第6話 覚悟
自分より身長が低い女の子に見上げられ、一瞬ドキッとしたがすぐに気持ちを切り替え彼女が言ったことに切り返す。
「文明の回収って、いったい何が起こっているんだ?」
何やら俺の知らないところできな臭いことが起きていることはわかった。しかし、いまいち要領を得ない。どうやらもう少し話を聞かなければいけないらしい。家に帰るのはそれからでも遅くはないだろう。
もう、何もできずに、バッドエンドというのはさすがに遠慮いただきたい。
「私の記憶では、3日ほど前でしょうか。私が住む世界とあなたの住むこの世界。二つの世界が一時的につながってしまったのです。原因は私の世界の研究者の方々が現在調査中ですが、どうやら芳しい成果はないようです」
「世界が繋がったのはわかった。そしてリブラの世界にあったいろいろなものがこの世界に流れ込んできたと」
はい、とそう頷いて話を進める。
「こちらの世界にも前兆、というのでしょうか。きっと何か変化があったはずです。3日ほど前に何か気になる出来事はありませんでしたか?」
そう聞いて俺は考え込む。俺の記憶では特にそんなことはなかったはず・・・いや、あったな。
「関係あるかはわからないが、ここ一帯の地域で、かなり大きな地震があったらしい」
俺は寝ていたので知らないが。そう言ったら少し呆れた表情をされた気がしたが、おそらく間違いなくそれでしょうと俺の考えを肯定する。
「その地震を皮切りにこの世界でも何か明確な変化が起きたはずです。なにかありますか? 先ほどの出来事以外で」
確かに先ほどの出来事も衝撃的だったが、俺はここ数日のことを思い出し、そして、思い当たる。
「そういえば、さっきみたいな火事が街中で昼頃起きたらしい。他にも・・・ちょっと待ってくれ、少し調べてみる」
そう言って俺はスマホを取り出す。リブラは興味深そうに俺の手元を見ていた。異世界人というのが本当ならば、スマホやインターネットの知識は皆無だろう。
それはそうと、SNSとは便利なものだ。少し調べただけでこの町でおきた出来事についてよく知れる。そして俺は確信する。
「やっぱりだ・・・ここ数日でこの町におかしなことがいくつも起きてる。なんで今まで気づかなかったんだ?」
「おかしなことというのは?」
「さっきみたいな火事数件、泥棒や空き巣が数十件。しかも・・・数人が不審な死を遂げている」
どうやら見つかった遺体がおかしなものだったらしい。
胸に風穴があいていた。
内臓が凍っていた。
自分で首をかきむしった跡があった。
警察は公にしてはいないが、事が事だけに噂になってしまうのはしょうがないと思う。何せ俺だって恐怖を感じるのだ。明らかに異質で、普通ではない。
そして俺の隣にいる異世界人がその不可思議な現象の数々に自らの答えを出す。
「十中八九、それらは異能力によるものでしょう。それもかなり攻撃的で、能力を人殺しに使うことにためらいのない。そんな外道の仕業です」
彼女に目を向けると、俺は背筋が凍る。怒り。彼女は原始的な感情に支配されていた。許せないのだろう。自分と同じ力を持ったものが、人を救うのではなく。命を弄ぶためにその力をふるったことが。
「つまりそれは異世界人の犯行ってことか?」
そう言ってリブラの答えを待つ。それなら、何とかして異世界人を見つけなければならない。そして彼らに元の世界に帰っていただければ、この世界は正しい姿を取り戻すだろう。
しかし彼女はとても苦しそうな顔をして何やら考え込んでいた。そして重そうにその口を開く。
「私も最初はそう思っていました。何せこちらの世界に来てしまった異世界人は、犯罪行為に手を染めるなど、血気盛んな人物たちです。彼らのいた場所には偶々、次元の穴が開いていたのです。そして彼らはその穴の中に消えていきました。私は王国からの依頼を受け、まだふさがっていなかった穴に飛び込み、こちらの世界へ渡ってきました。」
明らかに何者か意思が関与している。どうやらリブラはそう睨んでいるらしい。
「だから彼らを捕らえる。もしくは殺すことで事態は収束すると思っていました。あなたが現れるまでは」
「え・・・俺?」
どういうことだろう。俺という存在がリブラにとってどのような影響を及ぼすというのだろう。俺は一度死に、そして異能力の力によって再び息を吹き返し・・・あ!!
「アビリティストーン・・・か?」
「はいそうです。まさかアビリティストーンまでこちらの世界に流れ込んでしまっているとは」
リブラは疲れ切ったよう目を伏せて頭を抱えていた。
「つまり、異能力に目覚めてしまった人がいるということか!?」
「まだわかりませんが、その可能性は限りなく高いでしょう」
確かにそれは緊急事態だ。こんな身に余る力、持っていたらロクなことにはならない。特に、犯罪者とか、命を何とも思わないやつの手に渡ってしまったら・・・
俺はそう懸念するがリブラはもう遅いでしょうと、俺の懸念していることがもう起きてしまっていると言う。
「そもそもおかしいと思ったのです。こちらの世界に来た異世界人は確かに外道たちですが、腐っても犯罪のプロ。自ら足を残すようなことはしません。彼らは私が追ってきたとすでに知っているでしょうし、自ら居場所を明かすようなことはしないでしょう。しかし、アビリティストーンの存在で状況が一気に変わりました」
「つまり、異能力を手に入れた奴が、いたずらに能力の試し打ちみたいなことをしているっていうのか!?」
「おそらくは。私が追っている犯罪者の中にはそもそも、炎の能力を使うものはいませんでした。こちらの世界で起きている火事というのはおそらく・・・」
この世界の人間がしているというのか。俺はその答えに戦慄する。この町は今とても危険な状況にあるということを再認識して俺はリブラに質問する。
「リブラなら・・・今この町に起きている異変をくい止めることができるのか?」
正直もうすべてが後手に回っているこの状況頼れるのは、異世界人という自らと違う世界で育ったリブラしかいない。
「正直、現状を振り返って不安になりました。犯罪者たちだけならまだしも、この世界に数多くする人たちの中に異能力を手にした人がいたらおそらく私だけでは手に負えません。そもそも私がこんななりでは、まともに戦えないでしょうしね」
そう聞いて俺は足がよろける。しかしリブラは俺の目を見て先ほどと同じことを俺に告げる。
「だからこそ危険を承知でお願いしたいんです。私一人ではおそらく返り討ちにあって終わりです。しかし、異能力を手に入れたあなたがいれば少しは戦況が変わるかもしれない。こんな状況じゃ応援も頼りにできません。私たちの手で、何とかするしかないのです」
そう言って俺の瞳を見据え、返答を待つ。
俺にいったい何ができるのだろうか。自分自身すらも守ることができなかった俺にいったい何が守れるのだろうか。しかし目の前にいる彼女はどうだろうか。自分が弱体化してしまうのにもかかわらず、俺を助けようとしてくれた。そして今、強い心と正義感を持った彼女が俺に助けを求めている。俺も彼女みたいに、リブラみたいに強く、もう一度生きれるのだろうか・・・・・いや違う!
もう二度とあんな思いをしたくないし、誰かにさせたくない。なにより、これから起きるかもしれない悲劇を、黙って見過ごしたくない。俺はリブラみたいに強くは生きれないかもしれないし、もしかしたらこの出来事に首を突っ込んで、今度こそ命を落としてしまうかもしれない。
でも俺は、命を救ってくれた彼女のようにありたい。誰かを助け、彼女のように無意識に人を救えるような存在に。
気づけば、俺の中で覚悟は決まっていた。その瞬間、俺はすぐに答える。
「こんな俺で役に立つのなら、是非とも協力したい。いや、協力させてほしい」
断られると思っていたのだろうか。一瞬驚いた顔をしてこちらを見るが、すぐに笑顔を作り俺に向かって手を伸ばす。そして俺もそれに応え手を伸ばし、握手を交わす。
「これからよろしくな、リブラ」
「こちらこそですよ・・・レン」
異能力に目覚めた少年と異世界からやってきた少女。運命よって出会った二人は、熾烈な戦いの中に飛び込んでゆくのだった。
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