第27話 差

 俺たちは時間の許す限り、異能力を用いた戦闘訓練に精を出した。


 休日だったこともあり、ほとんど丸一日を異能力の訓練につぎ込むことができた。




 俺や葉島はともかく、遊香先輩はあまり異能力を使い慣れていないこともあって割とすぐに息を切らしていた。


 だが俺たちの努力している姿を見て、自分も頑張ろうとすぐに立ち上がるのだ。




 基本的には俺たち四人で順番にペアを組み、できる限り本当の戦いに近い形で戦闘訓練をした。


 ちなみにベストコンビは、俺とリブラのペアだった。


 攻守のバランスなら葉島と組むのが一番だが、俺が一番動きやすいのはリブラと組んだ時だ。その証拠にリブラと俺が組んだ時は無敗である。




「うー・・・やっぱりどんどん仲良くなってる気がするぅ」




 そんな様子を見ていたのは、昨日に引き続き救急セットを持って端っこで待機している璃子だ。


 璃子にはスマホでビデオを撮ってもらい、それをもとにリブラがその回の戦闘について反省をする。そんなやり取りが一日中続いた。




 最後のほうはさすがの俺も力を使い果たし、苦笑いしながらまだまだ元気な人物のほうを見る。




「なんで、葉島はそんなにピンピンしてんだよ」




 俺や遊香先輩、さらには珍しくリブラまで疲れた表情を見せる中、唯一葉島だけが余裕そうな表情で作り出した『結界』を持て余しながら立ち尽くしていた。




「慣れというか、燃費がいいというか・・・力を使っても疲れる感覚がないんだよね」




 今はその体質が本当にうらやましい。リブラも葉島のことを怪物を見るような眼で見ていたことから、ここまで異能力を維持できる者も稀なのだろう。




 強力で攻撃的な異能力ほど燃費が悪い。




 遊香先輩やウィッチがその典型だろう。




 あの時の戦いも最後のほうは両者が消耗しきっていた。




 対して葉島やスナイパーは持続型とでもいえばいいのだろうか。




「わ、私だって本来の力を取り戻せれば・・・」




 なぜかリブラが張り合っていたが、それより心配なのは遊香先輩だ。




 遊香先輩は葉島の『結界』を自分の能力で停滞させてことごとくを無効化していた。


 だが葉島が次々と『結界』を作り出してしまうために最後のほうは追いつけていなかったし、俺と戦った時などはまず俺のことを視界にとらえることができていなかった。


 しかし、対リブラにとっては尋常じゃないほど有効な手段となった。


 リブラが『変身』を使っている途中で遊香先輩が『停滞』を発動すると中途半端な状態でリブラの『変身』が止まってしまうのだ。リブラを攻撃に転じさせることなく防御すら封じる。リブラは身体能力がいいわけではないので、ほとんど無防備の状態にさらすことができる。遊香先輩にはリブラキラーの称号を与えてもいいと思った。




 先輩の能力は対象物が視界に入っていなければ発動しない。




 だからこの異能力は、乱発するのではなく切り札として使うのがいいだろうという結論に至った。




 すっかり日も暮れてしまいさすがに家に帰らないといけない。夜は危ないことが判明したし明日は普通に学校があるのだ。


 どんなに危険でも学校を休むのはさすがにまずいだろう。




 だからここで解散となったのだが・・・




「どうしてこうなった」




 俺の家には葉島が異能力で送ってくれた。だが、この部屋にいるのは俺とリブラだけではない。




「へぇーこれがレン君のお家かー」




 興味津々そうに俺の家の家具の数々を見るのは遊香先輩だ。そしてその後ろにはほっぺたを膨らませこちらを見る璃子がいた。




『せっかくだし、レン君のおうちに泊まっていこうかな』




 先輩がそんなことを言い出した時、場が凍った。




 葉島と璃子は必死に止めたのだ。特に璃子など、必死に遊香先輩のことを説得していた。俺は遊香先輩の家に泊まってしまったこともあり、あまり強くは言い出せないでいた。だがそこで俺の相棒は言ってしまう。




『いいじゃないですか。二人より三人のほうが賑やかになりそうですし』


『『『『えっ・・・』』』』




 思わずリブラ以外の俺を含めた全員がそんな声を出してしまった。


 遊香先輩は俺とリブラが一緒の家に寝泊まりしていることに驚いたのだろうが、他の二人の反応はバラバラだった。




 ただひたすらに苦笑いをする葉島とわなわなと震える璃子。


 そして複雑そうに目を輝かせる遊香先輩ともはやどう収拾をつけていいかわからない俺。


 言い出したリブラは不思議そうな顔をして俺たち全員を見ている。




その後なんやかんやあって、遊香先輩は本当に俺の家に泊まることになったのだ。なんやかんや(主に璃子)については長くなりそうなので割愛させてもらおう。




「言っとくけど蓮、本当に変なことはしないんだよ!!」




 そういって何度も釘を刺すのはやはり璃子。先輩への説得にあまり意味がないと悟った璃子は俺に釘を刺す作戦に切り替えた。最初は本人は自分も泊まると言い出していたが、璃子には家族が待っているためさすがに泊まらせるわけにはいかない。


 だからここまで連れてきた後、葉島に送ってもらうことになったのだ。




「リブラもいるんだから大丈夫だよ。それより璃子、お前も疲れているだろうから、しっかり休んどけよ」


「・・・それを言うのはずるくない?」




 璃子は自分が何もしていないと思っているのかもしれないが、些細な怪我でもすぐに駆け付けてくれてみんなのことを手当てしていた。俺たちはその安心感もあって、力の許す限り異能力を使うことができていたのだ。それに璃子だってずっと緊張していたと思う。だから彼女にだって休む権利はあるのだ。




「とにかく今日はもう全員休もう。リブラ、悪いけどもう一回頼めるか?」


「ええ、もとよりそのつもりでしたから」




 このままでは葉島が璃子を送った後一人になってしまう。だからリブラも璃子の送迎について行って、その後に葉島を送り届けた後にここに帰ってくるという計画だ。




 鳥の姿になれるリブラのほうが目立たないだろうという判断だった。




「それじゃ、おやすみなさい」


「・・・おやすみ」




 そういって二人はリブラと一緒に夜の中を飛んでいく。しばらく眺めているとあっという間に見えなくなってしまった。




「・・・異能力者って、みんな空飛べるの?」


「ハハハ、俺は跳べませんよ」




 と言ってはいるが、実をいうと俺も空を飛ぶ方法を思いついてはいるのだ。だが、あまりにも危険極まりない行為なため、その実験を見送りにしている。


 ガイアの問題が片付いたら、念のため葉島に協力してもらって試してみよう。そう思っているのは俺だけの秘密だ。


 ぶっちゃけリブラにこの考えを話したら危険だからやめなさいと強く止められるだろう。だがやってみたい。だって、俺も空を飛びたいもん。




「とりあえずリブラが帰ってくる前にご飯を作りましょう。先輩は何か好き嫌いがありましたっけ?」


「ほぉ、レン君の手料理かね。僕は好き嫌いがないからその分期待してみよっかな」




 先輩はそういうとソファーに座りながら俺のことを見ていた。少し照れ臭いが、このまま準備を始めさせてもらおう。




 俺は冷蔵庫の中をのぞいて作り置きしていたおかずや残っている食材に目を通す。




(うーん・・・とりあえず今日は洋食みたいな感じでいいかな?)




 先輩も来ているのだ。今日は少し豪勢に行かせてもらおう。




 俺は大きめの鍋を取り出し、米や食材などを次々投入していく。もちろん分量計算や味付けなどにも抜かりはない。




 そしてそのまま三十分ほどが過ぎて




「ただいま戻りました」




 リブラが帰ってくるのと同時に俺のほうも準備が完了する。遊香先輩は俺が作った料理を見て目を見開く。




「こ、これって・・・」




 俺が作ったのはパエリアだ。最近魚介系の動画を見て魚介にはまっている俺は海老や貝などを冷蔵庫に常備しつつあった。ついでにあまりもののキノコを入れて香りと味を足している。


 ほかにもなかなか消費できないでいた食べ物などもこの際一気に消費してしまおうと、食卓には次々に料理が運ばれていく。ちなみに先輩は俺がエビや貝などを取り出したところから黙り込んでいた。




「・・・参りました」




 先輩が何か言っていたが、それを聞かなかったことにして俺は腕によりをかけた料理をさらに作っては運んでいくのだった。


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