第7話 手掛かりを求め

「ええ、あなたはそちらに集中してくれて結構です」




 家に帰りさっそくリブラに今日のことを伝えると、案の定と言っていいのか了承してくれた。




「それで、そっちには何か成果があったのか?」




 もちろんあのウィッチと名乗る氷使いの少女のことだ。恐らくあちらも俺と同じく消耗しているため、そう動きはないはずなのだが。




「さすがに昨日の今日で新たに動くほどその方も馬鹿ではないでしょう。この感じだと当分は姿を現さないとみていいでしょう」




 俺は体が万全になったら彼女と戦うためにトレーニングをするつもりだ。限界以上の努力をしなければあの少女には勝てないだろう。特訓にはリブラにも付き合ってもらうことを約束してもらっている。




「その失踪した少女のこと・・・気になりますね」


「リブラもそう思う?」




 俺が注目したのはその少女が失踪した時期だ。時間にしてアズール戦から数日後。


 もしかしたら焦った異世界人が何かしらの行動を起こしたのかもしれない。そしてその結果が今回の失踪事件を引き起こした。


 確証はないが、その少女が異世界から来た何かに関わってしまったとすれば、俺たちは急いで彼女を保護しなければならない。


 もしかしたら璃子の友達が敵になるかもしれないし、場合によっては異世界人たちに狙われてしまうかもしれない。


 それだけは何としても食い止めなければならなかった。




「とりあえず私の方でも何かわかったら報告します。引き続き私はウィッチと異世界人の残党の捜索に力を注ぎます」


「頼む。何かあったらすぐに教えてくれ」




 そう言ってリブラは深夜になるにもかかわらず窓の外から鳥の姿になり飛び立っていった。どうやら見回りの頻度を増やして対抗するらしい。




「夜食でも作っておこうかな」




 きっと休憩に戻ってくるだろうし、机の上においておけば気づくだろう。もしリブラが帰ってこなかったら明日の朝食になるだけだ。




 こうして俺は明日から行動を起こすべく、できることを考えながら床に就くのだった。






  ※






 昼休み、俺は昨日と同じく屋上へと向かう。今朝朝食を作っているとき、いきなり電話がかかってきたのだ。相手は璃子で今日の昼休みに屋上にこいとのことだった。


 どうやら璃子もいなくなった佐藤和奏の捜索に、改めて何かしらの行動を起こすらしい。相変わらず行動力だけは幼いころから変わらないようだ。


 俺が屋上に行くと、昨日と同じく既に璃子が先に着いていたようだ。昨日と違うのは不自然な笑みではなく、真剣な顔をして町を見下ろしていたことだろうか。




「来たぞ、璃子」


「!」




 俺は声をかけ璃子の隣へと向かう。きっと璃子は今日からでも行動を起こすはずだ。俺はそれを補助することを自分の中で決めていた。




「ごめん蓮、お昼に呼び出しちゃって」


「お前、たまに俺の都合を無視して呼び出すときがあるだろ」


「・・・まあ、細かいことは気にせずに。私のことを手伝ってほしいなーと」


「いいんだけど、お前はもっと人の話を聞こうな」




 そんなやりとりをしながら、俺は璃子を助けるべく璃子に付き合うことをきちんと意思表明した。俺がそう言うと目をやわらげ小さく「ありがとっ」と言った。




「それで、具体的に何するつもり」


「それが・・・まだなにも思いついてなくて」


「・・・」




 こいつに計画性がないことを俺はすっかり忘れていた。感情だけで行動するタイプで、昔はよく苦労させられた。というか今もさせられてる。




「いや、でも蓮ならその・・・どうする?」




 どうやら手段については俺に丸投げするようだ。というよりそうした方がいいとこいつが考えているのだろう。




「まずは当日の彼女の足取りをつかむことかな・・・あとは身の回りで変わったことがなかったか、改めて調査するとか」




「りょーかい。でも、それをしても前回は何もわからなかったんだよね」




 確かに前回と同じことをしても特に意味はないだろう。というより、璃子がもう通った道だ。


佐藤和奏について知ろうとすればするほど、泥沼に浸かっていくような感覚だ。




「いや、考え方が違うのか・・・」


「蓮?」




 俺たちは佐藤和奏に何かがあったと思っている。


 自分から消えたのだとすれば彼女の中で決定的に何かが変わったのだ。


 では彼女が失踪せざるを得ないほどの要因を作ったのは何か。そこに鍵があるはずだ。




「なあ、お前たちの周辺で、変わったことは何かなかったのか?」


「え・・・私たち?」




 彼女が変わったのではないとすれば、彼女の周りが変わったのかもしれない。そしてその結果彼女も変わってしまった。いや、そうしなければならなかった。




「と言っても特に何も・・・あっ、でも」


「でも?」


「1か月くらい前かな? 軽音楽部にオファーが来たんだよね」




 話を聞くと軽音楽部に依頼が来たらしい。軽音楽部は路上ライブもやっていたようだ。そしてある日、一人の男が来たらしい。よく見ると外国の人だったそうだ。なんでも、自分たちに演奏を披露してくれないかとその場で声をかけられたそうだ。しかし怪しげな男だったため部長である佐倉は断ったらしい。


 すると男は潔く帰っていったそうだ。




「まあ、ただの不審者かもしれないんだけど」


「その男ってどんな男だった?」


「見るからに怪しい感じだったね、何というかチャラいと言いうか」


「チャラい?」




 陽キャ大学生とかそんな感じだろうか。それとも不良集団にでも目をつけられたか。




「まず髪の色がおかしかったよね、赤だよ赤。ネットとかで見ることはあるけど、この町では初めて見たかもね」


「赤ね、染めてるのかな」


「私も髪染めてるからわかるけど、あれは地毛だと思う。染めてる感じはしなかった」




 外国人の可能性があるが、そんな人がわざわざこの町に? もしかしたら外国の大手音楽会社のスカウトマンなのだろうか。




「あと、変な服を着てたかな。見たことがない感じの」


「ちょっと待った」


「どしたの?」




 赤髪で見慣れない服を着ていた。そして、その男が璃子たちに関わった。




(まさか・・・な)




 ありえないと思うが一応このことはリブラに相談するとしよう。もしかしたら重要な手掛かりになるかもしれない。




「それで、その男の人はほかに何か言っていたか?」


「ううん? 特に何も。ただ・・・」


「ただ?」




 思い出すように璃子が言う。




「私のことをじっと見ていたような気がして」


「璃子のことを?」


「何というかあれって、こう・・・」




 形容するものが見つからないのか、うんうんと頭をひねっていると思い出したかのようにゆっくりと告げる。




「新しいおもちゃを見つけたみたいな顔だった」




 俺はその言葉の意味を理解することはできなかった。だが、のちに俺はこう思う。


 もしかしたら俺がこの失踪事件に関わるのは、必然だったのかもしれない・・・と。

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