第21話 襲撃作戦
「ま、マジで疲れた・・・」
俺はフラフラになって夜道を歩いていた。唯一花咲は背筋をピンと伸ばして歩いているが、それ以外の面々は完全に疲れ切っている。
俺たちはあの後、森にいるほぼすべての魔物と交戦した。おそらく森にいる分の魔物は殲滅できただろうが、まさかあそこまで多いとは思ってもみなかった。
「あんなことやるなら、せめて最初に言ってくれよ」
「言ったら、極限状態のあなたたちが見れないでしょ?」
「疑問形で返してくんな!」
ひどい目にあったが、どうやら俺たちは花咲のお眼鏡にかなったらしい。少なくとも昨日のような壁は感じられない。きっと仲間として認識してもらえたのだろう。
「さすがに、今日はこのまま帰りますよね?」
クロエさんは俺以上に疲れていた。何度も『転移』を多用して魔物たちを翻弄していた。彼女がスタミナタイプとはいえそのスタミナも完全に尽き果てているようだ。リブラはまだいい方だが、それでもフラフラだ。
「さすがの私もそこまで鬼じゃないわ。今日はこのまま帰宅。明日は少し違うことをする」
「違うこと?」
正直明日のことは考えたくないが、花咲はまた何かをしようとしているらしい。ある意味、遊香先輩よりも厄介な性格をしている。
「昨日の異世界人。その、討伐」
「「「!!!」」」
俺たちは三人して息を呑んでしまった。まさかいきなりオセロと戦うとは思っていなかった。覚悟をしていなかったわけではないが、こんな風に言葉にされるとピリピリとした緊張感が俺たちの間に漂う。
「というか、居場所がわかるのか?」
「それに関しては、そこのお嬢さんの方が詳しいんじゃない?」
そう言って花咲はリブラの方に目を向ける。するとリブラは顔を伏せて複雑そうな顔をして頷く。
「オセロは異能力を使って常に影に潜んでいます。ですから、町が影に包まれる時間帯。すなわち夜になればどこからでも会えるはずです」
「どこからでも、会える?」
「ああ、そういう・・・」
俺は首をかしげてしまったが、クロエさんは今の言葉で察しがついたらしい。俺の疑問を解消するためにリブラが続けて話してくれる。
「オセロの異能力は影に影響を及ぼす力。彼は影があるところならばどこへでも潜めるし、地続きでさえあれば何処へだって行けるのです」
「それって・・・」
「はい。町を覆う影の中。そこのどれか、あるいはすべてにオセロは繋がっています」
要するに会おうとすればいつでも会えるということだ。だがそれなら脅威になるはずだ。そんなことができるのなら、いつ俺たちが襲われてもおかしくない。というか今まで襲われたことがない方がおかしいのだ。
「オセロの力にもいくつか制限があります。あの影移動は、彼が万全の状態でないと使えません。この世界にやってきた当初の彼は、向こうで私と戦っていた時の傷が癒えていませんでした。それに加え、この世界でのウィッチとの戦闘。そして私の追撃。さすがの彼も回復に時間を要すると思って今までノーマークでいたんです」
「なるほど、要するに怪我をしているときは安易に使えないと・・・って待て、ウィッチとの戦闘?」
俺の脳裏によぎるのはつららを次々と投げつけてくる白フードの彼女の姿。この前戦闘したおかげでその印象も新しく更新されている。まあ、かなり危なかったんだが。
するとリブラが言いにくそうに、俺の顔色をうかがいながら話し始める。
「私が最初にオセロを見つけた時、彼はウィッチと戦闘をしていました。勝負はウィッチが優勢で、私が介入するまでもなくほぼ決着がついていました。あなたが現れるまでは」
「俺?・・・あ、もしかして・・・」
俺は自分が殺されかけた時のことを思い出す。あの時、掘っ立て小屋のような建物が燃えていた。あれはてっきりオセロがやったものだと思っていた。
だがそこにウィッチが介入するのであれば話は変わってくる。先日の戦いでウィッチが炎の力を操れるのが判明した。ようするに、あの火災はウィッチが起こしたものなのだろう。そして俺の存在に気づいたせいで、勝負が一時中断してややこしいことになった。そんなところだろうか?
「いろいろと補足するべきところはあるでしょうが、大方レンが考えた通りだと思います。あの戦闘で、私はオセロを逃がした。しかし彼も重傷で影に潜むことしかできなかったはずです。あとは、どこの影に潜んでいるのか見つけるだけ」
「もしかして、町の見回りに行っていたのは」
「はい。異世界人を見つける、というよりもオセロがいる影を見つけ出すことに力を注いでいました」
出会ったばかりのリブラはしょっちゅう夜の街に繰り出していた。あれにはそんな目的があったのかと俺は驚きと同時に腑に落ちる。きっと必死に、夜の町を飛び回ったのだろう。
「おそらく彼はすでに回復したうえで影に潜んで様々なところに移動しているのでしょう。そしていろいろなところに魔物と放っている」
「魔物を影の中で飼ってたのか」
「おそらくは」
あれだけの数の魔物を飼っていたのだから魔物使いとしての側面もあるのだろう。それに加え、魔物は現在進行形でどんどんあふれている。このままいけば、騒ぎが表に出てしまうかもしれない。
「それで、オセロのもとにたどり着くには?」
話の流れを一時遮って、花咲がリブラに詰めかける。もしかしたら、花咲も詳しい場所はつかんでいないのかもしれない。
「彼が隠れられる影は、太陽か月などの自然光に照らされてできたものでなければいけません。それに加え、彼の体よりも大きな影出ないと潜ること自体ができない」
「まさか、そこから絞れと?」
それは何でも該当する条件が多すぎる。この街にできたそこそこ大きな影を一つ一つ巡るとなると、どれだけ時間がかかることか。闇雲に街を歩くことはできれば避けたい。というよりもさすがに面倒くさい。
「さすがにそれは難しいです。ただ、オセロは気づいていないのですが、彼の異能力にはちょっとした癖があるんです」
「癖、ですか?」
クロエさんはリブラにそう問いかける。
「ええ。彼は影を移動するとき、ちょっとだけ揺らぎが生じるのです。私はいつもそこから彼の居場所を割り出していました」
リブラはあの日、オセロの居場所を瞬時に把握していた。俺はリブラの動きばかりを見ていて気付かなかったが、よく見ればわかりやすい目印ができるのだろう。
「そしてそれは、ただ潜伏しているときでも変わらない。つまり、彼がいる影には、ほんの少しだけ揺らぎが生じる。それさえ見つけられれば、あとはその影に向かって攻撃をするだけです」
「それ、結局厳しくない?」
花咲はそう評価する。そんなことをしていては、日が暮れるどころかいつまでたっても見つけることができない。そんな条件が分かったとしても、結局町のどこに潜んでいるかを絞ることはできないのだ。
「オセロの癖はもう一つあります。彼は、お気に入りの影が見つかるとずっとそこに居続ける。つまり、同じ影に潜伏し続けるということです」
「あなたは今まで調査をして見つけられなかった。それならば」
「はい。すでに場所はいくつか絞れています。彼がいるかもしれない、影がある場所を」
リブラは今までオセロを見つけることができなかった。それは、その場所の影にオセロが潜んでいなかったからだ。つまりもうそこを調べる必要はない、ということだろう。
「私はこの街を、駅がある地点を中心として南から順番に巡っていました。そして西、東の方角にも彼はいなかった。それがこの数か月間での成果です」
「それに先ほどの話を合わせるとするならば、彼がいるのは駅から北の方?」
「その、はずです」
リブラは少し自信がないのか謙遜気味にそう言った。しかし、これは大きな手掛かりになるはずだ。
ちなみに俺の家は駅から南側の方角にある。そして駅を越えて北側へ行くとするならば・・・
「それって、璃子の家がある方だよな」
「そうです。璃子の家やレンがレインと戦った神社がある場所ですね」
もしかして、俺とレインが戦っているとき、オセロも近くにいたのではないか。そう思うと少しだけ身震いしてしまう。
(もしそうだとして、あの時手を出されなかったのは怪我が癒えてなかったから?)
それならば、俺は九死に一生を得たということになる。あの場面で新たな敵に手を出されていたら、俺は間違いなく死んでいた。
「それなら明日は、その方向へ行ってみましょう。もし可能ならば、あなたたちがオセロを討伐なさい」
「わか・・・ん? あなたたち?」
話のまとめ方に違和感を覚えた俺は、花咲の方を振り返る。
「あら? 言ってなかったかしら。私はあなたたちの味方だけど、一緒に戦うとは言っていない」
「え、ちょ、はぁ?」
「まあそれは建前よ。あなたたちとあの異世界人がやり合っているとき、私は別で動かなければいけないの」
「それってどういう?」
花咲は花咲で、何かをしようとしているらしい。そして、彼女の顔は何かの覚悟を決めた人物のような顔をしていた。
「あなたたちが気にする必要はないわ。あなたたちは、あなたたちの思うようになさい」
そう言って、この日は解散ということになった。
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