第4話 宣戦布告

「それじゃあ二人とも、今日は楽しかったよん。また遊ぼうねー」




 そう言いながら遊香先輩は駅のホームへと消えていく。どうやら先輩も電車で通学しているようだ。そして先輩のことを見送った後、同じく葉島も




「それじゃあ私も電車がちょうど来るから。練習の件はまた今度よろしくね」




 葉島は改札口を通り人込みの奥へと消えていった。




 最近の葉島は異能力を使って、魔法のじゅうたんのようなものを創り出しそれに乗って帰宅することが増えた。夜に使うため人目は少なく、かなりスピードを出しているらしいので今のところ誰かにバレている様子はない。


 葉島は、能力を完全に生活の一部へと活用しているのだ。




(やっぱりいいよなー、空を飛べるのって)




 リブラは変身能力で鳥となり、空を自由に飛び回ることができる。


 葉島も能力の使い方でその用途は無限大だ。


 一方の俺は、異能力が覚醒したもののこれといって派手なことはできない。あの二人のように空を飛ぶことはできないし、生活の役に立つことはほとんどない。


 体育の時は思いっきり手加減しなければいけなくなったし、些細な物音につい反応してしまうことが増えたため、意外と不自由が多くなったのだ。




(俺も空を飛んでみたいなー)




 そんなことを考えながらずっと手で引いていた自転車に体を預けるようにぐっと乗る。人混みが少なくなったのを確認し、力の限りペダルを踏んだ。


 もちろん異能力を使っていないため馬鹿げたスピードは出ないが、それでもそこそこのスピードを出し、俺は向かい風を楽しんでいた。




 そんな時だ




「おや、レンではないですか」




 交差点で信号を待っていたらしいリブラと遭遇した。


 どうやら変身して空を飛ぶでもなく、直接町を歩いて回っていたらしい。




「もう少しで元の体に戻れそうなんです。なので、すこし変身するのをセーブしようかと」




 もともとのリブラは俺の肩に届くぐらいには身長があった。しかし、俺のことを助ける際に異能力を限界がくるまで無理に使用したために小学生ぐらいの身長へと変り果てていた。


 しかし、どうやら光が見えたらしい。




「ようするに、あと少しってこと?」




 そう聞いた俺にリブラは強い瞳で頷く。




「もしかしたら次の戦いまでには全力を出せるかもしれません」




 全力を出したリブラがどの程度なのかはわからないが、今まで以上に頼もしくなることは間違いなかった。だから俺もなるべく協力できるようにリブラのことを支えようと決める。




「せっかくだし、ここから家まで一緒に歩くか?」


「ええ。ちょうど向かっていたところですし、私もそう提案しようとしていました」




 日が経つにつれリブラは俺に家にいる時間が少しずつ増えた。リブラが俺のベッドで寝て俺は同じ部屋にある椅子で突っ伏して寝るなど、夜を共にすることも少なくなくなってきた。


 俺たちは相棒として少しずつ絆を深めていっているのだった。




 ちなみにこのことを知った璃子に思いっきりドヤされてしまうのだが、それはもう少し先の話だ。






    ※






 すっかり暗くなった住宅街を二人で並んで歩く。


 リブラと一緒に歩くのは、本当に久しぶりな気がした。


 一緒の家にいることが多いとはいえ、リブラと俺は別行動をとることが多い。


 はじめのうちはペンダントとなって一緒に学校へ行っていたが、学校に危険はないと判断したのかリブラが学校に来る機会はあまりなくなった。


 だが、そんなリブラでも学校に来る機会がある。それは




「それはそうと、やはり漸化式は難しいですね。いまだに例題を見ないとまともに解けません」




 日本語や外国語などを不自由がない程度に覚えてしまったリブラは、算数や数学に手を出した。はじめのうちは時間や計算など、レベルの低い問題に苦笑していたリブラだが、中学生の範囲となった際に様子がガラリと変わった。




『一次方程式・・・なんですかこの呪文のような数式は!?』




 異世界ではそこまで数学などの分野は発達していないようだ。


 面白そうだと教科書を読み進めていたリブラだが、どっぷりと沼にはまってしまったらしい。


 今は高校レベルの問題に挑戦している真っ最中だ。


 意外にも、リブラはそこまで数学が得意ではないらしい。漢字や外国語などは一通りできるようになったリブラだが、数学に関しては行き詰まることが多く、いまだに苦戦しているようだった。


 一、二か月で高校二年生の葉にまでたどり着けてしまうリブラも相当優秀後思うが、本人の負けず嫌いなところもあって、素直に認めれないらしい。




 ちなみに俺が数学が得意だということはリブラには言っていない。言うと、余計な火種を生み出すことになりそうだからだ。




『レンに勝つまで、数学を勉強します!』




 そんな事を言いだされてしまったらたまったものではない。


 だからこそ適度に勉強を教えつつ、暇なときは逆に俺がリブラに異世界のことについて教えてもらうことが多くなった。


 文化全然違うようなので、いつか行ってみたいと思いながら俺たちはこの数日を過ごしていた。


 月が爛々と輝いており、俺たち二人のことを照らしている。住宅街にいるせいで今は見えないが、きっと星空だって輝いているのだろう。




「やあ、今日は月がきれいだね」




 そんな時だった。俺たちの目の前に一人の少年が立っていた。


 金髪でイケメン。まるで人生の勝ち組を表現したかのような少年だ。恐らく年は俺と同じくらいだろう。


 しかし俺はこの少年のことをフレンドリーには見られなかった。




(まったく気配に気づけなかった!?)




 この少年はいきなり目の前に現れたのだ。ここまで近くにいるのなら俺が気付かないはずがない。だが俺の気配感知に全く引っかからなかったのだ。




 そんな俺の心中など知らず、目の前の少年はなおも語り続ける。




「君たちだろ? 異世界の住人を倒して回っているのは。だから私も挨拶をしておこうと思ってね。なにせこれから敵となるようだからな」


「っ!?」




 異世界人。目の前の少年は間違いなくそう言った。つまりこいつは・・・




「まさか、異世界人のオセロ!?」




 俺はそう言ってしまうが、隣のリブラが慌てて否定する。




「いいえレン。彼はオセロではありません。恐らく彼はあなたと同じ、この世界の人間の・・・はずです」




 リブラもそう言うが、この少年の独特な雰囲気に言葉を詰まらせてしまっていた。




 この少年からは何も感じない。アズールやレインには強者にまとわりつく圧倒的な威圧感があった。しかし、目の前の少年から感じるのは異質な不気味さだけだった。




 だが、それでも俺たちはこの少年から目が離せなかった。否、離すことができなかった。




「どうやら異世界のことについて説明する手間はなさそうだ。それじゃまずはお互いに自己紹介でも・・・」




 目の前の少年がそんな事を言っているさなか、俺はリブラの方を見て、視線のみで会話をする。




(タイミングを合わせてこの場を離脱するぞ)


(ええ。正直、私も正解がわかりません)




 このときの俺たちは逃げることしか考えていなかった。この少年とは関わっていけない。俺のそう本能が警告していた。


 リブラでさえ、あの少年と関わることを避けようとしているようだ。彼女も、あの少年から距離をとるべきだと判断したらしく、俺の方に体を寄せていた。


 俺が隙をつきリブラを抱えてこの場を離れる。


 リブラの変身の際に発生する光を目くらましにするのもありだが、できれば彼女に余計な力を使ってほしくはない。案の定リブラもできるのならそうしたいらしく、俺のことを頼って視線でうなずいていた。




 そして俺がじわじわと足に力をため始めた・・・その時だった。




 パァン!




 乾いた音が俺の耳を刺激した。




「な・・・」




 この時の俺はどんな顔をしていたのだろう。だが、そんなことを考える余裕もなくなっていた。




 穴だ。




 俺の足元のコンクリートを穿つように、拳ほどの穴が開いていたのだ。


 薄い煙がもくもくと立ち上り、その威力を物語っていた。




 目の前の少年は顔色一つ変えずに俺たちのことを晴れ晴れとした笑みで見守っていた。




「悪いね、君たちが逃げようとしていたみたいだから威嚇射撃をしてもらったんだ。頼りになる仲間に恵まれて、私はうれしいよ」




 目の前の少年は不自然に手を挙げていた。どうやら誰かに何か合図を送ったように見えた。


 だが俺は振り返ることができず、目の前の少年を食い入るように見つめていた。


 すると




「そういえば、この前はウィッチが世話になったようだな。確かに、君ほどの力なら彼女とそれなりに渡り合えるかもしれないな」


「!?」




 ウィッチ。


 この男はそう言った。俺が以前、死闘を繰り広げた相手のことを。


 もしかしてこいつは、こいつらは・・・




「さて、改めて自己紹介をしようか。私はコマンダー。そして今君の攻撃したのがスナイパー。よろしくと言いたいところだが、今日は君たちに挨拶をしに来たんだ」




 コマンダー。そう名乗った少年は俺たちに対して不敵な笑みを浮かべ告げる。




「我々は君たちのことを一人残らず殺す。その準備はできてるか?」


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