第2話 認識の違い
俺とリブラは二人で一緒に駅の方まで来ていた。
あの後判明したのだが、俺もリブラも水着を持っていなかった。
思い返してみれば俺の学校では水泳は選択授業で希望したものだけが行うことになっている。着替えるのを面倒くさがった俺は水泳を選択していなかったのだ。確か面白味もない器械運動をやってマットに転がっていた気がする。
だから二人そろって暑い中駅まで歩く羽目になったのだ。リブラは大きな麦わら帽子をかぶっており、いかにも夏バテ予防した子供のように見えた。
「そういえば体の方はどうなんだ?」
「異能力を控えてるので、このままなら後数週間で元の姿に戻れそうです」
リブラはスナイパーとの戦い以降、ほとんど異能力を使っていない。
もともとリブラは俺を助けるにあたって異能力を酷使してしまったのだ。だからリブラは代償として体が縮んでしまった。
しかし、満を持して元の姿に戻れそうなのである。
「しかし、この世界はどうなっているのですか? 向こうの世界にも夏という概念はありますが、ここまで気温が上昇することはないですよ」
近年は地球温暖化の影響で年々気温が上昇しているとは聞くが、その影響をひしひしと実感する。
俺たちは二人して愚痴りながら歩いていると、ようやく駅にたどり着く。途中でバスに乗ったので、思ったより疲れは少なかったものの気温のギャップは激しい。
そして俺たちはショッピングセンター街のほうへと足を向ける。シーズン品ということもあって、いろいろなお店で水着を扱っていた。それも思っていたより安い。
俺たちはいろいろなお店を回りながら水着を見て回る。
「こ、これは少し攻めすぎじゃないですかね?」
リブラはビキニを見ながら赤面していた。とはいえリブラが見ているのは比較的平均的な布面積だと思う。もっと攻めたのを見たらリブラはどんな顔をするのだろうか。
そんなリブラを見てみたいという悪戯心と格闘しながらも、俺は俺で自分の水着を見繕う。
俺が選んだのは黒に緑のラインが入った普通の海パンだ。こういうのは下手なものを選ばない方がいいだろう。
リブラが選んだのはピンクの水着で、どこからどう見てもお子様向けの者だった。
だがリブラがとても気に入ったようなので余計なことは言わないようにしておく。
ついでに日用品を取りそろえようかと悩んでいた時、見知った顔を見かける。
「お、璃子」
「って・・・蓮!?」
どうやら璃子もショッピングセンターのほうへと来ていたようだ。目当ては俺たちと同じ水着だろう。だが心なしか少し慌てているように見える。
「どうしたんだそんなに慌てて」
「いや、あ、慌ててなんかないし!」
どこからどう見ても嘘まるわかりだった。しかし水着を見に来ていたのは事実らしく、その背後には数々の女性用水着が取り揃えられていた。
「もしかして、お前も水着を買いに?」
「・・・そうですよ、なんか悪い?」
璃子は俺のことを睨みつけながらそう言った。こういうのは一人でじっくりと悩みたいタイプなのだろう。それか俺に見られるのが恥ずかしいかのどっちかだ。
璃子は俺から視線を外してやや後ろに立つリブラに目を向ける。
「こんにちはリブラさん。蓮と買い物ですか?」
「ええ。こういうのを、でーと? と言うんでしたよね?」
「ふぁっ!?」
璃子が驚きながら持っていたスマホを落とした。というか俺も先ほど買った水着が入った袋を落としてしまいそうになった。
「ど、どーゆーこと、蓮!」
「い、いや、どういうことだよリブラ?」
璃子がとんでもない形相で俺のことを睨みつけてきたので、思わずリブラに助け舟を求める。
「違うのですか? 男女が一緒に買い物に行くのを確か巷でそう呼ぶのでは?」
「ああ、そういう・・・」
どうやらネットで中途半端な知識を身に着けてしまったらしい。メディアリテラシーとか、そういうのを異世界人のリブラに期待しても仕方がない。
「な、なんだ、そっかそっか」
俺の脇で璃子が俺以上に落ち着いていた。心なしか顔が真っ赤になってる気がする。
「とりあえず、リブラさんには正しいことを教えといてね!」
そういうと璃子はずかずかとどこかへ消えてしまった。きっとこのお店にはいい水着が売っていなかったのだろう。
俺たちのこれ以上騒ぐわけにはいかないので急いでその場を離れることにする。後ろからリブラが俺の後を慌てて追いながら先ほどのことを訪ねてくる。
「レン、先ほどは何か間違えてしまったのでしょうか?」
「間違えたっていうか、間柄が違うというか・・・」
どう説明するか迷ったが、ここは直接的に伝えた方が吉だろう。
「デートっていうのはな、親密な関係の男女、つまり恋人同士がするものであって・・・」
「恋人・・・」
俺がそう教えた瞬間、リブラが俯いた。だが耳が赤くなっていることから、自分が大胆なことを言ってしまったことに気が付いたのだろう。
あの言い方では、まるで俺たちが恋人同士になっちゃうからな。
「・・・リコに悪いことをしてしまいましたね」
「ん? どういうこと?」
いまだに顔は赤いままだが、突然リブラがそんなことをつぶやいた。
「・・・レンは女心というのを勉強した方がいいです」
リブラは唇を尖らせながらぷいと横を向く。
そしてそれを追及できないまま、俺たちはショッピングに明け暮れた。
※
すっかり時間を忘れて俺はリブラと歩き回った。
先ほどは否定したが、本当にデートみたいだと思ってしまった。それくらいに俺とリブラの間には信頼関係や親密さが日に日に増していっているのだろう。
俺たちは家に帰った後も適当なことを話しながらそれぞれにライフワークに明け暮れる。
ただここで面倒なのは、葉島社長から依頼されたプログラムの件だ。実をいうとまだ解決できていない。バグの原因解明に時間を費やしているからだ。このままのペースになると慣性は明日の朝方だろう。
「珍しいですね、あなたがそこまでパソコンに向かい合うなんて」
リブラは俺のことを不思議な目で見つめていた。
リブラが来てからというもの、仕事と疎遠になった俺はパソコンに触れる機会が激減した。それどころか肩こりがよくなったまである。
「少しデスクワークをね」
リブラにプログラミングとかアプリケーションとかの説明をしてもいまいちピンとこないだろう。だから俺は大雑把に返答する。
「それはそうと、あのことを璃子には伝えたのですか」
「・・・まだ」
先日の火災以降、俺とリブラの間には共通の見解ができた。そしてそれは璃子に大きく関わるものなのだが、俺はそれを伝えられずにいる。否、何と言っていいのかわからないのだ。
もし、ウィッチの正体が・・・
「とにかくこの件についてはあなたに一任しますよ」
「ああ、それはもちろんだ」
いずれ伝えなければいけないことなのだが、ついついそれを先延ばしにしてしまう。結局勇気が足りないのは俺だ。
「まあ、きっと何とかなるはずだ」
俺は璃子たちの友情を信じながら気分転換に星空を眺めるのだった。
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