第35話 証明
輪廻が巡る。運命が書き換わる。星が幾度となく流れていく。
ぐるぐる、ぐるぐる、巡るめく、変わりゆく、果てしない運命。
これがタイムリープだとしたら、なるほど、非常に気持ち悪い。
何回も嫌な自分を見る。何度も失敗した自分と直面する。その可能性が、俺には見えてしまう。
俺は、いったい何のために戦っていたのだろう。俺は、誰を助けるために戦っていたのだろう。俺は、何をしたいんだ?
だがなぜだろう、そのたびにやり直そうと強く思えるのだ。俺の背中を支えて押してくれる、頼もしい相棒が囁き、押し出してくれるように。
俺は彼女と、あの夜に誓った。二人で、力を合わせると。
きっとそれは、簡単なことではないのだろう。あの時覚悟していたとしても、踏み切りがつかない。それは俺が、いまだに心の壁を作っているからだ。
でも俺は大丈夫。俺は仲間を、そして敵さえも信じて見せる。だから、また踏み出していく。
さあ、もう一度やり直そう
とっておきのハッピーエンドに行くために
これは、君だけの物語なんだから
※
「お待たせしました、レン。少々手間取ってしまいました」
「でもご安心を、私たち二人が来たからには負けはあり得ません!」
「あ・・・れ?」
気が付けば俺は神社の境内に立っていた。ふと後ろを見ると、巨大なドラゴンを倒した二人の姿があった。すでに二人は満身創痍で、激闘を終えてきたのだということがわかる。
そしてゆっくり前を向くと、俺の背後で倒れる恐竜を見て驚いているオセロがいた。
(戻って・・・来たのか?)
状況がよくわからない。わかるのは、俺たちに敵意を向けている暴走前のオセロと、押されていた俺のもとに駆け付けてくれた二人がアースドラゴンを倒した後であること。
(ここから、どうすればいい?)
あの結末を回避するためには、どうするべきか。俺は二人が駆け付けてくる瞬間まで、必死に頭を回転させる。この頭は、伊達に全国一位を取っているわけではないのだ。
『君なら、できるはず。いや、君にしかできない。可哀そうな彼のことを理解して、助けてあげられるのは、この世に君一人しかいないんだよ』
あの言葉が俺の脳裏に蘇る。彼とは、いったい誰のことか。
そんなものは決まっている。目の前にいる、オセロだ。
(助けるって、いったいどうすればいいんだよ!?)
俺たちは命を賭けて争っていたはずだ。それなのに、どうしてあの少女はそんなことを俺に言ったのか。
答えがわからぬまま、刻一刻と無駄な時間が進んでいく。
(クソ、このままじゃ璃子が来てしまう!)
彼女がここに来るのは避けられない事実だ。気配探知を密かに行うが、まだ彼女は来ていない。
璃子が来るまで、時間にしてあと三分程度といったところだろうか。
その三分を、俺は・・・
「ちょ、リブラ、クロエさん、少し待ってくれ!」
「どうしたのですか?」
これから挑むべき相手を前にしていきなり制止をする俺をリブラは怪訝な顔で見つめてくる。
それはクロエさんはもちろん、敵であるオセロも同じだった。
「まあいい。何人だろうが、吾輩がなすべきことは変わらない」
オセロは止まろうとせず、俺たちを殺すために異能力を発動しようとする。もし同じであるなら、ここからオセロは影の人形を俺たちに向けて放ってくるはずだ。
確か俺たちが影の人形の相手をしている間、オセロが暴走するための準備を整えるのだ。
ここで俺は違和感に気づく。
(あれ、体が軽い?)
まるで、体がオセロと戦う前の状態まで戻っているように楽だ。てっきり満身創痍の状態だと思っていたのだが、すこぶる快調だ。
時間が、巻き戻ってる?
「っ! 『インストール!』」
「な、なにっ!?」
俺は間髪を入れずに『同調』を発動する。満身創痍だと思っていた俺がいきなり絶好調になったのだ。さすがにみんな違和感を感じるだろう。
だがそんなことには構わず、俺はオセロの前へ一人歩きだす。
「オセロ、悪いが今はお前と戦っている場合じゃないんだ」
「ふん、いまさら何を言っている。まさか怖気づいたか?」
おそらく俺が何を言ってもオセロは信じてくれないだろう。それどころか、余計に警戒させてしまう。
(争わずしてこの場を収める。そんな方法があるのだとしたら)
残り二分。
「言っておくが、暴走するのはやめておけよ。二度と取り返しがつかなくなる」
「!? 貴様、どうしてそれを・・・」
やはりオセロはどうにかして暴走状態にまでもっていくつもりだったようだ。
まずは、言葉による制止でこれを防ぐ。言葉に出すことは、心理的にも意外に効果があるものなのだ。
「なあオセロ、俺とお前の違いはなんだ?」
「貴様、いったい何を」
オセロが戸惑っている。思わず、攻撃の気配を収めてしまうほどに。
「俺の答えを言おうか。答えは、なにもない」
「おかしなことを言うものだ。吾輩と貴様は存在からして・・・」
「いいや、瓜二つだ。俺とお前は、よく似ている」
その証拠に・・・
「だってお前、リブラのことを一人の師として認めてるじゃんか」
「・・・くっ」
ここに来て、始めてオセロがたじろいだ。確かにオセロはリブラのことを憎んでいるようだった。理由は知らないが、それでもリブラへの尊敬の念が残っている。
だからこそ、常に全力で相手をしようとしているのだ。本来なら部外者である、俺にすらも。
「このまま相手を続けていても、お前に暴走されたら俺たちは負ける」
「・・・」
「お前が命を捨てたいならそれでもいい。どうしてもむきになって、リブラを殺したいほど憎んでいるならそれでもいい。そうじゃないなら、自分の手で大事なものを捨てるような真似をするな」
「お前に、何が・・・」
「だから、俺が証明する。リブラが間違ってなんかないってことを・・・お前が、誰よりも優しい奴だってことを!」
夢幻の回廊で見たあの景色。あれを見た今なら、できるかもしれない。
たった一度きりの・・・奇跡を起こす。
残り、一分はすでに切っている。だがそんなことは関係ない。もう二度と、ぶれたりしない。
覚悟なら、遠い昔に決めている。
『
そして世界は、暗幕に包まれる。
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