第7話 運命の交差
怒りに顔を染める大人たちが俺のことを睨んでくる。しかも不気味な黒い物体付き。今にも逃げ出したくなるが後ろの子を放って逃げるのも目覚めが悪い。
だから俺はポキポキと関節を鳴らし自らを鼓舞して気合を入れる。
「誰だ坊主? お前に用はない。とっとと元の町に帰んな」
(元の町? やっぱりここの他に町があるみたいだな)
嫌な汗をかきながらも、俺はこいつが呟いた言葉を聞き流さなかった。ここを切り抜けたら他の町を探してみよう。いや、これから助ける後ろの子に聞くのもありかもしれない。恩を売るようで悪いが俺も手段を選んでいられない。
「そっちこそ、複数で一人の子を追いかけまわしてダサいと思わないの? 俺が代わりに相手してやるから、大人しく元居た場所に帰れよ」
「貴様っ・・・」
完全に切れたのか、指揮官の男は俺に刃を向けるように抜刀する。その周りでたむろしていた連中もそれに合わせてそれぞれ武器を構える。
「その者を庇うのであれば、貴様も反逆者と認定する。その命、貰い受けるぞ」
「・・・こいよ。返り討ちにしてやる」
両者ともに臨戦態勢。何かきっかけがあればすぐに戦闘に移行するであろうこの状況。そしてそれは俺の背後からかけられた言葉によって始まる。
「ダメ! その人たちと戦ったら・・・」
「?」
フードでよく見えなかったが、声からして後ろにいるのは女の子のようだ。俺はつい後ろの方へ顔を向けてしまう。周りの連中がその隙を見逃すはずはなく一斉に俺に襲い掛かってきた。
『インストール』
俺は慌てることなく異能力を発動し下半身を横に捩じる。
エアロステップが使えるようになってからというもの、足技の威力が格段に上がった。足から衝撃波を放てるようになったということもあるが、もともと蹴りは拳の二倍の威力が出るという風説もある。
「ぐおっ!?」
回し蹴りの衝撃波で吹き飛ばされた男たちが次々地面に投げ飛ばされる。練習していただけあってかなりの練度で繰り出すことができた。
オセロのように影を使う相手だったり、璃子のように遠距離から攻撃してくる相手にはほとんど効果がないのだが、このように近距離で戦うときには非常に強力な手札となる。
「・・・キミは一体?」
後ろの少女は一瞬の出来事に放心したのち、呟くようにそう言った。決して弱っているようには見えない少女だが、怯えというより疑問という方が大きいようだ。
俺が少女の方に歩み寄ろうとしたその時、人間ではない生き物の声が聞こえた。
「ブルル」
「?」
何だ?
そう思い振り返った時、俺は思いっきり吹き飛ばされていた。
「うぐっ・・・」
一瞬だけ目で捉えることができたのは、触手のように伸びてくる黒い靄だった。
オセロの攻撃を彷彿とさせる一撃だが、明らかにそれとは異質なものだと直感する。
(こいつらは魔物か? いや、手懐けられてるしこの世界特有の動物?)
俺の中に疑問が溢れてくるのと同時に、先ほど俺が吹き飛ばした男たちが続々と起き上がる。先ほどの黒い動物は奴らのところへ戻っていき、付き従うように横に並ぶ。
「ガキがっ・・・やってくれたな」
(・・・無傷!?)
死なない程度に多少の手加減を加えたとはいえ、男たちはダメージを受けた様子がない。むくりと簡単に立ち上がり、何事もなかったかのように再び得物を構える。
その顔は相変わらず怒りで染まっていた。
「・・・ならいっそ、バーストで」
そう考えるが俺は躊躇してしまう。あれは簡単に人を殺し得る威力を発揮できる。彼らはかなりの耐久力を持っているようだが、もしかしたらバーストの威力に耐えられないかもしれない。
そうなってしまえば俺は単なる人殺しだ。
魔物を倒して回ることにすら罪悪感を感じていた俺がそんなことをしてしまえば冷静を保つことはこの先一生できなくなるかもしれない。だからこそ俺は躊躇ばかりしてしまう。
「まともに戦っちゃダメ!」
俺が一歩を踏み出せずにいると、俺の後ろにいた少女が大きな声で俺に警告を発する。
「その人たちは絶対に死なない! 生き残りたいなら時間を稼いで! そうしてくれれば・・・あとはこっちでどうにでもするから!」
「・・・」
俺は頷くことこそしなかったが、その少女の言葉にすべてをかけることにした。できるかもわからないことをやるより、人を信じてみることにした。というより、それしか手段がなさそうだった。
「何をするかわからんが、今度こそ死んでもらうぞ反逆者ぁ!」
再び俺のもとへと特攻してくる男たち。先ほどの少女がこの男たちは絶対に死なないと言っていた。ならば、その言葉を信じよう。
『
俺は瞬間火力を最大にして、地面に自身の踵を振り落とした。今まで拳で衝撃波を放つ攻撃だったが、バーストで足技を放つことも可能。
「「「「「うわぁーーーーーーー!!!」」」」」
巻き込まれた男たちの絶叫が聞こえた。うまいこと攻撃が命中したのだろう。
衝撃波が正面に飛ぶのはもちろんの事、数メートルにわたる地割れが発生し、あたり一面に小規模な砂ぼこりが巻き上がる。間違いなく拳で攻撃するよりも強力な攻撃だ。周辺環境を変えかねない一撃なのでそう簡単には使えそうにないが、威力を確かめられただけ十分だ。
「というか・・・」
気のせいかもしれないが、なんだかこの世界に来てから調子がいい。いつもは疲労が反動としてずっしり来るのだが、今日に限ってそれが来ない。花たちに襲い掛かられた時からそれは継続しており、今の俺は格段にレベルアップしている気がする。
「ありがと・・・これで何とかできる」
するとずっと後ろにいた少女がいつの間にか俺の横に立っており、男たちがいるであろう方角に向かって両手をかざす。
「さあ・・・元の場所に帰って」
はらりと、少女がかぶっていたフードが砂ぼこりに巻き上げられ捲れる。するとそこから出てきたのは雪のように白い髪だった。いや、銀髪といっていいのかもしれない。
その姿はまるで・・・
『
少女が異能力を発動した次の瞬間、目の前にいた男たちの気配が消えた。先ほどの黒い動物たちも同様であり、俺たちの目の前には誰も立ち塞がっていなかった。
「さあ急いで! あの人たちは消えたわけじゃない。状況が分かればまたここに戻ってくる!」
少女は俺の手を取り走り出す。門番たちは相変わらず無関心でこちらを見ていたが追いかけてくることはなかった。
(この子・・・異能力者だったのか)
なんとなくそうかもと思っていたのだが、いったいどういう力なのだろうか。そんなことを聞く暇もないまま俺たちは一心不乱にもと来た草原を駆け抜ける。
すでに追手が来る気配はないのだが、それでも少女は一生懸命走っていた。
(って、意外と体力あるんだな)
俺が男だということを差し引いてもこの少女がなかなかの運動神経を持っていることが肌で感じられる。たぶんあれだ、体育の成績で難なく5をもらえるタイプだ。
俺とこの少女。
このの出会いが俺の運命に新たな歯車を加えるのだが、それはまだ先の話。
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