第2章 エピローグ
あの戦いから数日が過ぎた。
あの後駆け付けてくれたリブラにその日あの場であった出来事の後処理を一任した。
俺たちがあの場にいても役立たずになることはわかっていたし、俺たちに何かする気力はもう残っていなかったのだ。
『とりあえず後のことは任せてください』
リブラがそう言ってくれたので、俺はレインの死体を任せ璃子とともに鳴崎家へと帰った。
リブラの登場に璃子は驚いていたがその話もあとで説明すると言い聞かせ俺たちは神社を後にする。
何とか夜明け前に帰ることができ、透矢さんたちには昨夜家を抜け出したことがばれていないようで俺たちはほっとした。
しかし
『今までの事とかぜーーーーんぶ、説明してもらうからね!!』
さすがにもう誤魔化すことができず、俺は眠いのを我慢しながら璃子に今までのことを話していた。
葉島のことを話したら璃子は納得した様子でどこか安心したかのような様子を見せた。
しかしリブラのことを話した時、これまたものすごい剣幕で俺に根掘り葉掘り質問攻めをしてきた。
『あの子は何! また新しい女かぁ~!』
何やら璃子は一人で悶絶していたが俺はそれを気にせず話を続けた。
すべてを聞き終えた璃子は真剣な表情をして俺に問いかける。
『それって、まだ終わりそうにないの?』
どうやら璃子は俺のことを心配しているようで、不安そうな顔を見せる。
だから俺は偽ることなく現状を伝えた。
『ああ。まだ隠れている異世界人がいるし、あんな感じの奴がまだこの町のどこかではびこってるみたいなんだ。俺はそれを止めたい』
俺がそう言うと璃子は黙ってうつむいているかと思うと、向き直ると同時に俺の手を握りしめる。
『璃子?』
俺が璃子の方を見ると今まで見たことがないような真剣さだった。
『蓮、お願いだからあんな風に危ないことはしないでね。あんたが死んだら悲しむのはあたしだけじゃないから。それと約束・・・何かあったらすぐにあたしを頼って。あたしだって蓮の力になれるから』
『璃子・・・』
俺の手を握る璃子の手は震えていた。だがそれでも少しずつ握る力は強くなっているようだった。
『ああわかってるよ。だからこれからもよろしくな』
そう言うと璃子は太陽のような笑顔で
『さっすが、それでこそあたしの幼馴染だ』
そんな事を言うのだった。
そして現在、俺はリブラと一緒に神社に来ていた。
現場検証のようなものをするため、一応戦闘のはじめからレインが死んでしまうまでのすべてを現場を指さしたり動作を加えて説明した。
「本当にレインに勝ったんですね・・・レン」
俺がレインを下したことを伝えたとき、一番驚いていたのはリブラだ。
少し傷つくが、リブラも俺がレインに勝てるとは思っていなかったんだろう。
しかしレインと実際に戦ってリブラの心配が間違っていなかったことを痛感する。
俺があの時勝てたのは、璃子のおかげだ。璃子が後ろにいてくれたから、俺は限界を超えて戦うことができた。俺一人だったら何度諦めていたかわからない。
(こんなこと面と向かって言えないけどな)
だから心の中で感謝するにとどめておくこととする。
そして俺たちはレインが最後を迎えたところまで歩いていた。
「ここでレインが何者かに殺されたと?」
「ああ、氷の棒が飛んできたんだ。多分弓矢のようなものだったんだと思う」
「氷・・・」
これで思い浮かぶのは俺が前に戦ったウィッチと名乗った氷使いのことだ。
俺はあの女が近くにいたことに全く気付くことができなかった。ウィッチがその気なら俺はあっけなく殺されていただろう。
そして俺はレインが言っていた異能力が使えるようになった者たちのことを話し出した。
「やはりいましたか・・・しかし妙ですね、どうして組織なんかを作れたのでしょう」
以前から危惧していたことが現実になってしまったためリブラは何とも言えない表所になる。
しかし今リブラが言っていたことも確かに妙だ。いったいどうやって組織なんかを作ることができたのか。アビリティストーンを拾った人間など、めったに遭遇できないだろうし利害が一致することなどほとんどないだろう。
なにより、そいつらの目的が分からなかった。それが俺たちをなおさら不安にさせるのだった。
「そういえばリブラ、レインの死体はどうなったんだ?」
レインや俺が流した血はおろか、建物が崩壊した痕跡まできれいさっぱりなくなっていた。いわば、神社が元の状態に戻っていたのだ。
「向こうにいる私の仲間に協力を仰いだのですよ。さすがに私一人では手に余るのでこちらの世界に来てもらったのです」
「来てもらった!?」
これはこの時に分かったことだが、転移系の異能力者がこちらの世界に応援を呼んでくれたらしい。そして異能力集団が総力を挙げ、一夜で神社の復旧作業が行われたのだとか。
「彼らは仕事があるので帰ってしまいましたが、頼れるときは頼りになる者たちですので」
どうやら王宮の異能力者にも尋常じゃないほどの手腕と膨大な仕事量があるらしい。
俺たちはこの世界で数人程度の異能力者に手こずっている。あちらの世界では多くの者が異能力者らしいので、その苦労は計り知れないだろう。
「レン、あなたの幼馴染には何と?」
リブラは俺が璃子にどこまで話したのかを尋ねる。そして俺は肩をすくめながらリブラに応える。
「全部話したよ。俺がそうするべきだと思ったから」
関わるどころか、巻き込まれて被害を被ってしまったのだ。全てを話さないと納得してくれなかっただろう。
(というか、余計なことまで言っちゃったな)
リブラのことをしつこく追及された際、一緒に寝泊まりしていたことを話してしまったのだ。
毎日ではないとか、半同棲だとか、意味の分からない言い訳をしてしまったがそのことで璃子の尋問が長くなってしまったのだ。おかげで今日は寝不足である。
「確かのあの方にもその権利はりますね。一歩間違えれば取り返しのつかないことになっていたと思うので」
今度私も会ってみましょう。リブラはそんなことをつぶやきながら改めて俺に聞いてくる。
「それで、壮絶な戦闘があったことはわかりますがそれにしては元気ですね?」
「ああ。異能力が覚醒したおかげで治癒能力を意識して使えるようになったんだ。おかげでいつもより治りが早くてな」
今回の戦闘で最も大きな恩恵をなしてくれたのはこの能力だろう。これからも重宝することになりそうだが、そんな機会は訪れないことを願うばかりだ。
「そういえばリブラ、璃子が気になる事を言ってたんだ」
「気になること?」
そう言って璃子との会話を思い出す。
『そういえばあの時さ、変な感じがしたんだよね。ありえないとは思ったんだけど・・・』
『? どうかしたのか』
『ううん、たぶん気のせいだと思う。あの人が死んだ瞬間森の方を見たの、そしたら・・・』
不安げな表情を見せ璃子が呟く。
『和奏が、いたような気がしたの』
これをリブラに伝えると、リブラは深く考え込むように顎に手を当てる。
恐らくリブラも俺と同じことを考えているのだろうが、俺たちはその問題をいったん置いておくことにした。
「レン、恐らくこれからはもっと苛烈な戦いになるでしょう。今回の戦いがいい証拠です。あなたがいなければ、どんな残酷なことになっていたか・・・」
確かに、今回のことは本当に幸運だったかもしれない。異能力覚醒以前に、少しでも歯車がずれていたら悲劇は防げなかった。
もし俺が佐藤和奏の捜索に協力していなかったら?
もし俺が璃子の異変に気づけなかったら?
もし俺が璃子の家に泊まっていなかったら?
もしもの可能性が、浮かんできては消えていく。今回璃子を救えたのは奇跡に近かったのだ。
「それでレン、あなたにお願いがあります」
「なんだよ改まって?」
リブラが俺のことを見上げ真剣なまなざしで俺に言ってくる。
「改めてお願いします。どうか、あなたの力を貸してください」
そんな事を言われてしまったので、俺はしばらくきょとんとしてしまった。
しかし数秒後には思わず笑ってしまった。
「レン、どうしたんですか?」
リブラが心配そうな表情を見せてくれるが、それがまたたまらなくおかしくなってしまう。
「いや、いまさらそんな事を言われてもさ。わかったよ、俺からも改めて言うよ。最後まで俺に協力させてくれ。俺はとことん付き合うからさ、相棒」
そう言うとリブラは呆れたような笑顔を浮かべ俺に言ってくれる。
「ありがとうございます・・・相棒!」
幼馴染と異世界人の少女。
俺は改めて二人との絆を実感し、そのぬくもりさえあればどこまででも行けるような気がするのだった。
第2章 完
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