいつかどこかに行ってみるのもいいかもしれない。




 この前はフライングしてしまったが、皆で遊園地に行ってみたい。そして俺がアトラクションを案内するのだ。


 うん、想像しただけで顔がにやけてしまうのが自分でもわかる。それを悟られないように上を見ながら俺は周りを索敵する。




 ファミレスの時点で異能力を発動していたが、俺たちを狙っている人物はいない。


 これからしばらくは異能力を発動し続けることが増えそうだ。しかし覚醒してからというもの、俺は格段に異能力の限界時間が伸びたのだ。


 だから問題はないしむしろいい修行になる。そう多いながら俺はさらに索敵の範囲を広げるため五感を強くしていく。


 そんな様子に気づいたのか葉島は俺に視線を向け




「ずっと警戒しているよね。でも任せて、万が一の時は合図をくれれば私が守ってあげるからね」


「ああ・・・その時は頼むよ」




 葉島の心配に俺は微笑みつつも真剣な表情で言葉を返した。


 普通なら心配のしすぎだと思われて笑われてしまうかもしれないが、異能力の恐ろしさを知っているからこそ、葉島も俺のことを勇気づけてくれようとしている。




(俺が頑張らないとな)




 異能力が覚醒したばかりの俺だけど、着実に力はついている。俺も役に立てるのだ。




 そして俺はずっと警戒しながら葉島と夜道を歩いたが、道中何事もなく無事にたどり着くことができたのだった。




   ※




メイ視点




「おかえりなさいませお嬢様」




 水嶋君と玄関で別れ家の中に入った私を使用人の人たちが迎えてくれた。


 お屋敷というには些か狭いとは思うが、それでも一般家庭より十分に広い我が家は使用人などの助けを借りないと家事もままならない。


 だが食事や家事の心配をあまりしなくていいので、私はものすごく助かっている。


 その分、生活スキルに自信がないのはここ最近の秘密だ。




「ただいま帰りました・・・あれ?」




 そういいながら家の中を進んでいくといつもより騒がしいことに気づいた。まるでみんなが何か慌てているような・・・




 自分の部屋に入るもどこか違和感を感じた私は再び廊下へと出る。




 もしかしたら何かあったのかもしれない。


 そう考え廊下を歩いていると不意に後ろから声をかけられた。




「おお、帰っていたのかメイ!」




 元気そうに私に声をかけてくれるのは小さなころから聞いていた声。最近はあまり会わなくなってしまったがそれでも忘れるわけがない。




「お父さんも、帰ってきてたんだね」




 葉島大輝はしまたいき




 私のお父さんでIT企業の社長を務めている。身長はすらりと高くまるでモデルのようなスタイルだ。


 高級車などは持っているものの通勤に自転車を使い毎日体を鍛えているため、そこら辺の人よりは筋肉がついているだろう。




 どうやら久しぶりに早く帰ってくることができたらしく、一緒に食事をしようと何も食べずに待っていてくれたらしい。




「しばらく見ない間に背が伸びたんじゃないか?」


「まだ最後に会ってから半年も経ってないよ?」


「それでも娘が大きくなったのはなんとなくわかるものさ」




 そういいながら私たちは広間のほうへ歩いていく、するとすでに食事の準備ができているのかいい匂いがそこから漂ってきた。




「これって・・・なんかいつもより豪華じゃない?」




 いくら社長令嬢といっても贅沢三昧をしているというわけではない。むしろお父さんはそういうのを嫌っている。だからこそ自転車通勤が今でも続いているのだろし、いつも私が作ってもらっている料理も一流シェフが作った料理というより、メイドさんがつくる家庭的な料理だ。




「俺の我儘にみんなが協力してくれたんだ。久しぶりに会えたんだから今日くらいは贅沢してもいいだろ」




 そう言いながら席に着くので私もあわてて自分の席へ向かう。八人掛けのテーブルに二人だけというのは些か寂しいが、私はいつも一人なので特に気にならない。




「うちでエースだった奴がしばらく活動をしていなくてな。これからまた会えない生活が続きそうなんだ。だからこそ今日無理して帰ってきたんだが・・・」




 どうやら会社のほうが切羽詰まった状況らしい。話を聞くと、どうやら最近からエースであったという請負の人物が仕事を辞めてしまったのかしばらく活動をしていないらしい。お父さんはその人のことをとても買っており、会社の重役に勧誘することも考えていたそうだ。




「もしお前の友達でプログラミングに興味があるやつがいたら紹介してくれ。とにかく最近は人手が足りないんだ」




 そういいながらお父さんは私の目を見る。


 社長を務めるだけありその目力は今まであった誰よりも強く家族である私も思わずどきりとしてしまう。


 それほどの迫力がお父さんにはあった。




 ちなみに人手が足りないといってもおそらく支社のことだろう。


 すでにお父さんは多くの支社を立ち上げており、ベンチャー企業として大々的な成功を収めている。




並々ならぬ努力と愛する家族を思った結果なのだと、今の私は思える。




「それはそうとメイ。どうやら最近仲のいい友達ができたらしいじゃないか」




 おそらくリブラのことを言っているのだろう。


 リブラは私の家に何度も遊びに来ており、すでに使用人の人たちとも顔見知りになっている。きっと使用人の誰かがリブラのことをお父さんに話したのだろう。




「お前にもきちんとお友達がいることを聞けて安心したよ。父さんも母さんもいつもお前に構ってやれなかったからな」


「別に気にしなくていいのに」




 お父さんは半年ほど前に会ったが、お母さんとはもう一年以上会っていない。


 お母さんはモデル兼女優として今も世界各地を飛び回って仕事をしている。


 私はもちろんのことこの二人だって彦星と織姫のような状況なのではないだろうか。




「何がともあれ、友達のことは大事にしろよ。友達は一生ものだ。間違っても悪い男には引っかかるなよ?」


「もう。わかってるってば」




 友達を大事にすることについては本心からそう思うことができる。


 きっと以前の私ならその言葉を心の底で笑っていただろう。だが、今の私は友達の大切さを実感している真っただ中だ。




「いい目をするようになったな」


「え?」




 そんなことを考えているといきなりお父さんは私のことを見てそう微笑みながら告げた。




「前のお前はどこか冷めきっているというか、まるで人形みたいだったからな。でも今は違う。どこか燃えるような、今を楽しんでいるような雰囲気だ」




 そういってお父さんは水を飲みどこか遠くを見るように視線をずらした。




「どんな変化があったのかは知らないが、とにかく今をがむしゃらに楽しめ。きっとメイにとって一生の宝物になるはずだ」


「うん・・・そうだね」




 そう聞いて思わず私は苦笑してしまう。


 何せ現在、絶賛命を狙われているのだ。楽しむどころか恐怖すら感じている。


 だがそれもどうでもよくなってしまった。




「・・・私もがんばろ」




 そういって私は玄関の前で別れた努力家の少年のことを思うのだった。


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