第2話 目立つ幼馴染

 昼食を食べ終わり、俺は1階の自販機へと向かう。目当ては1缶100円の缶コーヒーだ。


さすがにこのまま午後を迎えると耐えられる気がしない。とにかく、どうにかして眠気を吹き飛ばそうとしたゆえの行動だ。




(うわー、凄い人だかり)




 数十人程度が自販機の前に列をなしていた。何とかして列の最後尾に並びしばらく無駄な時間を過ごす。


 何とか目当てのコーヒーをゲットし改めて周りを見渡すと、人の多さに酔いかける。こういう時に人と積極的にかかわっていない弊害が出るのだ。




(さっさと教室に帰ろう)




 そう思った時だった。




「あらら、蓮じゃん、なんか久しぶりかも」




 振り返った時に目に入ったのは金髪のだった。ミディアムヘアと言ったか。葉島の清楚な黒髪とは対照的に輝くそれは、明らかに周囲の目を惹いていた。




「璃子じゃん」




 鳴崎璃子なるさきりこ




 俺の幼馴染であり、学校でも屈指の人気を誇っている。この学園の軽音楽部に所属しており、ギターを担当している。放課後になるとその音色がたまに聴こえてくるのだ。彼女はおろか女友達が皆無な俺でも、唯一気さくに話せるのが彼女だった。


 そのカリスマ性から、隣である2年B組でも見た目とは裏腹に頼れるクラスの中心的な存在となっており、教師の信頼を獲得するに至っているのだからすごい。




「相変わらず死んだような顔してんねー、ご飯食べてる?」


「食べてるよ、自分で弁当を持参するくらいにはな」


(今日はサボったけど・・・)


「そーかいそーかい、それはいいことだ」




 時折あっては体調を気にしてくれているが、ここしばらく顔を合わせていなかったため、余計に気にされているようだ。




「おかーさん言ってたよ、たまにはうちにご飯食べに来なって」


「行きたいけど遠いんだよ」


「男の子だろ。スタミナなんて有り余ってんだからさ」




 こいつの家は俺の帰宅する方角と逆方向にあるのだ。シンプルに面倒くさい。


 璃子の両親と俺の両親は仲が良く、昔から家族ぐるみの付き合いだった。しかし、俺が一人暮らしを始めたのをきっかけにめっきり関わる機会がなくなってしまった。


 別に親が亡くなったとか、そんな悲惨な物語を抱えているわけではないが、それでも特殊な家庭には違いないので、俺は一人暮らしを始め数か月、こいつと顔を合わせていなかったのだ。




「あっそ、あんまりおじさんとおばさんに心配かけちゃだめだぞ」


「わかってるよ」




 そうぶっきらぼうに言いながら璃子は教室に帰っていった。あんなに目立つ奴と話していたのだ。周りから注目を浴びてしまっている。今もひそひそと声をたてられているのだ。1年生の時からこういうことはあったが、今のところ被害はない。


 本人は校内でも人気を博していることを自覚していないのがここにきて憎らしい。


 余計なことにならないうちに、俺も教室へ急ぐのだった。





  ※







「あれ、どうしたの学校にパソコンなんか持ってきて?」


 放課後、龍馬が俺の机の上を見てそう尋ねてきた。




「まだ昨日の分が終わっていないんだよ、しかも期限が今日までだから結構やばい」


「そっか、大変だね」




 頑張って、と言い龍馬は一足先に帰っていった。




「大丈夫か、なんか手伝おうか?」


「うん。じゃあまずお前は部活に行こっか」


「あ、そうだったいっけね」




 じゃあまた明日な!と言い吾郎も去ってゆく。


 龍馬は俺と同じ帰宅部だが、吾郎は違う。現役で野球部に所属している。あいつの活躍で今年は甲子園を狙えそうなんだとか。




(それにしても)




 今日はやけに教室に人が残っている。何やらスマホを見て騒いでいる。耳を傾けてみると




「近くで火事があったんだって」


「結構すごいらしいぞ」




 と聞こえてきたので俺もスマホを片手に調べてみる。すると本当に火事があったようだ。しかも割と近所で、死傷者もいるらしい。そんなこともあってか教室は朝以上に喧騒に包まれることとなった。




(図書室行こ)




 さすがにうるさくなってきたので、俺は図書室で残りの作業をすることにする。こうして俺はすっかり日が暮れるまで作業にのめりこむのだった。




 そして、俺が無自覚にも自分の身を危険にさらしていると気づくまで、そう時間はかからなかった。

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