第19話 見えない心
戦いを終えた俺たちは木陰で休んでいた。思い立って行動したため、すでに時刻は夕方に差し掛かっていた。
そろそろ帰らないといろいろな意味で危ないだろう。
「二人とも、先ほどはなかなか良かったですよ。ただお互いに詰めが甘いですね。もう少し考えて行動してください」
「「はーい」」
俺と葉島は審議の結果引き分けということで落ち着いた。
どちらが先に相手の肩に触れていたかわからないためである。正直俺の葉島の肩に手を伸ばすことに必死だったため、その辺の記憶はあいまいだ。
「結局勝たせてくれなかったか」
「また今度・・・ね」
俺と葉島は再戦を誓う。今回は予測不能な場面がいくつもあったため、今度はもっと多くのルールを決めて戦いたい。だが、いい経験になったので良しとしておく。
そう思いつつ、俺たちは木陰で仲良く休んでいた。
「さすがにそろそろ帰らないと危ないよー」
璃子はもう帰り支度を済ませており、後は俺たちが準備を整えればいつでも山を下りられる状態だった。山といってもこの場所はそこまで高い山ではなく、緩やかな傾斜が続いている森の集合体のようなものだ。だから移動にそこまで苦労することはないだろう。
「そうですね・・・レン、メイ、準備ができたら下山しますよ」
そう聞こえた俺たちは飲んでいたドリンクを片付け、いそいそとリュックの中に詰め込む。俺は『バースト』を使ってしまったため疲労を感じてしまっているが、そこまで支障はなかった。
なんとなくだが、死線をくぐったり死にかけたりするほど俺の体が頑丈になっている気がする。もうすでに五割ほどの力は回復しており、戦おうと思えば戦えないこともない。
俺たちはそろって山を下山した。下山といってもほとんど高低差はないので森を歩いているような感覚だ。きっとこれから何度も通ることになるだろう。
そんなことを考えながら、俺はふと自分の後ろを歩く先輩に目を向ける。
「・・・」
遊香先輩は俺と葉島が戦う前から今の今まで、ずっと黙っていた。そして静かに俺たちの戦いをじっと眺めていた。
きっと多くの異能力を見て混乱しているのだろう。俺と葉島の戦いを見て、先輩は目を見開いていたからだ。それとも戦うことに恐怖を感じてしまったのだろうか。
スナイパーはきっとまた俺たちのことを狙ってくる。遊香先輩もそれはわかっているはずだ。だが遊香先輩からは何の意思も感じられない。何を考えているのかわからないのだ。
そして全員がそれに気づいており、誰もそのことに触れていなかった。触れないようにしていたのだ。
きっと先輩もいろいろなことを考えているのだろう。
だが、そんな先輩に俺は不安を抱いてしまう。
遊香先輩はいったいどうしたいのだろう。
※
スナイパー視点
「申し訳ねぇっス」
さびれた廃屋。一見人が寄り付かないような場所だ。
そこでスナイパーは目の前の少年に謝っていた。
その少年はスナイパーより年下のはずだが、はたから見たらまるで上司に謝っている部下みたいだと思われてしまうだろう。
「ふん、まあ彼女が通りかかるのは私も予想外だった。とりあえずこの件は不問としておこう」
「かたじけねぇっス」
何とかコマンダーに許してもらうことができたスナイパーは少年の隣にあるいすに腰掛ける。
「で、どうするっスか?」
「どうする・・・とは?」
何せ不穏分子だった少女が明確に敵として自分たちの目の前に立ちはだかったのだ。ガイアとしては対処しないわけにはいかない。
「あの女の子、たぶんそこらの異能力者より強いっスよ。ほっといたらさすがに危険だと思うんスけど、彼女はどうしますか?」
スナイパーはあの少女のことを脅威と認識していた。
あの少年や少女のことなどどうでもいい。今優先するべきは、あの少女の処遇だと考えていた。
「もともとあの少女のことを、私はガイアへ勧誘していたんだよ」
「・・・へっ?」
ここで予想外な事実が発覚する。どうやらコマンダーはすでにあの少女と接点があったようだ。まさか自分の知らないところでそんな駆け引きがあったとは知らなかったので、スナイパーは変な声を上げてしまう。
「だがフラれてしまった。我々の目的に賛同してくれなくてね」
どうやら彼女はガイアの目的を知っているらしい。だったらなおのこと殺さなくてはいけないのではないか。スナイパーはそう考えるがコマンダーはそれをたしなめる。
「だが彼女の力は魅力的だ。それにまだ本格的に敵となったわけではない。あの異世界人と並行して勧誘活動を継続していこうと思っている」
どうやらコマンダーはまだあきらめていないらしい。きっとこれからも彼女とぶつかり合う気がするが、スナイパーはそれを口にしない。
「あの異世界人って、オセロって奴の事っスか?」
「ああ。彼とはビジネスパートナーのような関係に落ち着いたが、まだ我々のことを信用してくれてはいない様子でね」
「それは・・・ウィッチのせいじゃねぇっスか」
遡ること少し前、勧誘に失敗したウィッチとオセロが衝突してしまったのだ。それでもすごいのは、ウィッチがオセロを異能力を使った勝負で破ったことだろう。そして半ば脅しに近いような形でガイアと協力関係を結ぶことを確約させたのだ。
オセロは異能力者の中でもエリートに位置する強者だ。それを下したのだからウィッチは順調に腕を上げてるといえよう。
だがいつ寝首を搔かれてもおかしくない関係性。それならいっそのこといない方がいいのではないだろうか。
そう考えるがスナイパーは口にしない。実はコマンダーは割と世話焼きなところがあるのだ。
敵に宣戦布告をするのがその証拠だ。普通はしなくてもいいことをこの男はする。できることはすべてやるという精神のもと行動しているのだろう。抜かりがない。
そのせいで最終的な判断が鈍ってしまうと思いきや、案外そうでもないのでコマンダーは不思議な男だ。別にそれを悪いとは思っていないし、だからこそスナイパーはこの男のことを信じてついてきているのだ。
「戻ったぜ」
そうしていると、ウィッチがいつの間にか帰還しており白いフードをまくり上げた。スナイパーの目の前にドンと座ってだるそうに足を組みだらんと背もたれにもたれかかる。
行儀が悪いと叱るものは誰もいない。何せウィッチは彼・の成功作であり、ガイアの特攻隊長なのだ。これくらいで目くじらを立てていたらきりがないだろう。
「それで、いけそうか?」
「問題ねぇ、仕掛けはそのまま残っていたよ。ほんっと、お気楽な奴らでありがたいよ」
ウィッチとコマンダーは前々から何かを計画していたようで、ここでその準備が整ったらしい。
何をするかは大体聞き及んでいるが、普通に警察沙汰にならないか心配している。
「決行はいつにする?」
「・・・三日後だ」
当日はそれぞれがバラバラに動くことになっている。スナイパーはウィッチの護衛のような役割として駆り出されており、今からその準備を始めていた。
そしてコマンダーはほかに用事があるらしく、その日は完全な別行動だ。
「我が友と相談しなければな・・・少し待ってろ」
そう言い残し、コマンダーは電話を片手にどこかへ消えてしまう。きっとこれから始まるのは、どう落ち着くかわからない地獄の再現。
蓮たちの知らないところで静かにガイアの牙は迫っていた。
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