第9話 暗中模索
金曜日。普通の人にとっては休日前の忌まわしい日だ。だが俺にとっては最も因縁がある曜日と言っていいだろう。
謎の異能力者に殺されかけ、リブラと出会い、そして葉島から異能力者を助け出した。
そのいずれも金曜日に起きたことだ。ここ数週間は落ち着いているが、何かと厄介な曜日として俺の中で印象ずいていた。
「それに、学校があるし・・・」
森が相当荒らされており、普通なら警戒して行動を慎重にするが、俺は学生なので普通に学校へ登校しなければならない。
しかも、璃子との一件も抱えてしまっているのだ。慎重どころの話ではなかった。
璃子との件は断片的に葉島にも伝えてある。葉島も失踪の事は伏せ情報を集めてみるそうだ。
「おはようございます、レン」
ため息をつきながら朝食の準備をしているとリブラが窓から入ってきた。どうやら見回りは終わったらしい。
「おはよリブラ。もうすぐ朝食ができるから待っててくれ」
そう言いながら俺は手際よく、テーブルの上に出来上がったものからどんどん並べていく。
今朝はシンプルにご飯とみそ汁、そして目玉焼きとサラダだ。最近リブラは米にはまっており、チャーハンなどを作った時はとても興奮していた。ここしばらくの朝食は米が続いており、そのたびにリブラが目を輝かせてくれるので本当に作り甲斐がある。
「それじゃいただきます」
「はい。いただきます」
すっかり使い慣れた箸を使ってリブラがご飯を食べ進める。一口食べるたびに笑顔になってくれるので、一人で食べるよりもみんなで食べたほうがおいしいという言葉は真実なのだと実感した。
「それでリブラ、あの後はさすがに何もないよな?」
俺は恐る恐る尋ねる。するとリブラは飲んでいた味噌汁を置き
「ええ。さすがにあれだけ森を荒らしたのです。あれ以上は派手に動けないでしょう」
そう言ってサラダに手を伸ばす。最近お気に入りになった、しそ風味のドレッシングをかけ、おいしそうに食べてるのを見ながら俺は安心する。
調べたところ神社を管理している人が森の異変に気付き、森を全面的に封鎖してしまったそうだ。警察などが絡んでいるのかはわからないが、当分あの森には入ることができないだろう。
「どうする? どこで異能力の練習をしようかな」
「アズールがいた工場の廃屋という手もありますが、あそこは危険ですしね」
あの戦いでさらに建物が傷みいつ崩れてもおかしくないそうだ。それにアズールがいたということはあの場所を知っている異世界人がいるかもしれない。だからこそ俺たちはアズールとの戦い以降、あの場所を訪れてはいなかった。
つまりもう異能力の訓練そのものができなくなるかもしれない。それを覚悟して異世界人と戦っていかねばならないのだ。そう考えて俺は不安になってしまう。
「レン、食事の時ぐらいは嫌なことは忘れましょう。でないと、食材に失礼ですよ」
「ああ、ごめん」
そう言って俺は目玉焼きに手を伸ばす。焼き加減は絶妙で黄身が溶け出してくる。
(あ、おいしい)
自分で作っていてなんだが、ここ最近で俺の料理スキルはメキメキ向上している。きっと誰かに食べてもらっているからだろうな。
俺たちは食事を食べ終えた後、いつものように学校へ向かうのだった。
※
あっという間に昼休みになり俺は葉島とともにリブラを送り出すために校外へと来ていた。最近では俺と葉島が一緒にどこかへ行くのに追及してくるものもいなくなった。どうやらクラスにも慣れが生じてきたらしい。
「それでは二人とも、何かあったらすぐ逃げるように」
「そっちこそ、気をつけろよ」
「そうだよリブラ、私たちこれでも心配してるんだからね」
リブラは強いまなざしで頷きながら大空へと飛び立っていった。放課後待ち合わせる約束をしており、今日からしばらく一緒に帰宅する予定だ。
「そういえばね、水嶋君」
「ん? どうした葉島」
葉島が何かを思い出したかのように、俺に教えてくれる。
「佐藤さんのことで新たに分かったことはなかったんだけど、水嶋君が言うにはその周辺で異変が起きてたかもしれないんだよね」
「ああ、俺はそう思っている」
佐藤和奏がいきなり消えた原因は何か。本人にないとするとその周りに何かがあったとしか考えられない。襲われたという線もあるがどちらにしろ情報が足りない。
俺たちは完全に後手に回っており、無理矢理にでも追いついていくしかないのだ。
「私ね、校内事情に詳しそうな先輩と知り合いなの」
「校内事情?」
そう言われ俺は首をかしげる。
葉島はあの事件以降、交流関係の質を向上させた。どうやらその中に校内のゴシップに詳しそうな人がいるらしい。
「もしかしたら、学校に関することで何かがあったのかもしれないでしょ」
「まあ軽音楽部では問題がなかったらしいからその線は薄いって思ったんだよな」
「それでも念のためだよ」
どうやら葉島も佐藤和奏失踪事件の方に力を入れてくれるらしい。
リブラは異世界人と氷使いの捜索。
俺たちは佐藤和奏の失踪に関する謎の解明。
相談の結果、俺たちは役割を分業しながら同時並行で調査を進めていく方針となった。
そして葉島も全力を尽くしてくれている。
ならできることはすべてやってみよう。そう思った俺はその人に会ってみることにした。
「わかったその人に会いに行こう」
「うん。でもちょっと変わった人だから・・・」
「変わった人?」
葉島いわく、どうやらクセのある人物らしい。葉島も妙に苦笑いをしている。
「ちょっと子供っぽいというか、面白そうなことには目がない人?」
その人のことを知っている葉島も疑問形だった。どうやらその人物の性格をつかみかねているらしい。
会いに行くのは放課後ということになった。ありがたいことに葉島がアポを取ってくれるようだ。
俺はそのまま教室に向かう葉島と別れあらかじめ持っていたお弁当箱を抱えながら急いで屋上へと向かう。
今日はもう一人の人物と約束をしているのだ。
「遅いぞー、蓮」
すると金髪をなびかせた璃子が俺のことを待っていた。今日は彼女に昼食を一緒にどうかと誘われていたため、吾郎と龍馬にきちんと断ってからこちらへとやってきた。
璃子は既にお弁当を広げており、何なら半分くらいまで食べ進めていた。
「悪いな、ちょっと人を訪ねることになって」
葉島の存在を伏せ、俺は放課後に謎の先輩と会いに行くことになった旨を伝える。
「どゆこと?」
「ああ。放課後会いに行くんだが、璃子も来るか?」
璃子に来てもらった方が恐らく話がスムーズに進むだろう。何せ初対面の先輩なのだ。しかも女子生徒ということらしいので、男の俺が行っても怖がらせてしまうかもしれない。
葉島は珍しく家の用事があるらしいので、今日はまっすぐ帰るそうだ。
だからこそ璃子に来てほしいのだが・・・
「別にいいけど」
「即答だな」
二つ返事で答えてくれた。友達のことがかかっているのだ。すがれるものにはすがりたいし、できることは全てやりたいのだろう。
「それで、どんな人のところに行くの?」
「えっと・・・確か・・・」
俺はぱっと出てこない名前を無理やり記憶からひねり出す。
「そうそう、三年生の服部先輩って人なんだけど・・・」
その名前を出した瞬間、璃子が飲んでいたお茶を噴きだした。
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