第4話 アビリティストーン
体がどんどん落ちてゆく。そんな感覚に俺は襲われていた。これが死というものなのだろうか。少なくとも今までに経験したことがない浮遊感と闇に囚われていた。
いったい何があったのだろうか。
(ちらっと見えたが、外国人みたいだったような?)
俺は間違いなく何者かに襲われ、何もできずに殺された。逃げるべき場面でまともに立ち向うことすらできず、心臓を貫かれた。
しかし、あんなことがあったというのに不思議と心は落ち着いている。だからこそ先ほど起きた異常事態に困惑していた。
気づけば先ほどまでの痛みもなく、それどころか体の感覚がほとんどなくなっている。まるで熱を失ったロボットのように俺は心が冷めていた。
(こうして意味もなく、人は死んでいくのかな・・・)
友人たちは警告していた。最近、町が物騒だと。仕事に熱中しすぎではないかと。無視していたわけではないがもっと真剣に受け取るべきだった。
俺は素直に後悔していた。
もっと早く家に帰るようにしておけば?
あんな危険なところに行かず、さっさと通報してその場を離れていれば?
後悔の念は尽きないがすでに意味のないことだと考えるのを放棄する。何もできず、仕方なく俺は意識を周りに向ける。
変わらず俺を包むのは行き場のない闇だけだった。
しかしその時だった。
(光・・・?)
何かが俺の目の前で強い光を放っていた。俺が気付かなかっただけなのだろうか。しかもよく見るとそれは、
(これは、さっき割れた・・・)
割れてなくなってしまった、ダイヤモンドのような光る石であった。光と粒子をあたりに散らしながらこちらへ近づいてくる。
それが俺の中に入ってくるように体の中へ吸い込まれたと思った次の瞬間、
「ぐあっ・・・・」
急に身体に熱が入る。身体が、胸が熱い。焼かれているようでとても耐えられない。まるで現実に戻るかのようにどんどん体が重くなっていく。肉体が、つぶれてしまった心臓が構成され、鼓動を始める。次第に闇が崩壊して脳が意識の覚醒を促す。
そして・・・
※
「・・・がはっ」
俺は仰向けのまま口から血を吐いていた。起き上がって周囲を見渡すと知らない森の中にいた。
「ここは・・・」
よくわからないが、俺は助かったらしい。改めて今の自分を見てみると
「傷がない・・・服も!?」
先ほどの惨劇の痕跡は何一つ見つからない。強いて言えば目を覚ました時に吐き出した血は、口元と地面についているが、他には何も見つからない。俺自身は元通りだ。
俺の中には様々な疑問が降ってめぐる。
いったい何があったのか。
ここはどこなのか。
俺は死んでしまったのではないか。
あれは夢だったのだろうか。
先ほどの出来事が現実だったとしたら、なぜ服や体に跡が残っていないのか。
そんなことを考えていた時だった。どこからか足音が近づいてくる。
「気が付きましたか」
そう声をかけられ、声の主の方に目を向ける。
青い髪の女の子だった。背丈は小学生くらいだろうか。少なくともその顔立ちには幼さが残っている。そして印象的なのはその服装だった。今どきのファッションだろうか。見たことがない紋章に十字架が刻まれた、白いワンピースのようなものを着ていた。
見覚えがある。俺が倒れた時に大丈夫ですかと声をかけてくれた女の子だ。
しかし違和感が脳裏をよぎる。何かが違う。この子はあの時の女の子ではない。なぜだかそう思ってしまった。
「驚きました。ほとんど自力で傷を治してしまうとは。」
目の前にいる少女は素直に驚いていた。もしかして
「もしかして、君が俺を助けてくれたの?」
そう声をかけ相手の反応を見ることに努める。少女は複雑な顔をして答える。
「その認識にはいささか語弊があります。あの場から離れるためにあなたをここまで運び、衣服や血の跡を元通りにしたのは私ですが、傷を治したのはあなた自身の力です。私は何もしていません。あなたが自分で勝手に体を治したんです」
正直何を言っているのかわからなかった。しかし一番重要なところに俺は追及する。
「俺が治したって、どういうこと?」
まるで俺が吸血鬼の真祖のような表現だ。胸元を触っても穴どころか違和感も何もない。
「言ったとおりです。あなたが治したんですよ。あなた自身の異能力で」
「異能力?」
「はい。あなた、これくらいの石を拾ったり、もしくは体のどこかにあったりとか、そんなことはありませんでしたか」
ちなみにきれいな石ですよ、とそんなことをいわれ俺はすぐに思い当たる。
「あのダイヤモンドみたいな石のこと?」
「だいやもんど?というのはわかりませんがおそらくそれですね。」
どういうことだろうか。この少女の言っていることがよくわからない。そんな中、少女がさらに話し続ける。
「どうやらあなたはアビリティストーンと適合したようですね。おめでとうございます、と言っていいのかはわかりませんが」
「アビリティストーン?」
「はい。あなたは異能力者となったようですね」
わからないことだらけの中、困惑している俺に少女は告げる。
「ようこそ、私たちの領域へ・・・とでも言えばよいのでしょうか?」
複雑な顔をして少女は笑う。
こうして運命の歯車は静かに動き始める。
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