第5話 異能力

 夢を見ている。もしそうならどれだけ楽だろう。ここにきて俺は、自分の理解能力の拙さがにじみ出ているのを感じながら、改めて目の前の相手に目を合わせる。




「質問ばっかで悪いんだが、えっと・・・異能力? なんだそれ」


「その説明をするには私の、いえ私たちのことについて話さなければなりませんね」




 そう言って少女は俺の目の前に座り込む。




「そういえば自己紹介がまだでしたね。私の名前はリブラ。こことは違う、別の世界からやってきました」




 突っ込みたいことはあったが、相手が名乗ったのだ。こちらも名乗らなければ失礼だろう。




「俺は水嶋蓮。見ての通り高校生だ。それでリブラちゃん、異世界っていうのは」


「できればちゃん付けはやめてほしいですね。恐らくですが私とあなたはそう歳は変わらないと思うので」




 呼び捨てで結構ですよ。そう言って彼女は続ける。




「異世界というのは文字通り、あなたが住むこの世界とは違う次元に存在する全く別の世界です。そして私の世界では、異能力という力が存在しています」


「異能力って、具体的にはどんなものだ?」




 そう言って俺は一番気になった点について深く追及する。




「私たちの世界では、一定の年齢になると、アビリティストーンという宝石のような石が与えられることになっています。そしてその石を手に取り、石に選ばれたのなら特別な力を得ることができるのです。いわゆる伝統ですね」


「特別な力?」


「そうですね。私の力を例に紹介しましょう」




 そういうとリブラはおもむろに立ち上がり、何やらあたりを見渡す。


これがいいかな。と言って再び俺の方を見て何かを手に取ってくる。




「それって俺のカバン、だよな?」


「はいそうです。先ほど一緒に回収しておきました。それでは・・・」




 と言い深く息を吸って




変身メタモルフォーゼ




 そう言い放った瞬間まぶしい光に目を焼かれ、その場でよろめいてしまう。光が収まり、視力が回復するとそこには




「え・・・カバンが二つ?」




 まったく同じ、傷や汚れまでまるっきり同じな俺のカバンが複製されていた。




『これが私の能力ですよ』


「えっ・・・」




 驚くべきことにカバンから声が聞こえてくる。まさか・・




「リブラ・・・なんだよな?」


『そうです』




 と言いながら再び光を放つ。目を開けると、先ほどまでの少女の姿をかたどった、異世界人リブラがいた。




「これが私の能力、いわゆる変身です。」




 もはや驚きを隠せない。俺はあっけにとられており、そのリアクションを見てリブラも満足そうな顔をしているのは、気のせいではないだろう。




「私はあらゆるものに化けることができます。生物と物を問わずです。けれど一応、制限や条件があります。自分より大きなものに変身することはできませんし、見たことないものにも変身できません」




 さらに話を続け




「それに今の姿も本来の姿ではありません。本当はもう少し背が高く、成長しているのですが、あなたを助けてここまで運んできた際に想像以上に力を消耗してしまって・・・」


「俺を運んで?」




 どういうことだと話を聞いてみる。




「私の能力は私だけでなく他人にも使えるのです。私にはあなたを運べるほどの筋力や体力もありません。ですのであなたを小さくして運んだのです」




 今は戻しましたが、と言って心配させないようにしてくれる。




「私の能力は他人に使うのには向いていないのです。消耗が大きいうえに、私より体の大きい人はそもそもの条件に外れます。私より体の大きいものには変身できないという条件にです。私はそれを破り、さらには消耗が大きい他人への変身を2回も行いました。ダメ押しに、あなたの衣服の修繕とあの場にあった物の回収も」




 その結果がこれです。と言い自分の体を見下ろしている。ショックなんだろう。元気がなくなっているのがわかる。しかしそれよりも俺はこの少女、否、リブラに伝えなければならないことがあった。




「ごめん。そしてありがとう。そんなことになってまで俺を助けてくれて。君がいなかったらたぶん俺は本当に死んでいたと思う。だから本当にありがとうございました」




 そう言って俺は頭を下げる。


 頭を下げる俺に一瞬ぽかんとした表情を浮かべたが、すぐに表情を引き締めこちらに向かいなおしてくれる。




「私はただ、目の前に救えるかもしれない命があったから行動したにすぎません。それに何より、根本的な原因を解決したのはあなた自身の力なのですよ? つまり、あなたは自分で勝手に助かったようなもの。私は余計なことをしたし、もっと早くにあの現場につけていればこんなことにはならなかったんです。だから、あなたが気に病む必要はありません。」




 まるで女神のようだ。そんなことを思ってしまった。しかし本題はこれからだった。




「ところでさっきから言っているけど、俺にもその・・・異能力が使えるようになったんだろ? 俺の能力ってどんなものかわかるか」




 俺にも特別な力がある。そう聞いて心が躍らない男子などおるまい。それがたとえ殺されかけた後だとしても。




「残念ですが私にもわかりません。異能力は手に入れた当人にしか使い方もわからないのです。しかし見たところ治癒能力・・・のようなものなのでしょうか。しかしそうなるとあなたが目覚めたとき、吐血と一緒に目覚めるのはおかしい・・・」




 真面目に考えてくれているが、正直異能力が再び使えるかどうかもわからないのでいったんそのことを置いておく。なんだか体がどっと重いのだ。もしかしたらこれが、異能力を使った代償なのだろうか。




「考え込んでくれているところ悪いんだけどさ、そろそろ俺帰りたいんだけど」




 そういうとリブラは慌てて待ったをかける。




「まだお話しておかねばならないことがあります。どうかそれを聞いていただければ。というよりお願いという形になってしまいますが」




 そう言ってリブラは深呼吸をし、俺の目をまっすぐ見据えて口を開く。


 そして




「どうか私とともに、私たちの、異世界の文明の回収、そのお手伝いをあなたにお願いできないでしょうか?」




 リブラは助けを求めるようにこちらを見上げそう言った。

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