第11話 深まる謎

「それで、レンレンは僕に何を聞きたいの?」


「レンレンって・・・」




 そう言われ俺はたじろいでしまったのだが、この先輩相手にそんなことで反応していたらきりがないので俺はそれを受け入れる。そして、改めて先輩に向き直る。




「とある生徒のことが知りたいんです。先輩はそう言うことに詳しいって聞いたので」


「ふむふむなるほど・・・割と真剣な感じだね」




 先輩もこちらの空気を読んだのか真剣な顔をしてくれて俺は安心する。




「佐藤和奏って二年生を知ってますか?」


「知らなーい」




(やばい即答されちゃった!?)




もともとダメ元であったためこれが普通だ。しかたがないのだろう。




「私だって全校生徒を把握してるわけじゃないしね、でも・・・もしかしてその子って軽音楽部?」


「はい、そうですけど?」




 すると先輩は「なるほど・・・」と言いながら何かを考えこんでいる。




「りこりんがいる時点でそうかなって思ったんだけど、軽音楽部ねー・・・」


「私たちに何か?」




 そう言って璃子も不思議そうな顔をして首をかしげる。軽音楽部そのものに何か言いたいことでもあるのだろうか。先輩は目を細め考え込む姿勢を見せながら璃子に追及する。




「聞きたいんだけど、軽音楽部の活動って何時ごろに終わるの?」


「えっと・・・日によるんですけどだいたい五時頃には終わりますよ」


「ふーん、じゃああれは誰なんだろ?」


「あれ?」




 そう言って先輩は不思議そうに顔を悩ませ顎に手を当てる。まるでミステリー小説に出てくる探偵みたいだなと俺は思ってしまった。




「いやね、結構前のことなんだけど、私が遅くまで残ってた時、軽音楽部の部室から誰かが出てきたの。あれは六時どころか七時は回ってたよ」


「いや、そんなはずは・・・」




 璃子によると毎日交代で施錠をしているらしく、部外者が立ち入れる場所ではないらしい。そこから誰かが出てきたということは、明らかにおかしな話であった。




「白いフードをかぶってたから誰かはわからないけど、女の子だったのは確かだよ。うちのスカート履いてたし」


「白いフード・・・ね」




 そう言われ俺は先日のウィッチのことを思い浮かべてしまう。彼女も白いフードをかぶっていた。さすがに同一人物ではないだろうが、最近あった鮮明な出来事のため思い出してしまう。




「待てよ・・・そういえばどこかで・・・」




 俺は記憶をたどる。そう、まだプログラミングの仕事をしていた時のことだ。あの日は遅くまで残っていたため、帰りの夜道の中で初めて異世界人に遭遇し殺されかけた。しかしその直前に俺は見ていた。




学校に遅くまで残っていた、白いフードの女子生徒を。




(あの時点から?)




璃子も何かを考えこんでいる様子だったが、おずおずと口を開き始める。




「その白いフードの女の子なんですけど、心当たりがあります」




 どうやら璃子の友達に白いフードをかぶっている少女がいるらしい。ならば部外者ということはないだろう。


しかしその人物の名に俺は驚く。だってその人物は・・・




「佐藤和奏。同じ軽音楽部で私の友達です」




 失踪した佐藤和奏本人だったのだから。






  ※






「今日はありがとうございました。遊香先輩」




 お会計を済ませた俺たちは喫茶店を出て先輩にお礼を言う。


 ちなみにこちらの都合で先輩を付き合わせてしまったため、会計は俺のおごりということになった。何故か璃子の分まで奢らされることになったのは不服だったが、俺は大人なので文句は言わないことにした。




「こっちこそありがと、楽しい時間だったよ。じゃあまたねレンレン、りこりん」




 そう言って先輩が立ち去ろうとしていると何やらこちらに振り返り慌てた顔で俺のところまで駆け寄ってきた。




「そうだそうだあっぶなー、忘れてたよ」


「は、はい!?」




 いきなり駈け寄られ顔を近づけられたため俺はさすがに困惑してしまう。隣の璃子の視線が痛いが俺は何もしていないので勘弁してほしい。




「携帯の連絡先、交換しよ?」


「連絡先ですか? 別にいいですけど・・・」


「やったね!、ありがとー」




 俺が出したスマホをぶんどって、手慣れた手つきで捜査し始める。先輩がとても楽しそうだったので、俺は何も言えなかった。




「はいこれでオッケー」


「あっ、はい」




 瞬きをするような時間であったが、スマホを見るとしっかり遊香先輩の連絡先が登録されていた。果たして俺から連絡を取る機会があるのだろうか。




「それじゃ―二人とも、寄り道せずに帰るんだよー」




 今度こそ、本当に先輩と別れた俺は、璃子を送るために来た道と別の方向へと歩き始める。




不思議な先輩に目を付けられることになったが、それを差し引いても有意義な話を聞けたかもしれない。




 どうやら佐藤和奏は遅くまで学校の部室に残り何かをしていたらしい。しかも明らかに部活の規則を違反している。何せカギを勝手に持ち出した挙句それを記録に残さずに返していたことが今になって発覚したのだ。




「和奏・・・いったいなにを」




 佐藤和奏の考えていることがとうとうわからなくなってしまった。最初に聞いていた人物像と少しずつ食い違いが出てきている。


 それは友達であった璃子も同じらしく、ひどく考え込んでいた。




(白いフードの女・・・ね)




 どうやら俺は白いフードの女と縁があるらしい。




 俺は璃子を送った後、今晩の買い物をしつつリブラにこのことを相談するため急いで家まで帰った。




 最短で買い物を済ませ、家のドアを開けたとき




「お、お邪魔してます」




 帰宅するなり聞こえたのはそんな声だった。驚いてそちらを見ると二人の少女がテーブル越しに向かい合っていた。




「葉島、俺の家に来ていたのか?」


「うん。リブラに会いに来たのもあるけど、水嶋君が何かつかめたのか聞きたくて」




 そういいながら俺の分のお茶を出してくれる。




(俺の部屋が・・・)




 どうやらこの短時間で、俺の家の勝手を理解してしまったらしい。




「申し訳ありませんレン、何も言わずにメイを招いてしまって」


「ごめんなさい水嶋君」




 そう言って二人は俺に謝る。若干顔がにやけているのは先程まで楽しく会話をしていたのだろう。仲がいいことに感心しながら俺は二人に笑いながら言う。




「別にいいよ、葉島もリブラの近くにいた方が安全だろうし」




 恐らく今日は異能力を使って空を飛んで帰るのだろう。葉島は結界で空を飛ぶ方法を編み出してから、夜など人目のない時間に使うことが多くなったらしい。やはり空を飛ぶのは楽しいのだろう。




 それはそうと、遊香先輩とコンタクトを取ってもらった手前、葉島にも今日の話し合いの内容を知る権利はあるだろう。そんなことを考えながら俺は今日の成果を二人に報告する。




「いや、失踪のことはまだまだ真実にはたどり着けそうにない。けど気になる情報はいくつかつかめたかな」




 先ほどまで璃子と一緒になって悩んでいたが、何も俺と璃子だけで考える必要はないのだ。




(仲間がいるからな)




 こういう時にそのありがたみを実感する。




「葉島、せっかくだから何か食べていくか?」


「えっと・・・いいの?」




 俺がそう提案すると葉島は困ったような表情を見せた。さすがに友達の家でご飯を食べるようなことは、ほぼ初めてなのだろう。




「そうですよ、せっかくだから一緒に食べませんか、メイ?」




 リブラも賛成しながら、葉島のことを執拗に誘い始めた。こんな些細なことでも仲の良さが実感できてしまうあたり、本当に仲がいいのだと思ってしまう。




「それじゃあ・・・お言葉に甘えてもいいかな?」


「ああ、もちろんだ」




 俺は冷蔵庫にあるものと先ほど買ってきたものを整理しながら、いつも以上に腕をかけて料理を作ろうと気合が湧いてくる。




俺は今日得た情報を二人に相談しながら三人分の晩御飯を作るのだった。


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