第3話 非日常への入口
「終わったぁぁぁ」
すっかり日が暮れてしまったが何とか納期までに間に合わせることができた。データを転送し俺は帰り支度を始める。幸いにも明日は休日だ。今日はめいっぱい寝て明日は思いっきり寝坊することを心に誓った。するとそのとき、
「・・・ん?」
ガサゴソと廊下から物音がする。どうやらまだ残っている生徒がいるようだ。生徒会か部活動の生徒だろうか。どちらにせよ熱心なことだ。ドアを開け見てみると、白いフードを深くかぶった女の子が、廊下の角を曲がるのが見えた。。一瞬不審者かと思ったが、間違いなくうちの制服なのでそこは安心する。おそらく後者、部活動で残っていた子だろう。フードも夜は冷え込むし特に違和感はない。
「帰ろ」
そうして俺は学校を出るのだった。
※
通学路を自転車で走り、夜の街を駆ける。今夜は月が出ているので、時折それに魅入りながら慣れ親しんで道を走っていく。
異変に気付いたのは、ちょうど学校と家の中間地点を超えたあたりのことだ。
(・・・なんか焦げ臭い?)
魚でも焦がしたのだろうか。そう考えたのは一瞬ですぐにその方向へ目を向け足を運ぶ。そこは異常なほど明るく、そしてとんでもない熱気と煙を放っていた。
「火事!?」
場所は公園に備え付けられている、小さな小屋だった。
通常ならこの時点で消防や警察へ通報するだろうが、もう一つの出来事がそれを遮ってしまった。
「痛った!!」
何かが頭の上に落ちてきたのだ。キラリと光るものが頭に当たりそして足元へと転がっていく。用目を凝らしてそれを見てみると
「ダイヤモンド?」
それにしては大きすぎる。何せ野球ボールと同じくらいあるのだ。もし本物だとしたら一体いくらくらいの価値が・・・
はっ、と我に返り、火事のことを思い出す。とりあえず宝石を回収しようとそれをつかんだ時だった。
ピキッ
「・・・は?」
宝石が割れたのだ。綺麗な粒子となって砂のようにどこかへ消えていく。
「いったい何が」
そう呟いた時だった。
「そこに誰かいやがるのか!?」
小屋の中から、そう怒鳴り散らす声が聞こえた。明らかに助けを求める声ではない。足音がどすどすと近づいてくるのを感じながら思考をめぐらせる。ここに来た時から、考えなかったわけじゃないが、これはもしや
(まさか・・・放火魔?)
逃げなければ、そう思ったその瞬間、こちらに向かって何かが飛んできた。否、正確には俺の胸に向かって
「ゴフッ・・・」
黒い何かが飛んでくる。そう認識したときにはもう手遅れだった。
「な・・・にが」
黒い何かに胸を貫かれていた。あたりに鮮血が飛び散り、俺は思わず仰向けに倒れこんでしまう。
「・・・ガキが・・・」
「・・・石・・・どこに・・・」
そう聴こえどんどん意識が遠のいていく。石・・・おそらくそれはさっき割れてしまったあれのことではないのか。そう考えるもすぐに思考を放棄してしまい、
俺の意識は・・・・・
深い闇の中へと落ちて・・・・・・
「大丈夫ですか!?」
凛とした声が聴こえ、眼球だけを動かし一瞬そちらに目を向ける。
黒煙の中・・・綺麗な月と・・・長い・・・青い髪が・・・見えた・・・気が・・・した・・・
そうして俺は目を閉じた。
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