第17話 戦闘訓練
みんなに心配され、怒られたり泣かれたりと感銘を受けてばかりの時間だったが、いつまでもそれに浸っているわけにはいかない。
俺たちはこれからしなければいけないことがあるのだから。
俺はリブラたちに昨日何があったのかを話した。みんなはそれを真剣に聞いており、横槍を入れることはなかった。
だが当然驚かれることがあった。
「ええっ、遊香先輩が異能力を!?」
「「・・・」」
叫ぶように驚いた顔をするのは璃子だ。だが葉島やリブラも似たような顔をしているので、何とか驚きを隠しているのだろう。
「あははっ、なんていうか、そう、みたいだね?」
少し気まずいのか先輩はたじろぎながら答えていた。
最初は遊香先輩のことを言うか迷ったが、ここで言わない方が問題だろう。幸いにも遊香先輩に許可はもらっている。昨日あったことを説明するには遊香先輩の話を避けては通れないからだ。
それに遊香先輩もれっきとした異能力者なのでこれから狙われてしまうことになるのだから放置しておくわけにはいかなかった。
「ええっと、つまりあなたたち二人でそのスナイパーとやらを退けたのですか?」
そう、そこからが問題だ。俺はそのあとに現れた茶髪の少女のことについて話した。
そしてみんなでその少女のことについて考え始める。
ここにきて完全に謎に包まれた人物の登場だ。窮地を救ってくれたので一概に敵とは言えないが、何かを違えれば敵になってしまうこともありえるのだ。
「その女性は、一体何が目的なのでしょう?」
ガイアの目的は異能力者の身柄だ。目的がはっきりしている分、手の打ちようはあるかもしれない。
だが茶髪の少女の目的はさっぱりわからない。俺たちを助けてくれたのは気まぐれなのかもしれないし単なる偶然かもしれない。
できれば味方として協力関係を築けるのが一番だ。
彼女の異能力は傍目から見てても強力なものであるのに違いはなかった。スナイパーを退けることができるほどの人材。引き込むことができたら状況が一気に変わるだろう。
だが、俺たちもないもの頼りになるのはダメだ。俺たちは俺たちにできることをするのだ。
俺に、俺たちに足りないものは何だろうか。異能力の訓練ならほぼ毎日のようにしているのだ。なのにどうしてあれほどの差がついてしまうのだろう。
それはリブラも疑問に思っており、ずっと考え続けていたことだった。
俺がガイアやあの少女との違いを考えていた時、リブラがあることをつぶやく。
「提案なのですが、これからは戦闘を想定した異能力の訓練をしませんか?」
俺たちは今まで自分の異能力を引き出す訓練をしていた。葉島はそのおかげで自由自在に『結界バリア』を使えるようになっている。
だが、それを戦闘に使えるかというのは別問題。つまりここにきて、対異能力者を想定した戦闘訓練をしようとリブラは提案してきたのだ。
よく考えてみれば、今までそんなことはしていなかった。もしかしたらそこに、何かしらの活路があるかもしれない。
「いいんじゃないか。今までそういうことしたことはなかったし」
「できる限り実践に近い形でやりたいですね・・・どこかいい場所はないでしょうか」
俺とリブラはすでに頭の中で今後の方針についてのイメージを固めていた。
もし行動できるなら早めに行動するのが一番だ。これ以上、何もできないのはもうだめなんだ。
すでに俺の体はほぼ回復しきっている。そして遊香先輩も動くことくらいはできそうだ。
あとは場所さえあればすぐにでも始められる。
「あの、よかったらなんだけどさ」
そんな時、璃子がおずおずと手を挙げる。
「異能力が使えればいいんだよね、じゃあいい場所に心当たりがあるけど」
※
次の日の朝。この日は幸いにも休日で、俺たちは璃子の家近くのとある場所に来ていた。
鳴崎家はこの町一帯を占める地主だ。不動産会社も鳴崎家と連携しており、いろいろな物件の情報が鳴崎家には入ってくるのだ。
そんな璃子だからこそ提案できる場所。
「確かに、ここなら誰も入ってこれないな」
そこは山だった。鳴崎家の所有する土地であり、無関係の人間は入れない場所だ。
環境は以前異能力の練習をしていた森の中とかなり近く、派手なことをするには最適な場所だった。しかも近くに小屋付きだ。あそこで体を休めることも可能だろう。
「いいのか、勝手にこんな場所使わせてもらって」
「大丈夫だよ。お父さんにはもう許可を取ったし、この山無駄に広いせいでなかなか買い手が見つからないってお父さんも愚痴ってたのを聞いたから」
それなら大丈夫だろう。俺は適度にストレッチなどをしながら正面にいる葉島と向かい合う。
まず初めに俺と葉島が戦うことになった。
今まで一緒に異能力を高めあっていた分、互いの手の内もある程度承知している。
だがこうして向かい合うのは初めてであり、今まで感じたことがない種類の緊張が俺を駆け巡る。
「距離はこれくらいでいいかな?」
「いや、遠距離を想定してもう少し離れた位置から始めよう」
この前はスナイパーが遠くから攻撃をしていたため俺たちもその状況をある程度再現する。
ちなみに審判はリブラが務めており、いつでも俺たちのことを止められるように準備している。
怪我をしたときのために、璃子は救急箱を持って待機してくれている。そして俺たちのことを不安げに見ていた。遊香先輩もその隣で俺たちのことを静かに見守っている。
対する俺と葉島は不敵な笑みを浮かべお互いのことを見ていた。
緊張はするものの俺たちは今まで戦ったことはなかったし、競い合うことがなかったのだ。
俺と葉島、異能力を使ったらどちらが強いのだろうか・・・
そんな風に思ってしまうのは無粋だが仕方のないことだろう。何せ俺たちは強くならなければいけない。なら、超えるべき目標が近くにあった方がなおさらいい。
「それじゃ、俺は準備オッケーだ」
「私も、いつでもいけるよ!」
俺たちはリブラのことを見る。リブラは真剣な表情をしており、この戦いを危険なものにしないために躍起になっている。
だが、俺と葉島はそんなことを望んでいなかった。俺たちが殻を破るには多少の荒療治が必要だ。そしてこれは絶好の機会。このチャンスを逃す手はみすみすない。
「勝利条件は相手を戦闘継続が不可能な状況に追い込むか、体に触れることができたら勝利としましょう。そして無理だと思った場合はすぐに参ったといってくださいね」
おそらく降参制度を取り入れたのは、俺の体を考慮してのことだろう。確かに先日は死にかけてしまったが、すでに体は回復し動きたくてうずうずしているくらいだ。
リブラのルール説明を聞き終えると、俺と葉島は改めて向かい合う。こうして正面からにらみ合うことは今日が初めてだ。
「悪いけど本気で行くぞ、葉島」
「そっちこそ後悔しないようにね、水嶋君」
俺たちはいつでも異能力を発動できるように心を冷静にする。葉島は目をつぶっており想像力を膨らませているのだろう。
そして
「二人とも、行きますよ」
その言葉を聞いて、俺は前のめりになって足に力をため始める。対する葉島も、手を目の前に掲げ、いつでも対処できる態勢をとる。
あとは、合図を待つだけだ。
じりじりとした緊張感が漂う中、ついに火ぶたが切られる。
「では・・・はじめ!」
その合図を聞いた瞬間、俺は葉島の目の前で止まった。
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