幕間 学園生活

学校生活




 それは誰しもが一度は経験するものであり、人格や知識の形成に必要不可欠なものである。


 そして楽しい学校生活を送ることができるかは、当人の能力が何よりも問われるのだ。




 ちなみに現在、俺は非常に制限された学生生活を送っている。




 例えば体育の授業




「校庭を五周。終わった奴から休憩していいぞー」




 一周約200mほどの校庭。合計すると1500mほどにも及ぶ長距離走は誰しもが嫌がるものだ。こんなのを喜ぶのは運動部に所属する運動オタクだけだろう。


 俺もその例に漏れず、ただただ走るこの競技はどうしても好きになれない。


 だが、成績がかかっている以上手を抜くこともできないのが事実だ。




「よっしゃー! ゴールだぜ!」




 一位に躍り出たのは俺の友人である吾郎。やはり野球部のエースというだけあってその運動神経にはずば抜けたものがある。その記録は3分台後半。とんでもない好記録だ。というより、高校生の最高記録を抜いているんじゃ?




 そして続々と運動部を筆頭とする運動神経のいい生徒たちがゴールしていく。あとに残るのは文化部の生徒や体力のないものばかりで全員に疲れが見え始めてくる頃だ。




 そしてそんな中、俺は思いっきり手加減をして走っていた。




(すごい、全然疲れない)




 異能力が覚醒してからというもの、俺の体には少しずつ変化が訪れていた。


 まず、身体能力の圧倒的な向上だ。


 もはや異能力を使用しなくても並のスポーツ選手を超える力があるだろう。


 実際には怖くて試したことはないが、恐らく異能力を使わなくても本気を出せば吾郎の記録を破れるだろう。それどころか、世界記録も目指せるのではないだろうか。


 それどころかテクニックが必要な球技なども、頭の中で何となくこうしたらいいというビジョンが浮かぶ。多分ほとんどの部活動で俺はレギュラーになることができるはずだ。


 そしてそれは運動部だけにとどまらず、恐らく文化部でさえも・・・




 だが、さすがにそんなことをして目立つわけにはいかない。


 今はかなり落ち着いているが、俺は葉島の影響があって一時期有名人となっていた。


 それがようやく落ち着いたのだ。もうあんな風に色眼鏡で見られるのは勘弁願いたい。




 そんなことを考えながら、俺はクラスで真ん中くらいの位置を保ち続け難なくゴールする。




(少し筋トレの量を増やすかな)




 異能力の向上と同時に俺はノルマを決めて筋トレを始めていた。その成果が表れていた中、今回の違和感が発覚したのだ。


 少なくとも学校の体育程度では何の負荷にもならないため、俺はもう少し筋トレの量を増やそうと思った。




 そして時間が経つにつれ、俺たちはいろいろな競技をこなしていく。


 ちなみに今はスポーツテストをやっており、これをもとに体育の成績が決まる。




 ハンドボール投げや短距離走、上体起こしや反復横跳び。どれも体がむずむずしてしまうくらい手加減して、俺は目立たないように授業をこなす。




 このクラスに運動ができない者があまりいないので、クラス全体的にスポーツテストの結果がよかった。そして俺も違和感がないように真ん中くらいの成績を残す。


これなら進路に問題はないだろう。




 ちなみに一位は吾郎であり、すべての競技において満点を獲得していた。これには体育の先生も驚いており、皆から称えられてすごく照れ臭そうだった。




「いや、俺ももっと頑張るよ。そして来年には世界記録を更新してやるぜ!」




 そんな頼もしい事を言う吾郎を、クラスの皆や体育を担当する先生も温かい目で見ていた。なんやかんやで人気者な吾郎である。




 対して俺は六割ほどの成績に留めておいた。俺はもともと運動はそこそこできる方だ。璃子などは運動音痴で体育を苦手としていたが、俺は不思議と体を動かすのは好きだった。


 だからこそ大きく成績は伸びているわけではないので、何とかスポーツテストを誤魔化すことができたのだった。






   ※








 さらに学業




「それでは、先日の全国模試の結果を配るぞー」




 そう言った担任が出席番号順に模試の返却を始める。


 これは全校生徒が共通して受けるものであり、全国の高校生と学力を競い合い順位が付くのだ。


 この結果をもとにして自身が希望する進路が実現するかの目安を測る。


 結果が書かれた用紙を配り終えた先生は俺たち全員に言った。




「ちなみにまたこのクラスから学年一位が出た。そしてクラス全体の平均点も高い。校長先生や教頭先生もお褒めになっていたぞ。その調子で各々頑張るように」




 そう言われて放課後になる。やはりこの年頃の学生たちは周りの点数を知りたいものであるのだろう。そうして優越感に浸りたいものや危機感を募らせるものもいるのだ。




「やべー・・・このままじゃ落第だ」




 そう言いながら落ち込んでいるのは、先ほどスポーツテストで好成績を収めた吾郎だ。




「だから言ったじゃん。勉強は大丈夫なのって」




 そして吾郎に追い打ちをかける龍馬。


 俺も吾郎には大丈夫なのかと度々問いかけていたが、そのたびに吾郎は




『大丈夫だって、明日本気出すから』




 ということを問いかけるたびに言い続け、気が付けば進路実現が危うくなるくらいに追い込まれていた。


 部活が忙しいとはいえ自業自得なので特にフォローはしないでおく。


 まだ進学にしろ就職にしろ時間はあるため、どうなるかは本人次第だろう。




 そしてそれとは対照的にひと際喧騒に包まれている空間がある。




「やっぱすげーよ葉島さん。学年で一位だろうし、全国でも七位だぜ」


「才能が違うんだよ、才能が」


「そうよ、今度私にも勉強を教えてよー」


「あ、ずるい! 私が最初に言おうとしたのに」




 どうやら葉島はこの模試で好成績を収めたらしい。本人もまんざらではないらしく、以前のそっけない態度とは違い純粋に心から嬉しそうだった。




「それで蓮、君こそどうだったのさ?」




 吾郎に追い打ちをかけていた龍馬が俺にそう問いかけてくる。


 龍馬もそこそこ勉強ができるので、恐らく学年どころか全国でも上位に食い込んでいるだろう。




「うーん、まあまあかな。少なくとも吾郎ほど追い詰められてはいないさ」


「それもそうだよね、蓮って頭よさそうだし。それはそうと、本格的に吾郎をどうにかした方がいいなこりゃ」




 意外にも面倒見のいい龍馬は、吾郎ができていない問題をわかりやすく解説してどこができていないのか教え始めた。


 吾郎は苦しんだ表情をしているがそこは本人が悪いので仕方がないだろう。


 それはそうと、俺は自分の成績へのの追及を逃れることができてほっとする。。


 何せ龍馬たちに見せたら思いっきり騒がれてしまう。それどころか、再び注目を浴びることになってしまうだろう。


 俺は再び自分の点数を誰にも見られないように気を付けながらこっそりと見る。




 総合 900/900


 学年 1位


 全国 1位




 こんな化け物みたいな点数を見せてしまったら、何よりまず引かれてしまいそうだ。




 俺の学校では個人の成績の張り出しなどはしない。プライバシーを順守しているようで、いじめの防止にも役立っているそうだ。


 現に、俺もその制度に守られており今まで他人に成績を見せたことはない。


 これは仲間であり友達でもある葉島やリブラも同様で、俺は自分の成績を高校に入学してからひた隠しにしてきた。


 教えても別に支障はないが、最近、遠慮がなくなってきた葉島なのですこし妬まれてしまうかもしれない。別にそれくらいならいいがもう目立ってしまうのはこりごりだ。




 幼馴染である璃子なら何となく勘づいているかもしれないが、今まで何も言われていないので黙認されているのだろう。




 担任も俺が成績を知られるのを嫌がっていると知っての事か、成績で俺のことを名指しすることはない。おそらく卒業の時に成績優秀者として表彰されるだろうからその時にでもお礼を言おう。




 俺はもう高校の授業をほとんど終えているのだ。高校に入学してからというものテスト前に簡単に確認するぐらいで、家でもほとんど勉強せずに過ごしている。


そんな俺だからこそほかの生徒より圧倒的な余裕があり、プログラミングなどに時間を割くことができたのだ。




 そしてそれだけに留まらず、異能力を使えば今よりも学力向上を目指すことも可能だろう。


 だが、正直これ以上学びたいと思っていることも、興味がある学問もほとんどないので今まで使ったことはないしこれからも使うことはないと思う。




その日は龍馬とともに吾郎に勉強を教えながら、できなかった問題を皆で解いて過ごした。


 途中から龍馬も教える側から聞く側に回っていたので、俺もとことん付き合うことに決めた。




「やっぱ蓮って僕より頭いいよね。この問題を解こうとしてもずっとできなかったんだよ」


「俺は問題文すら理解できないんだが・・・」




 きっと勉強は人に教えることができるくらいで修めたと言えるのだろう。だからこそ俺も持っている知識をすべて動員して二人に勉強を教えた。


 最後は爆発した吾郎だったが、見事にやり切ってくれただけに頑張ったと言えるだろう。




「俺も少し勉強を進めようかな・・・」




 大学の勉強は中途半端にやめてしまっており、久しぶりに勉強欲が刺激されてしまった。


 今度また難しい数学でもやってみようかと俺は考え始めていた。






   ※








 そして俺は近くのスーパーで買い物をしてから家へ帰宅する。


この日は完全に別行動だった俺の相棒が先に帰宅していた。




「おかえりなさい、レン」


「ただいまリブラ。今ご飯作るよ」




 そうして俺が作った晩御飯をおいしそうに食べてくれる相棒を眺めながら俺の一日は過ぎていく。




 リブラと話す時間が何よりもかけがえのないものになりつつあり、俺も知らない知識を知れることがあるのでリブラと過ごすのは本当に楽しい。




 俺は朝のうちに掃除や洗濯を終わらせるので、家に帰ってから家事をすることはあまりない。残った時間を異能力の練習に使ったりするが、何となくこの日はサボってしまう。俺のちょっとした休暇のようなものだ。




 そして夜も更けるころ、俺は部屋の明かりを消してリブラにお休みと言いながらベッドの方へ歩く。今はベッドを交代で使っており、俺は一人でベッドに入る。


 リブラはパソコンを使って何やら調べ物をしているようだ。また深夜アニメでも見るのだろうか・・・




 最近はソファーを新たに買うことを決めており現在納入待ちだ。そして俺はそちらで寝るつもりである。そうすれば少しは体の負担が減るであろう。




 最近は特に騒ぎもなく、俺は居心地のいい学園生活を謳歌させてもらっていた。




 この平和がずっと続けばいいのになと思いながら俺はベッドで目を閉じるのだった。


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