第26話 希望と不安
俺たちは二人で一緒に駅まで向かう。ひとまず遊香先輩のことを保護できたので先に待っているであろうリブラたちと合流するために例の山を目指す。
俺が家を出たのは朝の九時ごろ。だが今はすでにお昼時が近づいてくるほどの時間だった。
「そ、そういえばなんだけどさ」
電車の中で俺の隣に座った遊香先輩は俺に呼びかける。心なしか遊香先輩はもじもじして落ち着かず、ほんのり顔を赤らめているようにも見えた。
「僕たちってさ、これから一緒に戦うわけでしょ?」
「まあ、場合によってはそうかもしれませんね」
というより、きっとそれは避けられない。あちらが俺たちのことを狙っている以上、和解そのものができないのだ。
「だ、だったらなんだけど、その・・・」
俺がそんなことを考えていると、遊香先輩はチラチラと俺の顔をうかがいながらまくしたてるように言う。
「これからは君のこと、レン君って呼んでもいいかな?」
「はい?」
「いやほら、仲間になった以上レンレンとかふざけたあだ名で呼ぶのも何というか、その・・・」
そう言うものの先輩の声は少しずつ小さくなっていく。その身長も相まって、まるで悪いことをして怒られるかドキドキしている子供みたいだと思ってしまった。
「別に、俺の事なんてどう呼んでくれてもかまいませんよ」
「ほ、ほんと! じゃあこれからもよろしくね、レン君」
俺たちは元の駅に着くまでにいろいろなことを話した。
くだらない話や面白そうな話、楽しくなるような話。そして耳にタコができそうなほど愛理さんの自慢話。
きっと先輩は今まで話そうと思っていたエピソードがたくさんあるのだろう。だが、本当にそれを話せるほど深い信頼関係を築いた友達はそう多くはないらしい。
何せ手当たり次第に仲良くなっていたようで、中には名前と顔もよく覚えていない人もいるそうだ。
「そういえば先輩、いい加減に聞かせてほしいことがあるんですけど」
「むむ、何かねレン君」
話が落ち着いてきたところで俺は一度話題を切り替える。
もうすぐ電車が目的地についてしまうのでそこまで長い話はできないだろう。
だがそれでも、俺は先輩に確認しておきたいことがあったのだ。
「先輩、アビリティストーンのことを知らないって本当なんですか?」
「ああ。僕はそんなもの全く知らないよ。聞いた覚えもないし、それらしいものを拾った覚えもない」
ならば謎だ。どうして先輩が異能力を使える。
この世界が異世界とつながったのはここ最近だ。だが話を聞くと遊香先輩は生まれた時から異能力という存在が身近にあった。それも、家族全員が。
こればかりは俺一人で結論を出すことができない。ちょっとした恐怖を感じるが、そちらの解明も進めないといけないだろう。
「そういえば、僕のおばあちゃんが言ってたんだけど」
ここで先輩が口を開く。それはどこか遠い目をしたようで、大切なものを思い出しているようにも見えた。
「僕たちの家系は、魔法使いの家系なんだって」
「魔法使いの家系?」
そうだよ、と先輩はうなずく。だが、この世界に魔法など存在しない。おそらくそれは異世界でも同じだろう。なら、先輩の力はどこから来た?
「あの時は深く考えずにそういうものなんだなって思ってたけど、異能力ってものがあると知った以上、やっぱり僕の家にはまだ何か秘密があると思うんだ」
遊香先輩は、きっと家族から愛を最大限に受けて育ってきた。両親の方針なのか、彼らは遊香先輩たちをあまり魔法と関わらなくてもいいように最大限の配慮と教育をしていたように思えてならない。
きっと、自分たちの事情に巻き込んでしまったことの負い目なのか、そのことをあまり話そうとしなかったそうだ。
でも俺たちは次に進むために、それを知らなければいけない。
「服部家のことについては先輩がどうにかして調べてみてください。ひとまず今は目の前の問題をどうにかすることから始めましょう」
「そうだね。だってもう何時襲われてもおかしくないだろうし」
そう言いながら遊香先輩は周りをきょろきょろ見回している。俺も移動の際はできる限り異能力を発動して周りの気配を探る。
だいぶ使い慣れてきた俺の『同調』も、葉島のように自然に発動することができるようになっていた。
そうして俺たちは荒神町まで戻り、急いで璃子のところへ向かった。電話によるとすでに俺たち以外は全員到着済みらしい。
「急いでください先輩。だいぶみんなを待たせちゃってるみたいで」
「はぁ、はぁ、も、もう少しだけゆっくり走ってもらえると嬉しいかなーなんて」
「先輩、この前体育の成績がよかったって自慢してましたよね?」
「むーーーー。レン君のケチ」
何とか見慣れた道を通って例の山の入口まで到着する。すると入口のところに皆はもう集まっていた。
「あ、来た来た」
「もうっ、遅いよ蓮」
そう言いながら葉島と璃子が俺たちのことを迎えてくれる。その隣にはにこやかな笑みを浮かべるリブラの姿もあった。
「悪い、先輩が道を間違えちゃって」
「んなっ、後輩のくせに生意気なーーー」
そんなやり取りをしていると、葉島と璃子は笑いながら俺たちのことを見ていた。そして思わずみんなで見つめあって笑ってしまうのだ。
ああ、これが仲間というものなんだな・・・
※
ガイア視点
「それで、本番までもうすぐだが?」
「ああ、支障はねーよ」
コマンダーとウィッチは向かい合いながら計画について話し合っていた。
スナイパーはそれを離れて見守っており、同時に周りの索敵もこなしていた。
「当日は計画どおりだ。もし途中で邪魔が入ったら、君に奴らとぶつかってもらう」
「だからわーってるって。何度も言うな」
コマンダーが釘を刺すのにはきちんとした理由がある。
このウィッチは目的をこなすためならあまり手段を問わない。この前はウィッチのせいで、せっかく協力関係が築けつつあった異世界人との間にちょっとした亀裂が入ってしまったのだ。
「そういえばアイツが言ってたんだけどよ」
ウィッチがいきなり二人に向けて話し出す。アイツという単語が出た瞬間、場の空気が一気に変わった。
「もし今回の計画で成果を残せなかったら、また地獄送りだってさ」
「ハハハ、それはそれは。まあ私としては望むところではあるのだがな」
「いやいや、自分はもう勘弁なんスけど!?」
コマンダーはともかく、後の二人にはしっかりとしたトラウマが残っているらしい。
何せ今回の計画にコマンダーは参加せず別行動をとる予定だ。
だからもし罰せられるのなら、ウィッチとコマンダーの二人だけ。だからこそ、くだらないミスで失敗するわけにはいかない。
「計画っつってもよー、要はあの掃き溜めのクソ雑魚どもをぶっ殺せばいいだけだろ。なら特に問題はないだろ」
「それはそうかもしんねえっスけど」
やはり警戒をしておくに越したことはない。それをウィッチもわかっているのかバカにすることはない。
「それにどうやら彼らにも新しいお仲間が増えたようだからな。ウィッチ、抜かるなよ?」
「ふん」
そういって三人はそれぞれどこかへと消える。彼らにも一応表上の生活があるのだ。だからこれが終わったらまた日常へと戻らなければいけない。そしてまた闇の中へと入るのだ。
そして、不穏な闇を抱えたまま夜は明ける。
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