第6話 信頼関係
リブラと新たな決意表明をした夜。俺は新たな問題に直面していた。
「一人部屋だったから、ベッドが一つしかないってこと完全に忘れてた」
リブラはこのホテルに来る際ネックレスとして擬態していたので一人分の料金しか払っていない。
なおかつ、二人部屋が開いていなかったため、俺は一人部屋を選択したのだ。
リブラと同じ空間で寝ることはしばしばあるものの、同じベッドで寝るのはアズール戦前夜からは一度もなかった。
俺はあの戦い以降、新しくソファーを購入した。それはベッドとして使うには十分でいつも俺はそこで寝ており、リブラは俺のベッドを使っている。たまに逆になることもあるが、基本的に一緒に寝ることはほとんどない。
「この部屋のお金を払ったのはレンなのですから、遠慮せずともいいのですよ?」
リブラがそう言ってくれるものの乗り気がしない。とはいえ先ほどの男やその仲間に張り込みなどをされていたらまずいので、このまま家に帰るわけにもいかない。
「いや、リブラが使ってくれ。俺はそこの椅子で十分だよ」
そう言って俺は部屋の片隅にある椅子を指さす。
机に付属している椅子であり、机に突っ伏しながら寝ることは十分に可能だろう。だが、背中が痛くなることは確実だ。
明日は学校があるので疲れを残したくはないが、やむを得ないだろう。
「だったらその・・・い、一緒に寝てもいいですよ?」
俺が明日の自分を想像していた時、顔を少し赤くしたリブラがそう提案してくれる。
「いや、さすがにそれはまずいだろ」
俺はそう言ってその提案を却下しようとする。あの時はお互い身体を万全にするためにやむを得なったが、ここにきてそれをする意味はない。
それに璃子にこのことが知れたら、お説教が確実だろう。
「別に私は構いませんよ。私とレンは仲間ですので」
そう言って恥ずかしながらも俺に笑いかけてくれる。
俺も体を休めたいのは事実なので、正直その提案を受け入れたかったが俺の理性がそれを許さない。
「今更だけど、男と一緒の空間で夜を過ごすのってまずいんじゃないか?」
これは前からも思っていたことだがリブラは俺が男であるということを忘れているのかもしれない。そう思って一応問いかけたのだが
「問題ありません。レンはそんなことはしないと信じていますし、わかっていますので」
信頼
俺は今までそう言ったことを意識していなかったがリブラは俺のことを信用してくれているらしい。相棒として絆を深めていたことは実感していたが、こうして言葉として聞くのはほぼ初めてなので少しこそばゆかった。
「ほら、もうすぐ日付も変わりますしとっとと寝ますよ!」
「おおっ!?」
小さな手で引きずられ、気づいたら俺はリブラの隣で横になっていた。
ベッドが狭いのと、制服のまま寝ているのでゴワゴワしてしまうので若干寝心地は悪い。
だがそれでも隣には優しいぬくもりがあった。
「とにかく、明日はメイも加えて話し合いです。明日はレンも学校がありますし余計なことは考えないで早く床に就きましょう」
そう言ってリブラは目を閉じる。このまま眠るつもりのようだ。
俺は動くこともできず、そのまま目を閉じようとするが
(眠れるわけないじゃん)
あの時は壮絶な疲労があったしすぐに眠ることができたが、今日はなぜか寝付けない。
前回は意識していなかったが、リブラも女の子なのだ。異世界人とはいえ、こちらの世界の女の子と何ら変わりない。
そしてそのことを意識すると余計に眠れなくなってしまう。
(まったく、安心した顔して眠っちゃってさ)
俺はこの日、床に入ってから数時間過ぎるまで眠ることができなかった。
※
ホテルのチェックアウトを済ませ、近くのコンビニで軽めの朝食を済ませた俺とリブラは二人で朝早くから住宅街を歩いていた。
普通なら教科書などを取りに戻るところだが、俺は置き勉派で教科書などは学校の机やロッカーに入れっぱなしだ。何せ予習や復習をする必要がないのだから持ち歩く意味がない。
少し寝不足気味な俺は昨日来た道を同じく引き返し、ネックレスに化けたリブラと昨日の現場まで恐る恐る戻る。あの時俺の自転車を置き去りにしてしまったためそれを取りに戻る必要があったからだ。
「あ、あった!」
自転車には特に何もされていなかったようで、道端に立てかけられていた。愛用しているお気に入りの自転車なので無事なことにほっとする。
無事に自転車を回収した俺たちはそのまま学校へ向かう。もちろん警戒は怠らない。
俺は常に異能力を駆使して周りから敵意が向けられていないか確認する。
いつもより長く感じられる登校が終わると俺は急ぎ足で教室へ向かう。
「おはよー蓮、今朝は早いね」
するとすでに登校してきていた龍馬が俺を出迎えてくれた。龍馬は朝が早いということを初めて知ったかもしれない。
「おはよ龍馬。吾郎はまだか?」
「あいつは部活の朝練だよ。蓮は遅く来るから知らないかもだけど、吾郎も割と頑張ってるんだよ」
確かに思い出してみれば、金属バッドにボールが当たる音が鳴り響いていた。もしかしたら吾郎がホームラン並みのスイングをしたのかもしれない。もし今度見る機会があったら是非とも最後まで見物してみたい。
ちなみに葉島はまだ来ていない。交通機関を利用している葉島はどうしても遅くなってしまうのだ。
葉島には昨日のことをまだ伝えられていない。今日どこかのタイミングで伝える必要がある。だからこそ朝それができればと思ったのだが、それは無理そうだ。
俺たちはそのまま教室を出て学校の屋上へと向かう。龍馬にはトイレに行くと伝えたが、一度リブラと二人きりになるためだ。
屋上に着いて誰もいないことを確認すると、俺は首に下げているネックレスに語り掛ける。
「それで、奴らはすぐに仕掛けてくるかな?」
「わかりません。これからは各々、できるだけ一人にならない方がいいでしょう。一番の不安は・・・」
「璃子だな」
あいつらは俺たちが異世界人と戦うのをどこからか見ていたようだ。ならば葉島と璃子、二人の存在を認知しているかもしれない。
葉島ならすぐにやられることはないと思うが問題は璃子だ。
璃子に関しては異能力使いというわけでもなく、非力な少女に変わりがないため狙われた時点でアウトだ。
それに璃子にまつわる問題もまだ解決してはいない。だからこそ誰かが気に掛け続ける必要があるのだ。
「彼らガイアがリコのことを知っているかが怖いです。人質に取られたらその時点で詰みでしょう」
よって俺と璃子。葉島とリブラがペアになりこれからは行動することになりそうだ。
4人で一緒に居れたらそれがいいのだが、さすがに璃子が気まずいだろう。
そう考えていた時、ふと校門の方で見知った人物を見かける。
「あ、葉島と・・・遊香先輩」
遊香先輩は電車を使って登校しているからか、葉島と登校時間がかぶることが多いのだろう。
今も一方的に葉島に話しかけている。きっと昨日のカラオケのことを話して盛り上がっているのだろう。
そして校舎の中に入っていくのを見届けた後、俺も教室に戻ろうとしたとき
「メイにも仲のいい友人がいたのですね。やはり友人がいい交友関係を築けているというのは私もうれしいですが、なんか一方的な感じが・・・?」
リブラが遊香先輩の事を見るのはこれが初めてだ。遊香先輩の独特な雰囲気にリブラは困惑しているのだろう。
「あんな感じの人だけど悪い人じゃないから安心していい。いつかリブラにも紹介するよ」
「ええ、それはいいのですが・・・いえ、やはり気のせいでしょう」
そう言いながら俺たちは教室へと戻っていく。これからいったい何が起こるのかはわからない。それでも俺たちは不安の中、前を向いて歩き続けなければいけないのだ。
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