第15話 異能力者と魔法使い

「ま、魔法使い?」




 俺は予想の斜め上なことを聞いて首をかしげるが、遊香先輩の目はどこか嬉しそうだった。それどころか、ぐいぐい俺に詰め寄ってくる。




「だってそうでしょ? あんなに高く空を飛んだり、一瞬で傷を治しちゃったりさ。そんなの魔法じゃなきゃできないもん」




 どうやら俺と遊香先輩の間で些か語弊が生じているようだ。それもかなり深そうな語弊だったので、状況を確認するためにも情報の共有をした方がよさそうだと判断する。




「えっと、先輩。異能力って知ってますか?」


「いのうりょく? 何それ?」




 どうやら先輩は異能力のことをよく知らないらしい。それどころか、異世界人のことも知らなそうだったので、俺は少し戸惑う。




「先輩もさっき使っていたじゃないですか。何です、あの不思議な力?」




 俺は異世界のことは一度置いておいて、遊香先輩の異能力について尋ねることにした。


 近くで見ていたが、見えない力同士がぶつかっていたのでよくわかっていない。だからこそよく聞いておく必要があった。




「ああ、あれ。僕って、視界に入ったものを止めることができるみたいでね。さっきの人が良くわからない攻撃をしていたでしょ? だからあの攻撃を全部止めてみたのさ」




 そういって先輩は胸を張っている。だが、彼女の能力の真髄はそこではない気がする。


 ただ止めるだけでは、視界を外した瞬間、攻撃が再び飛んできてしまうはずだ。だがあの衝撃波の弾丸は、遊香先輩の視界に入った瞬間に拮抗して霧散した。


 つまり攻撃をかき消したのだ。




「先輩、他にできることはあるんですか?」




 彼女の異能力にはまだ底知れない可能性がありそうだ。そう思った俺は、もう少し彼女の異能力について踏み込んでみる。




「他といわれてもなー、ああそうだ!」




 何かを思い出したのか、遊香先輩はポンと手をたたき今思い出したとばかりに真顔で目を見開いていた。




「止めるといっても解釈が広いんだ。例えばずっと見ている食べ物の温度を維持できたり、一瞬だけど、川の流れを止めることができたりもしたや」




 便利な力だよねー、と先輩は笑っているが、そんなものではない。




 もしかしたら先輩の異能力はとても強力なものなのかもしれない。あの時遊香先輩が疲れていたのも異能力の反動が通常の異能力者よりも大きかったから。そう考えた方がしっくりくる。




「えっと先輩、今更ですけどこれは魔法じゃありません」




 俺は話を聞いた後、ようやく遊香先輩の誤解を解こうと説明を始める。




「魔法じゃない? そんなことないよ。だって、そうだって・・・」




 遊香先輩は何か思うところがあったのか、目を伏せて口をもごもごさせている。よく聞き取ることができないが、いろいろなことを考えていることだけはわかった。




「先輩、俺たちが使っていた力は、異能力って呼ばれているんです」






   ※






 すでに時刻は午後の三時ごろ。俺は食事をするのも忘れ、今までのことを話していた。


 異世界のことから始まり俺の異能力、さらには異世界人の存在まで。もはやチュートリアルの容量を超えた情報量をかみ砕くのに俺は苦労した。先輩も気になったところは質問してくれていたし、大まかだが情報を共有することができた。




「つまり、あの人たちはガイアっていう悪者ってことかな?」




 遊香先輩もようやく敵のことを知ることができたのだが、すぐにうつむいてしまう。それはまるで叱られた後の子供みたいに思えた。




「じゃあ、僕が今まで信じていたものは幻想だったのか・・・」




 遊香先輩はどこか様子がおかしかった。


 まるで今まで信じていたものが一気に覆されたような顔をしている。小さな声でぼそぼそと小言を言っているのが聞こえた。




「遊香先輩、あなたはガイアの標的になってしまいました。今回は何とかなりましたが、次はもうだめかもしれません」


「うん・・・それは僕もよく分かった」




 遊香先輩はさらに落ち込んでいく。だから俺も申し訳がなくなってくる。




「・・・すみません」




 気づいたら俺は誤っていた。遊香先輩もきょとんとした顔で俺のことを見上げてくる。




「えっと・・・どうしてレンレンが誤るのかな?」




 遊香先輩は俺の顔を覗き込む。先輩というのもあるのか、まるでお姉ちゃんみたいな感覚を覚えた。




「俺が中途半端に巻き込んじゃったせいで、関係のない遊香先輩の命そのものを危険にさらしてしまったんです」




 あの時の俺の判断が甘かった。そのせいで遊香先輩を巻き込んだのだ。謝罪を重ねても足りないし、許してくれるかもわからない。




「それはちがうよ」




 そう思っていたが、遊香先輩はにかっと笑う。




「巻き込まれたんじゃなくて僕が勝手に飛び込んだんだ。君は申し訳ないと思うにせよ、責任を感じることはないさ。僕だって、後輩にそういう風に思われるのは悲しいからね」




 先輩がそう言ってくれたのを聞いて俺は泣いてしまいそうになったが、歯を食いしばってそれを堪える。




 そのあとの俺はただただ、すみませんという言葉を繰り返していた。




 遊香先輩は何も言わず俺の話をずっと聞き続けてくれた。最後のほうは懺悔みたいになってしまったが、遊香先輩は何度も




「大丈夫だよ」




 遊香先輩は俺に何度もそういってくれた。




 そんなやり取りが終わると俺たちはこれからの方針について話し合うことにした。


 さすがに遊香先輩をこのままにしておくわけにはいかない。何せガイアに遊香先輩のことを紹介してしまったようなものなのだ。




「とりあえず遊香先輩も俺たちと一緒に行動することになっちゃいますね」


「それは別にいいよ。めーちゃんとりこりんもいるんでしょ。それなら安心安心」




 そういって先輩は呼吸を落ち着かせている。今から始まるのは命のやり取りそのものなのだ。しかもいつまで続くかわからない。覚悟がこの先の明暗を分けるといっても過言ではないのだ。




「とりあえず葉島、あとリブラと合流しなきゃなんですけど・・・どうしましょうか?」


「そうだねー、二人とも我が家にご招待しちゃおうかな」




 遊香先輩のご厚意でこの家を使わせてもらえるようだ。


 とりあえず位置情報と簡単な住所を葉島に送ったので、それでみんな来てくれるはずだ。




 ちなみに俺がメッセージを送った時、とんでもない速度で既読がつき俺の安否を確認してくれたのだ。やはりみんなのことを心配させてしまっていたようだ。


 どうやら現在、三人でこちらに向かってきているみたいだ。




「・・・あ」




 そして俺はここで重要なことを遊香先輩に聞いていなかったことに気づく。




「そういえば先輩、先輩はどこでアビリティストーンを手に入れたんですか?」




 異能力者となるための条件、それはアビリティストーンを手に入れ、体内に取り込むことだ。


 現に俺も、いまだにアビリティストーンの鼓動を感じている。異能力はアビリティストーンが貸してくれる、恩恵そのものなのだ。


 当然遊香先輩もどこかでアビリティストーンをどこかで手に入れているのだろう。




 だが先輩は首を傾げ




「あびりてぃすとーん・・・何それ?」




 不思議そうな顔でそう言った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る