第14話 交差する運命
???視点
別に期待していなかったといわれたら嘘になる。
あの少年には少し前から目をつけ、協力関係を申し込めないかと考え込んでいた。
だが今日の戦闘を見て確信したが、今の彼ではだめだ。
「さすがに、言いすぎてしまったかしら?」
茶髪の少女は少し悪い気分になってしまったが、こちらにも事情があるのだと割り切る。
少なくとも今の彼らがガイアとぶつかってしまったら簡単に捕まり殺されてしまうだろう。
それだけは何としてでも避けなければならなかった。
「けれど、あの女の人も異能力者だったとはね・・・」
さすがにそこまではわからなかった。だがこれで、敵の標的がどんどん増えていく。もはや私一人では対処しきれないことは明白だ。
私の異能力は他の人と比べて強力な部類だという自負がある。だがそれでもさすがに限度というものがある。
私は自分の力を過信してはいないし、今夜は見逃してもらえたとすら思っている。
幸い彼らは私と似たような志を持ってくれてはいるが、はっきり言ってこのままでは足手まといだ。だからこそなんとか自分たちの力だけであの戦いに白星を刻んでほしかったのだが
「あとは・・・彼らがどうするか次第ね」
そうして私は少し蒸し暑くなった夜の道を歩く。
どうやら夏が近づいてきているらしいと、きれいな星空を見上げて思うのだった。
※
期待外れ
勝手に値踏みされるのは癪に障るが、的を得て妙だと俺は思ってしまった。
俺は隣にいた人すら守れず、挙句の果てに誰とも知れない人に助けてもらった。
普通そんな奇跡は起こらない。事実、俺たちは彼女が来てくれなかったら、今頃意思のない肉片になっていただろう。
だからこそ彼女に言われたことが俺の胸を揺する。
期待外れ、失望
そんなのはもう十分だ。俺は異能力が覚醒したはずなのに碌に力を引き出すことができなかった。
否、力を引き出すこと自体はできるのだ。ただ今回の敵がそれをさせてくれなかっただけだ。
その結果、先輩を巻き込んでしまう羽目になったのだ。
つまり、俺がそこまで予測できていなかったことが悪い。だから俺は弱いのだ。そして自分で勝手に理不尽な目に合う。
俺は結局、誰も救えて
「んんっ・・・」
悲観なことを考えていると、隣から声が聞こえてきた。
あまり聞きなれない声、だが、俺はすぐその声の主を特定する。
「遊香、先輩?」
どうして遊香先輩の声が隣から聞こえるのだろう。そんな疑問を覚えた俺はようやく重い瞼を開く。
「なっ・・・!?」
俺は思わず声が出てしまいそうになるのを何とかこらえる。だって隣には、無防備にも寝顔をさらす遊香先輩がいたのだ。
どうやら俺と遊香先輩はボロボロの制服のまま、敷布団の上で眠っていたようだ。
違う布団であったことがせめてもの救いだが状況が読み込めないし呑み込めない。
俺は鉛のように重い体を何とか起こし、周りを確認する。
そこは生活感あふれる家だった。おそらく遊香先輩の家なのだろう。
確か先輩は一人暮らしだと言っていた。俺の周りに見えるのは生活の必要必需品ばかりで、きれいに整理整頓された清潔感あふれる部屋だ。
おそらくワンルーム、そこに一人で住んでいるのだろう。スマホを起動して時刻を確認すると、すでにお昼を回っていた。担任からの不在着信や葉島から怒涛のメッセージ通知、そして璃子の百件近い不在着信が届いているのを見て戦々恐々とする。
ひとまず俺は体が回復したことを確認すると、学校に連絡を入れようと立ち上がる。
お風呂場だろうか、その辺まで行って俺は学校に電話をかける。
幸いにも担任が応答してくれ、体調不良ということで話がスムーズに進んだ。少なくとも俺が一人暮らしだと知ってくれていることが幸いした。
ちなみにこれはのちに発覚したことだが、遊香先輩は事前に学校へ連絡を入れていたらしい。一人だけ抜け駆けするのはいかがなものだろうか。
そうして俺は先輩に話を聞こうと、気持ちよく寝ている先輩のところへ戻ろうとする。そして俺はふと、洗面台を見てみた。
「あ、歯ブラシ」
別に遊香先輩が使った歯ブラシに興味があるわけではない。俺が気になったのはその本数だ。一つのコップに二本。予備用だろうか。少なくとも遊香先輩以外にこの家に誰かが暮らしている痕跡は見つからない。
だが周りをよく見てみると、予備用とみられるものが多く存在した。
まるで誰かがもうすぐこの家で生活する感じだ。少なくとも一人で暮らすのにここまでのストックはいらないはずだ。
「ん?」
そして俺は机の上に飾られた写真を見つけた。
多くは他愛もない景色や、学校の集合写真。そして多くの人と笑いあいながら写っている先輩の姿があった。
そしてその一つ
「・・・家族写真?」
どうやら先輩は四人家族だったらしい。両親に遊香先輩、そして・・・
「ん~? レンレン起きたの?」
俺は後ろからかけられた声にびくっとするが、すぐに心を落ち着けその方向へと向き直る。
「お、おはようございます、遊香先輩」
「うんおはよー、レンレン」
俺はまだ寝ぼけている先輩のほうまで駆け寄ってすぐに詰め寄る。あの後何があったのかを俺は知らないからだ。
「先輩! いったい何があったんですか、っていうかここはどこですか!?」
「お、落ち着いてレンレン。とりあえず説明はするから」
どうやらあの後、スナイパーは本当に見逃してくれたらしく、襲われることはなかった。
遊香先輩は一度荷物などをコインロッカーに入れて俺のことを運んでくれたらしい。そしてそのあとコインロッカーから荷物を回収したようだ。だが
「あれ? 先輩って電車通学なんじゃ?」
俺は何度か先輩を駅まで送り届けたことがある。だからてっきり電車を使って遠くから来ているものだと思っていたのだが
「違うよ、あの日はたまたま隣町に用事があっただけ。まあ、駅の近くに住んでいるのは確かなんだけどね」
つまり、いつだか葉島と一緒に通学してきたのも、駅から学校へ行く彼女とたまたま一緒になったからだろう。駅から学校までの方角が一緒なのだから、途中で出会ってもおかしくはない。
「だからあのスーパーに毎日のように寄ってるんだよ。この辺はあたしの地元だからね」
そういって先輩はありもしない胸を張る。どうやらこの辺の立地が気に入っているのだろう。
俺がそう分析していると、遊香先輩は俺のスマホを見ていた。
「そういえばさっきスマホから音が鳴りやまなかったよ。大丈夫?」
「はい、とりあえず学校には連絡を入れたので大丈・・・」
だが俺は気づく。リブラに何も連絡を入れていなかった。襲われていたのだから仕方がないが、とても心配をかけているはずだ、
葉島からきた無数の通知がその証拠だ。おそらく朝のうちに葉島に事情を伝え、コンタクトを取ってもらおうとしたのだろう。
早く連絡して謝らなければ、そう思うがリブラは携帯の類を持っていない。
一体どうするべきか・・・
俺がそう思い悩んでいた時に先輩が声をかけてくる。
「そんなことよりさ」
「はい?」
先輩はどこかもじもじしており、不安げな表情を見せながら俺のことを見ていた。
「先輩、まだ何かありました?」
「ええっと、なんていうか初めてだったから」
その言葉を聞いた俺は少し戦慄する。
(初めて!? もしかして俺は先輩が寝ている間に何かを・・・)
俺だって年頃の男なのだ。こんなことを言われたらそう考えてしまうのも仕方がない。だが些か年齢が若すぎる気がすると思ったのは秘密だ。
「先輩、なにが・・・」
俺が意を決して事情を聴こうとしたとき、先輩が少し微笑みながら複雑そうな顔をして尋ねる。
「レンレンも、私と同じ魔法使いなの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます