第19話 新技

 一番槍を決めたのは、俺とほぼ同時に飛び出しやや後方にいる花咲だ。




創造クリエイト




 異能力で作り出した剣が、銀色のエフェクトを纏って熊たちの脳天に直撃する。直線的でシンプルだが、気づいていても避けようがないほどのスピードが出ていた。




「「「「グオォォッ」」」」




 硬い皮膚をやすやすと突き破る剣たちは、蹂躙するかのように次々と熊たちの命を奪っていく。




「グアァァァ!!」




 襲撃に気づいた球磨の群れが一斉に咆哮を上げる。花咲が二十体ほど削ったが、まだまだ先が見えない数だ。




『インストール・・・バースト!』




 俺も一気に数を減らすべく、半分ほどの力を込めて衝撃波を生み出しながら真空へとこぶしを入れる。そしてそれが防風を生み出し、熊たちを吹き飛ばした。




「くっ、致命傷になってないか・・・」




 吹き飛ばすことができたもの、岩のような皮膚にちょっとひびが入っただけで熊たちはピンピンしている。それでも多少のダメージは入っているらしく、何体かの個体はよろめいているのが見えた。




変身メタモルフォーゼ




 俺が仕留め損ねた熊を、リブラが次々切り裂いて回る。花咲より強靭に見えるその刃は、簡単に熊の首を飛ばした。




「す、すごいです副長!」


「クロエ、止まっていないであなたも手と足を動かしなさい!」




 俺は完全な物理攻撃しかできないため、リブラや花咲のように鋭利な攻撃をすることができない。つまり、硬質な魔物に致命傷を与えられないのだ。仕留めるには、複数回の攻撃が必要になる。




(どうする? 花咲にもう一度剣を作ってもらうか?・・・いや、待てよ)




 ここで俺はまた新しい戦法を思いついてしまう。


 試したことはないしぶっつけ本番になるが、もしミスをしてもみんながカバーしてくれるだろう。そう信じた俺は、脳内のイメージを実行するべく動き出す。




「花咲、少し試したいことがあるから付き合ってもらっていいか?」


「・・・好きになさい」




 もしかしたら花咲は、俺たちを鍛えるためにここに連れてきてくれたのかもしれない。だとしたらその目論見は成功だ。




同調コネクト・・・インストール』




 俺は思いついた戦い方を実行すべく、自分の右腕に異能力を使う。想像するのは・・・リブラでいいだろう。




「?・・・その光は?」




 気が付くと俺の腕が湯気のような淡い光を放っていた。オーラとでも呼ぶべきそれは腕に纏わりついて離れない。だが、先日の剣に引けを取らないほどのエネルギーが込められている。




(少し気持ち悪い感覚だけど、大成功だ!)




 そして俺は背を向けていたストーンベアの首元に狙いを定める。




「はぁぁぁぁぁぁ」


「グオッ!?」




 スパンッ




 風を切るような音を立てた俺の右腕は、いともたやすく熊の首を切り裂いた。見事に真っ二つになった首と胴体の断面は、まるで鋭利な刃に切り裂かれたように平らになっていた。




「「えっ!?」




 花咲を除いた二人は、その光景を驚くように見ていた。




「すごい、やっぱり『同調コネクト』にはまだまだ先がある!」




 俺はなんでも切り裂ける右腕を想像した。理想の姿を自身に宿す『同調』ならそれが可能だと踏んだのだ。さらに具体的にイメージするためにリブラの姿を模倣させてもらった。


 リブラのように直接腕が刃に置き換わらなくても、その一連の動作の真似事なら再現可能。


 今まで行ってきた手刀は純粋な力任せだったせいで、ジャッカルウルフの皮膚に負けてしまった。だが腕にまとわせたオーラによる刃は、それをはるかに上回る切れ味を実現した。


 花咲に作ってもらった剣には劣るだろうが、それでも新しい武器としては大成功だ。




「戦闘中にさらなる進化・・・おもしろい、もっと見せてほしいのだけれど」


「へぇー、なら・・・もう一つ!」




 俺は以前から練習していた技がある。ガイアとの戦闘や魔物騒動のせいでロクに練習できていなかったが、今こそお披露目の時。




(焦るな、お手本は嫌というほど見せられてきた)




 リブラに葉島。最近では新たにスナイパーが加わった。その中でも特にスナイパーは、俺が理想とするその形に限りなく近い。だから俺は、あの時のスナイパーの姿を思い出し、さらにそれを自分の形に昇華する。




同調コネクト・・・』




 俺は走り出す。ストーンベアが俺の周囲を囲んで壁のように圧殺しようとしてくるが、そんなものは関係ない。




「レンさん!?」




 クロエさんが心配そうに俺に警戒を促してくるがそんなものは無用だ。すでにイメージは完成した。だからあとは、俺の足次第。




『・・・エアロステップ!』




 全力疾走で走るように、俺は夜空に浮かぶ月に向かって駆け出す。イメージとしては透明な階段を一気に駆け上る感覚だ。


それが形になった時、リブラも、クロエさんも、花咲でさえ目を見開いて驚いてたのが見えた。




「と、飛んでる・・・」




 正確には足から繰り出す衝撃波で空中歩行をしているだけだ。練習したものの、俺にはまだ扱いきれない力。せいぜい十歩程度しか歩行することができない。しかし、この窮地を脱するにはそれで十分だった。




「はぁーー!!」




 俺は空中から衝撃を利用し斜めに落下しながら、ストーンベアの顔面に向かって蹴りを繰り出す。




「グアァッ」




 熊は勢いよく後ろに倒れ、完全に気を失う。俺の蹴りは倒すまでにはいかなかったようだが、気絶くらいなら持って行けるようだ。




「す、すごいです」




 クロエさんが口を開けて俺のことを見て純粋に驚いていた。




 この力は、俺も空を飛んでみたいと思い開発したものだ。リブラや葉島が自由自在に空を飛んでいる姿を見てうらやましくなった俺は、みんなには黙ってひそかに練習を重ねていた。最初はうまくいかず何度も怪我をしそうになった。俺の中で、空中飛行というのがうまくイメージできなかったからだ。


そんな中、俺はある意味で理想的なお手本に巡り合ったのだ。




 スナイパーは手や足から放たれる衝撃波で空中を飛び回っていた。俺も意識すれば拳から衝撃波を放つことができる。それができるなら俺もスナイパーと似たことができるはずだと考えた。スナイパーの異能力を見てこの技を明確に表現できたのだ。


 さらに練習を重ねれば隣町くらいまでなら空を飛べるのではないだろうかと思ってしまう。少なくとも現時点ではまだ不明だが、実践の中でようやく感覚をつかむことができた。不安定な技だが、今なら何歩でも飛べる気がしてしまう。




「・・・いい意味で、期待を裏切ってくれるわね」




 花咲も呆れるように、あるいは喜びを隠すようにそう呟いた。


 俺がここまで異能力を使いこなしているとは思っていなかったのだろう。これで少しでも見直してもらえていれば多少は報われる。




「ま、またあんな危ないことを・・・」




 リブラは心配するように俺のことを見ていた。この技は便利だが、一歩間違えば落下死するリスクがある。練習中に何度も危険な目にあったことは聞かれない限り黙っていた方がいいだろう。




(ま、怒られそうだから俺もリブラに内緒にしてたんだけど)




 ちょっとした反省会が開かれそうだが、目の前の熊たちを倒して少しでも株を上げておこうと俺は気合を入れなおす。


 爛々と光るストーンベアたちの目は、まだまだ死んではいない。




「クロエ、私たちも負けてはいられませんよ」


「はい! 私の力も負けてません!」




 どうやら向こうにも気合が入ったようだ。リブラは何かをしようと準備をしており、クロエさんもまっすぐ敵に向かって走ってゆく。どうやら熱が入ったらしい。




「いい調子ね、これなら・・・」




俺たちの戦いはさらにヒートアップする。

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