第11話 格上

 ブシュッ・・・




 肉の抉れる音とともに少ない鮮血が俺の足元を濡らす。




「うっ・・・!?」


「ん? どったのレンレン」




 先輩は気づいていないのか不思議そうな顔をして俺のことを見てくる。


 俺はその言葉に反応する余裕もなく、よろめきそうになりながら必死に痛みをこらえていた。




(なんだっ、何が起こった!?)




 いきなり何かが俺の腿を貫いたのだ。今も血が流れており少しずつ足を伝って地面に流れている。


 ふと地面を見ると、小さな穴が開いていた。どうやら俺の腿を貫通して何かが地面にのめりこんだみたいだ。




「せ、先輩、なんでも・・・」




 俺が先輩だけでも逃がそうと声をかけた時




パァン!!




「ぐっ・・・」




 またあの音が聞こえたかと思うと次は右肩に痛みが走る。


 俺が自分の肩を見ると先ほどと同じく、何かが貫通して小さな穴が開いていた。




「レンレン!?」




 俺が肩を押さえているのを見てさすがに気づいたのだろう、先輩は俺の肩から滲み出す血を見て驚いていた。




「なに、どうしたの! どこで怪我したの!?」




 先輩はそういって俺に寄ってきてくれる。だが




「こ、こっちに来ないでください!」




 俺はそういって先輩を制止する。俺も何が起きているのかはわからないが、襲撃を受けているのは確かだった。




(クソ、もうガイアが攻撃を仕掛けてきたのか!?)




 先日宣戦布告されたとはいえ、まさか昨日の今日で襲い掛かってくるなど思ってもいなかった。




 この音は聞き覚えがある。コマンダーが手を挙げた瞬間に聞こえてきた音だ。


 おそらくあの時、コマンダーは違う仲間に合図を送って攻撃をしてもらっていたのだろう。そしてそれと同じことが現在起きている。




銃撃。どこからかスナイプされているのだということはかろうじてわかるが、回復に能力を回しているため居場所の特定ができない。そもそもどこから撃たれたのかがわからないのだ。


 何とか腿の穴を塞ぎ切って歩けるようになった時、俺は意識を集中させた。




(肩を治すのは後だ。まずは敵の居場所をつかまないと)




 どこに敵がいるかわからない状態でしどろもどろするのも悪手だろう。幸い敵の狙いは隣にいる遊香先輩ではなく俺だ。


 つまり自分の心配だけしていればいいのだ。だから俺は怪我を顧みず意識を敵に向ける。




(・・・・・・来る!)




 一瞬だが俺は殺意を感じ取ることができた。そして俺は重心を左にずらす。




パァン!!!




 先ほどよりも格段に大きくなった音を鳴り響かせながら俺の右耳の端をを何かがかすった。


もし左にずれていなければ今頃耳がなくなっていただろう。俺はそう気づくと心臓が鳴りやまなくなる。だが




(・・・そこか!)




 ここから2kmほど離れた電柱の上。そこに誰かが立っているのを見つけ、俺は路地裏に回り込む。




「先輩、先輩はこのまま帰ってください!」


「ちょ・・・レンレン!」




 俺は遊香先輩のもとから離れ入り組んだ路地裏を進む。敵の目を欺くといった目的もあるが、このまま逃げても根本的な解決にはならないだろう。




「あの遠距離攻撃ができる異能力者。あいつさえ倒せれば・・・!」




 もし今あいつを倒せれば、あの厄介な攻撃に今後おびえなくて済むだろう。コマンダーの能力は未知数だが、あいつをなんとかできれば少なくとも目先の脅威は排除できる。




同調コネクト・・・インストール』




 俺は異能力を発動させ肉体を強化する。そして大きく跳んで住宅の屋根に飛び乗る。


 そしてその瞬間、忍者のように屋根伝いに電柱のもとまで飛び移りながら迫っていく。




 そして数百メートルほどの距離に近づいたとき、敵も俺のことを見つけたようで驚いた顔でこちらを見ているのが見えた。




 その敵は不健康そうな青年だった。俺よりは年上だろうが、覇気というものが感じられない。それどころか、今にも倒れてしまいそうな体つきで俺のほうを見ると




「ありゃりゃ、もうばれちゃったんスか?」




 そう言いながら俺のほうへ腕を向けてくる。




「とりあえず君のことは殺すっスよ・・・『空撃ショット』」




 青年は手で拳銃のような形を作り俺のほうへ狙いを定め何かをつぶやいた。


 その言葉を聞いた瞬間俺はあわてて急旋回する。




「うおっ!?」




 何とかよけることができたものの、そのまま地面に衝突してしまいずるずると地面を滑り落ちた。だがそれもつかの間、俺はすぐに起き上がると目の前の青年に向けて鋭い視線を向けながら告げる。




「おまえもガイアの仲間だな」




 すると青年は何がおかしいのかふと笑みを浮かべながら返してくる。




「そうっスよ。ガイアの頭脳担当、スナイパーって呼ばれてるんで以後お見知りおきを」




 スナイパーと名乗った少年は俺に向かって拳銃のような形を作った手を向けて




「まあ、これでお別れかもしれないんスけどね」




 パァンと、見えない攻撃が俺の額をめがけて飛んできた。




「くっ・・・」




 今まで戦ってきたレインやアズールは近接戦でどうにかなってきたが、そういう戦いに持ち込ませてくれない。


 結果的に俺が一方的に踊らされ続ける羽目になる。




(このままじゃだめだ、何とかして奴に近づかないと!)




 やつとの距離はおよそ50mほど。『同調コネクト』を使い、身体能力の強化を行えばすぐにでも入り込める距離だが、それを使う暇がないほどの乱れ撃ちが俺に襲い掛かってくる。


 やつは消耗するそぶりもなくずっと異能力を使い続け攻撃を仕掛けてくる。


 そんな俺の内心を読んだのか




「消耗戦に持ち込もうとしても無駄っスよ」




 スナイパーは攻撃を続けながら俺に話しかけ始める。




「自分の能力はコスパがいいんスよ。試したことはないっスけど、たぶん一日中はこの状態を維持できるっス。いくら覚醒しているとはいえ、異能力使いには上ってもんがいるもんっスよ」


「・・・!」




 俺は絶句する。俺でも異能力を一日中も維持できない。できたとしてもぶっ倒れてしばらくは反動で動けなくなる。


 ここにきて俺は思う。




(なんでこんなに異能力の力を引き出せてるんだ?)




 ウィッチの時もそうだが、ガイアの面々は異能力を異常なまでに使いこなせていた。


 アビリティストーンがこちらの世界に流れ込んできたのは決して昔のことではない。つまり奴らが異能力を手に入れたのは俺と同時期か、その前後の時期のはず。つまり異能力者としては俺とそこまで変わらないはずなのだ。


それなのになぜここまでの差がついているのか理解できなかった。




「くっ・・・」




 だがそんなことを考えている暇もなく俺の体には生傷がどんどん増えていく。


 すでに服はボロボロで、いたるところから血が滲みだしてじんじんする。


 何とか攻撃を躱せてはいるものの、じわじわと限界が迫っていた。




「君が本気を出したらさすがに危ねえんでこういう作戦にしたんスけど、ここまで型にはまるとは思ってなかったっスね」




 すでに勝利を確信しているのか、スナイパーはつまらなさそうに俺のことを見下ろしている。




「それじゃ、ここらで幕引きっス」




 俺が足を動かすのがつらくなり始めてきたころ、スナイパーの動きが急に止まった。




 キィィィィィィィィィィーン




 奴の手から甲高い音が聞こえる。よく見ると何か得体のしれない力がそこに集まっているようだった。わかりやすい言葉に表すとするならチャージといったところだろう。俺はまるで死神の鎌がのどに突き付けられている感覚に陥っていた。




 だがそんな時、誰かが近づいてくる音がした。慌てているのか、バタバタとうるさい足音を響かせてこちらに向かって走ってくる。




「レンレン! いったい何が・・・」


「あ・・・」




 先ほどまで一緒にいた遊香先輩がここまでついてきてしまった。




 スナイパーもそれに気づいたが、無視して俺の攻撃しようとしている。


 もともと遊香先輩のことを標的としては見ていなかったようだが、この現場を見られてしまっては手遅れだ。おそらくスナイパーは遊香先輩を巻き添えにするつもりだろう。


 スナイパーの遊香先輩のことを見る目が、変わってしまったのを感じた。




「それじゃどうかこれで死んでくださいっス・・・『空撃ショット』」




 何か凝縮された力が俺のほうへ勢いよく飛んでくる。だが俺にそれをかわせる余裕などなく呆然と見ていることしかできなかった。そして遊香先輩もそれを感じ取ったのか、まるで驚いたようにそちらを見ている。




(せめて先輩だけでも・・・)




 そう思うがすでに手遅れだ。俺の体は動かないし遊香先輩も何が起きているのかわかっていない。




「ううっ・・・」




 異能力を発動しようとするも先ほどのダメージが蓄積していたのか思うように発動しない。発動自体にはまだまだ余裕があるが、俺の体そのものがダメージを受けすぎていたのだ。




 そして力の塊が俺に吸い寄せられるように・・・




停滞セーブ




 遊香先輩の一言で、その力は止まった。


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