第22話 覚醒

 俺がどれだけ自分の限界を突破しても、レインに有効的な攻撃を与えることができずにいた。


 レインは俺が強化するたびに、自らも同等以上の引き上げを行うのだ。


 千日手。否、それどころではなく




「あぐっ・・・」




 完全に俺が押し負けてしまう。俺は奴の足蹴りをもろにくらってしまった。


 蹴り上げられたみぞおちがマグマのように熱くなり、俺は悶絶してしまう。




「正直期待してたんだけど・・・やっぱりぽっと出の異能力者なんてこんなものだよねー」




 俺がえずいていることもお構いなしにレインは追撃をしようとこちらへゆっくりと接近する。瞬きするほどの短い時間だが、俺は死神が近づいてくるように感じた。




「ああそうだ! 聞き忘れてたんだけどさ、もしかしてアズールくんを倒したのって君なの?」




 レインは思い出したかのように仲間のことを俺に尋ねてきた。


連絡が取れなくなったことから、何者かに倒されたと結論付けたのだろう。


しかし尋ねておきながら、奴は自分で首をかしげていた。




「うーん、でも君程度の異能力者にアズールくんがやられるとは思えないんだよね。よほど周到に作戦を練ったか、もしくは・・・」




 俺は自分の体を治そうと必死で既にレインのことを見れていなかったが、ニタリとレインが笑ったのを俺は肌で感じ取った。




「もしかして、仲間とかいるのかな~? もしそうだとしたらその人たちとも仲良くしなくちゃだよね! 新しいお友達が増えるんだから」


「・・・っ!」




 この男ならすぐにリブラたちのことを突き止めるだろう。


 今まで積極的に姿をひそめていたようだが、こいつのような男がその気になればどんな手段を使うのか想像もできない。


 だが、また新しい悲劇が生まれてしまうことは想像に難くなかった。




(俺が止めなきゃいけないのに!)




 俺には力が足りない。守る力が・・・




 俺の手が届く璃子はおろか、リブラと葉島にまで危険を及ぼしてしまう。




 俺はいったい何度、自分が無能であることに後悔しなければいけないのだろうか。。




「とりあえず、君のお友達のことはおいておくとして・・・」




 レインは異能力をかけなおし、拳を握りしめて俺の方に近づいてくる。


 俺はレインの体から発せられる圧倒的な殺意に思わず押しつぶされそうになる。




「アズールくんは一応お友達みたいなものだったし、多少の仇討ちぐらいは・・・許されてしかるべきだよね!」




 俺が死なない程度にその拳を振りかぶるつもりらしい。


 仇討ちとは言っているものの、完全に自分が楽しんでいた。どうやら奴にとってこの出来事は遊びの延長戦でしかないらしい。


 だが俺からしてみれば、それは十分に俺を殺し得るものだった。それだけの力をあの拳に込めているのだ。恐らく俺は二度と立ち上がることができないだろう。




「うぐっ・・・」




 全身からこみ上げる痛みを我慢して俺は立ち上がろうとする。しかし・・・




 バタッ




「あれ・・・?」




 全身から力が抜けてしまった。それどころかだんだん意識が遠く・・・




「あらら? もしかして異能力を使いすぎちゃったの? なんだよ、これから面白そうだって時に」




 レインの言う通り、俺は完全に異能力を使いすぎてしまった。


 そもそも俺はここまで異能力を酷使したことはない。ウィッチとの戦いから日数は空いておらず、あの時のダメージも完治してはいなかった。


 つまるところ、ここにきて限界を迎えたのだ。


俺は反動で体を動かすことができなくなってしまった。




「うっ・・・クソぉ」




 俺は腕に力を込めようとするが体がゆうことを聞いてくれない。それどころか、『同調コネクト』も完全に切れてしまい、生身の体を無防備にさらけ出してしまっていた。




「はぁ、なんだか拍子抜けしちゃったなぁ・・・もう飽きちゃったし君はもういいや」




 そう言ってさらに拳へ込める力を強める。


 どうやら俺から興味を失ったらしく、もう用済みだと判断したらしい。




「璃子ちゃんも君のことを殺せば多少はおとなしくなるでしょ。というわけで・・・バイバイ♪」




 そして無慈悲にも、俺に拳が振り落とされる。


 俺はそれを見上げることしかできなかった。




(ははっ、超スローモーションに見えるや)




 実際にゆっくりだったのか知らないが、俺はその拳が振り下ろされるまでに永遠に近い時間を感じてしまった、


 もしかしたらまだ異能力の残滓が残っているのかもしれない。


 しかし、もはやそれは無意味だった。




 ごめんみんな・・・・俺はもうここまでだ。








  ゴツッ




 俺が諦めかけていたその時、鈍い音があたりに鳴り響いた。


 そして次の瞬間には、コロコロと俺の眼前に何かが転がってくる。




「・・・石?」




 この神社には砂利を含めそこかしこに大小問わず石が転がっている。


 それがこちらにめがけて勢いよく飛んできたのだ。




 俺が上を見ると、顔をうつ向かせ何が起きたかわからないかのように困惑しているレインの顔があった。


 どうやら、右の頬に先程の石が激突したらしい。指先で頬をなぞっていた。


 俺とレインは同時に石の跳んできた方向を見る。




 するとそこには今にも泣きそうなのをこらえながら、怒っているかのように大量の石をその腕に抱え込んでいた。




「いつまでも調子に乗らないで! そのひとはあたしの・・・」




 そして再び石を右手に持ち再び石を全力で振りかぶるように投げた。


 そのコントロールは正確にもレインの顔面を捉え、まっすぐに飛んで行った。




 しかしレインは腕を振り払うように動かし、その石を粉砕した。




「嘘!?」




 目の前で起きたことが信じられないのだろう。璃子は後ずさりしながら信じられないものを見る目でレインのことを見ていた。


 レインは先程とは違い不気味な笑みを浮かべ璃子の方に震えながら近づいていく。




「ハハ、油断していたとはいえ僕の顔をねぇ・・・これは調教が必要かな?」




 顔は笑顔だったが目が笑っておらず、激昂しているのが嫌でも伝わってきた。おそらく、顔に攻撃されたのが相当頭にきているのだろう。




「これでも僕ってまだ優しい方だと思うんだよね。アズールくんならブチギレながら殺しかかるだろうし、オセロさんも問答無用で殺そうとするだろうし。だから僕なりに心を開いてみたんだけど・・・お前らはそれを踏みにじるんだね」




 周りが凍り付いたかのようにとてつもない寒気が俺を襲う。それは璃子も同じらしく、尻もちをついてレインのことを見ていた。




「もういいや。璃子ちゃんもそんなに死にたいならお望み通り殺してあげる。その男の前で服をひん剥いて、一本ずつ四肢をもぎながら猛獣のえさにでもしてやるよ」




 レインは狙いを璃子に変更し少しずつ璃子に歩み寄っていく。


 璃子は完全におびえており、もう動くことはできないようだった。




「璃子・・・うっ!?」




 俺は無理を通して足を動かそうとした。


 その瞬間、先ほどまでは何も感じなかった圧倒的な痛みが全身から脳に直接響き渡る。




(動け、動けよ!)




 しかしその意思とは反対に体が動くのを拒んでいた。


 もうとっくに限界を迎えているその体は、細胞一つ一つが動きたくないと叫びをあげるように痛みの信号を脳に直接たたきつける。




「きゃあっ!」




 璃子の悲鳴が聞こえてきて、その方向を向くとレインに首を抑えつけられ神社の壁に抑えつけられている璃子の姿が見えた。




「なんだか頭に来てるんだよね。このまま殺してもいいけどそれじゃあつまらないし、だから安心してね。ゆっくりじわじわと、殺してあげるから」


「あぁっ」




 璃子は必死に抵抗しているがそれは無意味と言って差し支えのないものだった。


 そして少しずつ璃子の命の灯が消え始め・・・




 プツン




 その光景を見たとき、俺の中で何かが弾けた。


 体の深層に眠るアビリティストーンが輝くように光るのが見えた気がした。




「うっ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




 次の瞬間、咆哮と共に立ち上がった俺はレインの隣に一瞬で移動する。


 俺が踏み込んだ石の地面はひび割れるように亀裂が入っていた。




「へっ?」




 レインは急に現れた俺の姿に反応しきれなかったらしい。


 笑いながら驚いた顔をしており、その顔が今となっては憎くらしくて仕方がなかった。




「くらえぇぇぇぇ!」




 そして、レインの顔面に思いっきり右ストレートをめり込ませた。




 初めてレインに俺の攻撃が通じた瞬間だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る