第18話 群れ

 俺たちはあの後も順調に魔物を発見して倒していった。俺が気配感知を駆使すれば人間ではない化け物が周囲にどれくらいいるかが把握できる。


 この前はリブラに任せっきりだった役割だが、今回は俺がそれを引き受けた。


 リブラは敵意を向けているものしか感知できなかったが、俺にはそんな条件は課せられていないので次々と街を回った。


 そして七体目の魔物を倒し終えたとき、ようやく休憩を挟んだ。




「よくもまあこれだけの数が」


「オセロ、いったいどれだけの魔物をこの世界に持ち込んで・・・」


「とりあえず、被害が出てなくてよかったですよ」




 花咲は一人で何十体もの魔物を倒しているので、それに比べれば大したことはないのだろう。だがさすがに終わらない脅威の数々に、俺たちは少しだけ疲れが見え始めていた。




「リブラ、大丈夫そうか?」


「これくらいの戦闘なら問題ありません。むしろ調子が出てきました」




 一晩だけとはいえ、リブラは一日のすべてを回復につぎ込んだ。だから数回程度なら戦闘は問題ない。


 一方クロエさんはまだまだ元気な様子でまだまだ持ちそうだった。以外に持久戦に強いのかもしれない。




「それじゃ、そろそろ時間だし公園に戻ろうか」


「それもそうですね」




 魔物退治に夢中になっていたが、俺たちはあくまで花咲と待ち合わせをしている最中だ。そろそろ日付も変わる間際の時間帯。さすがにもう戻った方がいいだろう。




「クロエ、転移の準備を」


「了解です!」




 そう言ってクロエさんは目をつぶり準備を始める。


 彼女は視界に入る地点ならばすぐに転移が可能らしいが、長距離に及ぶ場合座標の位置を明確にイメージしなければいけないらしい。


 準備ができたのか、クロエさんは俺たち二人へ手を伸ばす。




「つかまってください。すぐに転移できます」




 クロエさんの体に触れていれば俺も一緒に転移が可能らしい。つくづく便利な異能力だ。


 俺はクロエさんの左手をつかんで身を彼女にゆだねる。リブラは一応警戒しているのか、転移先で何が起きてもいいように構えていた。




「それでは行きます・・・『転移テレポート』」




 そして、目の前の空間が歪んだ。






   ※






「ふーん、ずいぶん変わった登場をするのねあなたたち」




 目を閉じている俺に、そんな声が投げかけられた。


 すぐに目を開けるとそこは先ほどまで滞在していた公園そのものだった。本当に瞬間移動ができたのだという感動とともに、俺は声が投げかけられた方に首を向ける。




「花咲・・・」




 茶髪が目立つ少女、花咲心はまたもやジャングルジムの上で一人、俺たちのことを待っていた。


 この前は魔女のような服を着ていたが、今回はそれとは正反対の白いドレスを纏っており縞々模様のカチューシャを頭につけていた。独特なファッションセンスがあることは、もはや疑いようがないだろう。




「それで、魔物と戯れてきたようだけど、成果はあったの?」


「一応七体倒した」


「イマイチね、私は一人で十五体」




 相変わらず凄まじい強さだ。どうしてそんなに魔物を見つけられるのかは謎だが、彼女が嘘を言っているようには感じられないので本当に倒してきたのだろう。




「そこの二人が今回の協力者さんたちでいいのかしら」




 花咲は俺から目線を外すと、俺の後ろにいる二人に目を向ける。




「どっちも異世界人か、悪くないかもね。下手な人が混ざるよりよっぽどいい」




 そして花咲はリブラのことを一瞥すると




「あなたも、昨日よりかはいい目をしている。まあ、問題ないかしら」




 そんなことを言ってジャングルジムから勢いよく飛び降りる。一瞬驚かされるが難なく地面に着地して俺たちの方へと歩いてくる。




「ま、二人の実力についてはこれから見せてもらうわ。それより、早速行くわよ」


「行くってどこに?」




 いきなり移動を開始しようとする花咲に俺は目的地がどこかを尋ねる。すると花咲はにやりと笑いながら面白そうに告げる。




「どうやら森の中で魔物が群れているみたいなの。だから、私たちで掃討するわよ」




 そして俺たちは花咲に連れられて二十分ほど街を歩く。転移を使わないのは魔物と遭遇する確率を高めるためだ。その方が最終的に面倒ごとが減る。


 しかし予想に反して魔物と遭遇することはなく簡単に目的地へとたどり着く。




「「この場所は・・・」」




 俺とリブラは同時にそうつぶやいた。そこは規制線が張られた森の入り口。かつて俺と葉島が異能力の訓練をしていた場所だった。




 花咲は規制線など無視してもりのなかへと入り始める。


 テープを越えていくのには罪悪感があるがそんなことも言ってられないので俺たちも花咲を追って森の中へと入る。




「これは・・・」




 森の中は木々がなぎ倒され荒らされていた。あちこちにでこぼこと穴が開き、木には爪痕のようなものまで浮き彫りになっていた。




「爪痕はともかく、この穴って・・・」


「おそらくスナイパーでしょう」




 この森が閉鎖された理由。それは何者かによって森が荒らされ、地面に数々のクレーターが開いていたのが発見されたかだ。そしてそれを行ったのはおそらくスナイパーだ。


 彼が何と戦っていたのかはわからない。だがそのクレーターの数から激しい戦闘だったことがうかがえる。クレーターができてから数か月経つはずなのにまだその跡が鮮明に残っていた。




「こっちの爪痕は新しいな」




 対して木にできている爪痕は最近つけられたものだ。熊でもない限りこんな後をつけるのは不可能。間違いなく魔物が潜んでいる証拠だ。




「全員警戒して」




 俺たちの数歩前を進む花咲がそう声を張り上げる。彼女はすでに戦闘態勢に入っていた。


 俺もあわてて異能力を発動し周囲の様子を探る。




「何体か魔物がいる。それも結構多いぞ・・・あ、でもまだ俺たちには気づいていない」


「それなら、こちらから先制攻撃を仕掛ける。全員、前へ進むわよ」




 花咲の指示で俺たちはさらに森の奥へと入っていく。そして何かの鳴き声が聞こえてきた。




「あれは、・・・」




 そのものを視界に入れたリブラがそうつぶやく。


 目の前にいるのは岩のような肌をした大きな熊だ。体長は3メートルを超えている。しかも恐ろしいことに一体ではない。五体ほどの群れで行動していた。




「どうする、仕掛けるか?」




 俺は花咲にそう尋ねるが、彼女は首を振ってストーンベアに見入っている。




「もう少し様子を見ましょう。もしかしたらほかの個体のところへ行っているのかもしれない」


「ほかの個体?」


「言ったでしょ? 大量の魔物が森に潜んでいるって」




 今は五体しかいないが、もしかしたら規模は数十体に及ぶかもしれない。


 花咲の言いたいことが分かった俺は息をのみストーンベアを観察することに努めた。ほかの二人も同じように黙って魔物を見ていた。


 するとストーンベアの群れが移動を開始したので俺たちも気づかれないように後を追う。




 すると、皮肉にも花咲が予想した通り仲間と合流する光景を見てしまった。




「嘘・・・」




 そうつぶやくのはクロエさんだ。きっと異世界でもこんな光景はなかなか見れないのだろう。




「何体、いるんですか?」




 リブラもその光景を見て絶句していた。花咲は黙っていたので表情を読み取れないが、俺を含めた三人がその光景を見て凍り付いてしまった。




 そこには、ストーンベアの群れがいた。それも数体ではない、何十体もの個体。その数は軽く五十は越えている。




「ど、どうする?」




 すっかり司令官のポジションに立った花咲にそう声をかける。だが花咲は動じることなく、俺たち全員に告げる。




「戦うわ。不安な者は下がって後ろで支援。私が積極的に前に出るから、できる限り数を減らしましょう。もし無理だった場合は、あなたの転移に頼ることになるからそのつもりで」




 花咲は戦う気満々ですでに作戦を決めていたようだ。クロエさんに最低限のことを伝え今にも飛び出そうとしている。


俺も彼女の期待に応えるべく、異能力を再度展開し体を強化する。




「・・・行くわよ!」




 そして、俺たちは魔物の群れへ飛び込んだ。


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